高齢者の低栄養対策に活用したい経腸栄養剤

栄養ドリンク

経口可能な経腸栄養剤で
低栄養の進行にブレーキを

加齢とともにさまざまな要因が重なって「食べる力」が衰えてくると、低栄養状態からサルコペニア、さらにはフレイルへと進行するリスクが高まります。そこで、その進行にブレーキをかける栄養面での対策として、栄養補助食品(Oral Nutritional Supplements:ONS)の活用が検討されるケースが多くなります。

栄養補助食品には市販ものも多種ありますが、医師が保険診療で医療用医薬品として使用するのは、主に4種類の経口摂取可能な経腸栄養剤(エンシュア・リキッド、エンシュア・H、ラコール、エレンタール)ではないでしょうか。

経腸栄養剤が、胃瘻や鼻チューブなどを介して行う経管栄養に多用されていることはご承知の通りです。加えて最近では、たとえば「誤嚥リスクがある」ため、通常の食事だけでは十分な栄養補給ができず低栄養に陥るリスクが高い患者などに、食事を補うかたちで、あるいは食事代わりに経腸栄養剤が使われるケースが増えています。

そこで今回は、少量でありながら高エネルギー(カロリー)で、しかもたんぱく質など必要な栄養素が効率よく補給できる上記4種の経腸栄養剤について、個々の特徴や使用上のポイントをまとめておきたいと思います。

なお、「低栄養」とは、健康的な体を維持するために必要な量の栄養素、特にエネルギーとたんぱく質がとれていない状態です。また、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下を指す「サルコペニア」の詳細はこちらを、また加齢に伴い心身が老い、衰えてくる状態を意味する「フレイル」の詳細はこちらを参照してください。

食事代わりにも選ばれる
エンシュア・リキッド

先の4種の経腸栄養剤のなかで一番人気が高いのはエンシュア・リキッドで、医師による経腸栄養剤処方頻度の半数近くを占めていると聞きます。

エンシュア・リキッドは、1mlが1.0kcalになるように調整されていて、1缶(250mlで250kcal)に、たんぱく質(8.8g)、脂質(8.8g)、糖質(34.3g)に加え、各種ビタミン、ミネラルなど、主要栄養素のすべてがバランスよく、しかも効率的に摂取できるように配合されています。

生活していくうえで必要なエネルギー量も栄養素も補給できますから、たとえば医師から誤嚥性肺炎(細菌が食事や唾液などと一緒に誤って気道に入り肺に炎症を起こす)のリスクを指摘されて胃瘻などの経管栄養を勧められたものの、「口から食べることを諦めたくない」からと、食事代わりにエンシュア・リキッドを選択する高齢者が増えているようです。

低栄養やフレイル対策に
高エネルギーのエンシュア・Hを

一方、より濃縮されていて1缶(250ml)で375kcalとエンシュア・リキッドの1.5倍のエネルギーと必要な栄養素がとれることから、低栄養やフレイルリスクの高い方、あるいはすでに低栄養状態にある方などに処方されることが多いのが、エンシュア・Hです。

エンシュア・リキッドにはストロベリー味しかないのですが、エンシュア・Hには、バニラ味、コーヒー味、バナナ味、メロン味、抹茶味、ストロベリー味、黒糖味など7種類の風味が用意されていて、三度三度の食事に利用しても飽きずに飲んでもらえるのが特徴です。

いずれもミルクセーキのような甘い味で飲みやすくなっていますが、高齢者のなかには甘さとドロッとした舌ざわりを嫌う方もいるので、そんな方には、ラコール(正式名は「ラコールNF配合経腸用液」)を処方する医師が多いようです。

ラコールなら
甘さが控えめで飲みやすい

エンシュア・リキッドもエンシュア・Hも甘くてドロッとしているのですが、ラコールは白糖(甘みを生み出すショ糖の割合が多い)を少なくしてあります。そのため甘さが控えめなうえにドロッとした食感がなく、普通の食材に最も近いため、スープの感覚で抵抗なく飲めるのが特徴で、「甘いのは苦手」という患者には好評のようです。

さらに、食事が十分とれない場合は食事代わり、あるいは食事を補うために飲んでもらえるように、ミルク味、抹茶味、バナナ味、コーン味のフレーバー(食用香料)が用意されていて、個々の好みに応じて風味を楽しめるようになっています。

また、エンシュア・リキッドもエンシュア・Hも缶入りですから、処方を受けて持ち帰るにはどうしても重くなります。その点ラコールは、アルミパウチ、つまりアルミ製の袋に入っていますから、特に女性患者には、軽くて持ち運びしやすいというメリットがあります。

牛乳アレルギーなら
エレンタールを

ところで、エンシュア・リキッド、エンシュア・H、ラコールの3製品は、いずれも牛乳たんぱく質を成分にしているため、牛乳アレルギーの患者は利用できないという問題があります。この問題をクリアしているのがエレンタールです。

エレンタールでたんぱく源として使われているのは、たんぱく質を分解し終えたアミノ酸ですから、牛乳アレルギーがあってもアレルギー反応が起きる心配がなく、安心して利用することができます。

ただ、エレンタールも他の3製品と同様医療用医薬品ですから、患者によっては「薬のような味やにおいが気になる」と敬遠されることもあるようです。

その場合に備えて、10種類ものフレーバーが用意されていますから、フレーバーを利用すれば薬臭さは気にならなくなるようです。10種類もあると選択に迷うでしょうが、特に青りんご味やグレープフルーツ味、ヨーグルト味に人気があると聞きます。

食事と経腸栄養剤をバランスよくとる方法

低栄養のリスクがある、あるいはすでに低栄養状態にある患者には、食事は少量ならとれるものの、それだけでは栄養的に不十分で、その不足分をエンシュアのような経腸栄養剤で補っているケースが少なくありません。

その場合、食事と経腸栄養剤をどのようなタイミングでとればいいのか迷う方が多いのですが、岐阜大学医学部の研究チームが、食事を妨げない経腸栄養剤の飲み方を提案しています。こちらで詳しく紹介していますから、是非活用してみてください。

「エンシュア」などの経腸栄養剤を食事の不足分を補う目的で飲んでいる方は、エンシュアを飲むタイミングや飲み方で悩む方が少なくない。食前に一気に飲めば食欲が落ちて食事を十分摂れないし、その逆も……。そんな問題をクリアする方法を紹介する。

経腸栄養剤による下痢の防ぎ方

また、経腸栄養剤は濃厚で浸透圧が高いため、飲むスピードが速すぎたり、冷たいまま飲んだりすると下痢を起こすことになりかねません。その予防法については、こちらを参照してください。

クダやチューブを介しての人工栄養を嫌い、口から食べることにこだわるときにエンシュアは強力な助っ人だ。しかし、その濃厚さゆえに下痢をしやすく、そのために諦めてしまうことは珍しくない。が、室温程度の温かさにして少量ずつゆっくり飲めば、下痢は防げるという話を。

経腸栄養剤にとろみをつける

なお、嚥下障害があり誤嚥リスクがある場合は、とろみ調整用食品(とろみ剤)を使って経腸栄養剤にとろみを付けて飲むことになります。

ただ、たんぱく質が多く含まれていて濃厚な経腸栄養剤にはとろみがつきにくいという問題があります。この問題をクリアするとろみのつけ方をこちらで紹介していますので、是非参考にしてください。

嚥下障害があるとエンシュアなどの経腸栄養剤は流動性が高く、誤嚥しやすい。そのリスクを避けようと「とろみ調整用食品」でとろみをつけようとしても、うまく混ざらないという経験はないだろうか。その解決策として、二度混ぜ法を紹介。併せてとろみ調整用食品の使用法も。