病棟看護師にすすめたい「退院後訪問指導」

自由時間

退院後の患者の暮らしぶりが
気にかかりますか?

退院支援を担っている看護師さんが、よくこんな話をしてくれます。「自分がかかわって自宅に退院していった患者さんの、その後の暮らしぶりが気になることがよくあります。あのような支援でよかったのだろうか、と……」

とりわけ退院後も経管栄養や吸引処置などが欠かせない医療ニーズの高い患者や、失禁などが続く状態で在宅療養に移行した患者のことなどが、気になるとのこと。

退院時点で家族は「私がしっかり介護します」と話していたものの、実際に四六時中気の抜けない生活が続くなかで、「家族が介護疲れしていないだろうか」「患者さんがつらい状況に置かれていないだろうか」などなど……。次々と不安要因が浮かんでくると、話してくれたものです。

気がかりなら、担当のケアマネジャーや訪問看護師から情報を得ることはできます。でも「どのような暮らしをしておられるのか、自分の目で直に見て、もし修正すべき点があればすぐにも修正を加えたい」のだと――。

2016(平成28)年度の診療報酬改定で、「退院後訪問指導料」が新設されたときは、「これで彼女たちの退院後の患者への気がかりが、少しは解消されるのではないか」と、少し安堵したのですが、ことはそう簡単ではなかったようです。

「退院後訪問指導料」を
8割超の病院が算定できていない

この指導料新設からほぼ1年が経過した2017年4月、日本看護協会は「2016年病院看護実態調査」結果を速報で公表しています*¹。このなかの「2016年度診療報酬改定への対応状況」をみると、「退院後訪問指導料」を「算定している」病院は、全体の12.7%(有効回答3549病院中452病院)にとどまっています。

「退院後訪問指導料」は、医療ニーズの高い患者がスムーズに在宅療養に移行し、安心・安全のもとにその生活を継続できるように、との考えから新設されました。

退院直後からの一定期間内に(退院した日からおおむね1か月間)、患者が入院していた病院の看護師などが患者宅を訪問して、患者や家族に、在宅療養上の指導を行った場合に、その活動が評価され、診療報酬料が算定されるというものです(上限5回まで)。

今回の日看協の調査で、この指導料を算定している病院は、退院後訪問指導の成果ともいうべき訪問指導がもたらす「影響」として、以下の点をあげています(多い順)。

  1. 患者や家族の不安が軽減された
  2. 訪問指導を行う看護師のスキルアップにつながった
  3. 在宅療養への移行がスムーズに進められるようになった
  4. 地域の訪問看護ステーション等へスムーズに引き継げるようになった
  5. 訪問指導で得られた課題に基づき、病院の退院支援を見直した

では、これだけの成果が期待できるというのに、退院後訪問指導料を算定していない病院がなぜ8割以上にも及んでいるのでしょうか。そこには、退院後訪問指導を行ううえで、何らかの課題があるからでしょうが、今回の調査では、以下の点がその「課題」としてあげられています。

  1. 訪問指導にあたる看護師の確保
  2. 訪問指導を行うための看護師の教育・研修
  3. 訪問指導の必要性の判断が難しい
  4. 患者・家族が退院後の訪問指導を希望しない

その人らしい生活再構築支援に
「退院後訪問指導」の活用を

在宅療養に移行する入院患者には、退院後のみならず退院前も患者宅を訪問し、家族などに必要な指導や環境整備などを行うことは、すでに数年前から回復期リハビリテーション病棟の理学療法士や作業療法士を中心に積極的に進められてきました。

入院が1月を超えると見込まれ、退院後は自宅に戻る患者には、退院前に患者宅を訪問して療養環境や介護状況が患者の状態に見合うかどうかチェックし、必要な指導を行う「退院前訪問指導」が、その人らしい退院支援の実践に欠かせない。そのポイントをまとめた。

その、退院前の患者宅訪問に初めて同行させてもらったという看護師のHさんから、やや興奮した声で電話を受けたことがあります。もう8年ほど前のことです。

当時のHさんは、退院支援看護師として神経系の内科病棟から回復期リハビリテーション病棟に異動したばかり。同僚の理学療法士が医療ソーシャルワーカーと退院前の訪問指導に出かけると知り、「私も是非行ってみたい」と同行させてもらったのだそうです。

この同行訪問は彼女にとって、想像を超える貴重な経験になったようで、こんな話をしてくれたことを、今も印象深く覚えています。

「私たち看護師は、その人らしさということを大切にして生活を再構築する支援を心がけているわけですが、だからこそその人が暮らす現場を見ないことには、その人らしい生活につなぐ支援はできないのではないかと、考えさせられました」

病院内にいて、患者や家族から得られる情報だけを頼りにイメージする退院後の生活には限界がある。現場に出かけて行ってこそ、その人らしい退院後の生活を考えることができ、よりその人に合った支援ができるのではないかと、彼女は学んだようでした。

新設された「退院後訪問指導料」は、退院支援や退院調整の質を高めることにつながるものであることを、H看護師の体験は実証していると思います。それだけに、さまざまな課題によりそれができないでいる看護師さんが少なくないのは、なんとも残念でなりません。

退院後訪問指導の対象患者
必要な説明と同意書

退院後訪問指導料算定の対象患者は、次に該当する患者となっています。

  1. 在宅悪性腫瘍等患者指導管理または在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある患者、または気管カニューレあるいは留置カテーテルを使用している状態にある患者
  2. 在宅自己腹膜還流・在宅血液透析・在宅酸素療法・在宅中心静脈栄養法・在宅成分栄養経管栄養法・在宅自己導尿・在宅人工呼吸・在宅持続陽圧呼吸療法・在宅自己疼痛管理・在宅肺高血圧症患者の指導管理を受けている状態にある患者
  3. 人工肛門または人工膀胱を設置している状態にある患者
  4. 真皮を超える褥瘡の状態にある患者*
  5. 在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している患者
  6. 「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」におけるランクⅢ以上の患者
  • 上記1~6に該当し、自宅、介護保険施設または指定障害者支援施設等で療養している患者で退院日から1カ月(退院日を除く)を限度に5回以内(1回580点)
  • 在宅療養を担う訪問看護ステーション等の保健師、助産師、看護師または准看護師と同行し、必要な指導を行った場合は、訪問看護同行加算として退院後1回に限り20点を加算
*「真皮を超える褥瘡の状態」とは、①NPUAP分類のⅢ度またはⅣ度、②日本褥瘡学会によるDESIGN分類のD3、D4またはD5を指し、医師が判断する。
なお、退院後訪問指導には以下の実施条件があります。
  1. 主治医の指示のもとに行うこと
  2. 患者側に訪問指導の必要性や費用などについて説明する
  3. 患者と家族による同意書が必要

このうち「3」の同意書の宛先は「病院長」とし、「退院後訪問指導について説明を受け、理解したこと」「理解したうえで、退院後訪問指導を受けることに同意すること」を明記し、患者本人もしくは家族の署名」を明記する。

地域ケア経験のない看護師は
在宅訪問の基礎を学ぶことから

そこで、退院後訪問指導料を「算定していない」と回答した病院が、その実現に向け課題としてあげた項目を改めて見てみると、そこには、病院をあげて取り組むべき課題もありますが、看護師さんが個々に準備しておくべき課題もいくつかあるように思います。

なによりも「在宅療養をしている患者を自宅に訪問して、そこで必要な療養指導を行う」ことは、普段病院内で実践している看護とは、かなり勝手が違います。

訪問先の患者や家族は、あなたのことを、看護師という職業人である前にひとりの人間として迎え入れるわけです。そこでは当然、訪問する際のマナーが求められます。

病院勤務の経験しかない看護師が退院前や退院後の訪問指導に取り組む際に気になるのは、訪問マナーではないだろうか。やはり好印象を与え、その後の患者サイドとの信頼関係につなげたい。ということで、気後れすることなく患者宅を訪問するための基本をまとめてみた。

また、在宅医療の現場には、すでにそこで日々活動しておられる専門職の方々がいます。彼らは、彼らなりのルールのもとに相互にお互いの専門性を認め合い、一定の関係性を保ちながら、チームを組んで活動しているわけです。

そのへんの多職種連携の大切さを認識し、万全の準備をしていかないと、訪問自体を拒否されたり、在宅医療チームのメンバーたちの協力が得られないリスクがあることにも、改めてふれておきたいと思います。

地域包括ケアシステム構想が打ち出されて10年余り。全国の市区町村で地域にふさわしい独自の取り組みが進むなか、課題も見えてきた。看護職ら医療関係者に関しては、コミュニケーションをとりにくいとの指摘が他職種から出ている。どういうことなのか―。

加えて、退院後の療養生活には医療と介護ともにかなりのお金がかかります。その経済的なことで不安や問題を抱えている場合の支援については、こちらを参照してください。

お金の話はタブー視されがちだ。退院支援で患者サイドの意向がはっきりしないときは、医療費や介護費負担への心配が隠れていることがある。利用できる助成・支援制度の詳細はMSWなどに託しても、その入り口の支援として看護師が引き受けたいことをまとめた。

もう1点、訪問先で患者サイドとトラブルなんてことになる可能性もゼロとは言い切れません。そんな時のための備えについて知っておきたいという方は、→ 「看護職損害賠償責任保険」はなぜ必要?を参考にしてみてください。

参考資料*¹:日本看護協会「2016年病院看護実態調査」結果