意思決定支援に臨床倫理4分割法を活かす




決断

本人の意向だけに
寄り添いすぎていないか

私たちは元気なときはもちろんですが、少々体調が思わしくないようなときでも、自らさまざまな意思決定をしながら日々の生活を送っています。

この決定においては、自分が生きていくうえで優先的に価値を置き、大切にしいている、いわゆる「価値観」とか「信念」といったものを判断基準にしています。

一方で看護の現場にあっては、治療方法の選択であったり、退院先をどこにするかなど、医療者サイドから選択を求められているもののなかなか決断できずに悩む患者や家族から、助言を求められる場面が数多くあると思います。

このような場合、おそらくは、当事者である患者の意向はどうなのかを見定め、その意向を最大限尊重して意思決定できるように支援しておられることでしょう。

本人の意思尊重はもちろん基本だが

意思決定支援、なかでも「この先の生き方」について考えるACP(アドバンス・ケア・プランニング)では、本人の価値観や信念といったものに基づく患者の意向を尊重して、
「本人の希望しているようにできるかぎりのことをしてあげたい」
と支援するのは基本中の基本でしょう。

ただ、本人の意向だけに寄り添いすぎていると、
「ああ、この治療を受ければこの先もっと患者さんらしい生活ができるのに……」
など、じくじたる思いから倫理的ジレンマに陥ったり、モヤモヤした気持ちをいつまでも抱え込んだりすることになりがちではないでしょうか。

このジレンマやモヤモヤ感を避ける1つの方法として、「臨床倫理4分割法」というツールを活用してみてはどうだろうか、といった話を書いてみたいと思います。

倫理的課題の問題整理に
臨床倫理4分割法を

治療やケアのあり方がその人の生死を大きく左右するような倫理的課題について、患者・家族と医師をはじめとする医療・ケアチームの双方が、ともに納得できる最善の意思決定を行うには、患者側の意向を踏まえた話し合いを、繰り返しもつことが必要となります。

しかし、医療やケアを受ける立場にある患者サイドと、医療・ケアを提供する側とでは、立場の違いや考え方の違い、さらには個々の価値観により、話し合いの参加者全員が納得できるような合意を導き出すことはそう簡単ではありません。

そこで、この紆余曲折しがちな倫理的課題に関する話し合いのプロセスを支援するツールとして開発されたのが、「臨床倫理4分割法」です。

各自の問題意識を出し合い
4項目に分類、整理する

臨床倫理4分割法とは、要約すれば情報整理の方法と理解していいんだろうと思います。

倫理的な課題に関して意思決定するための話し合いに参加する人びとは、それぞれの立場や自らの価値観、臨床経験といったものに裏づけられた自分なりの見解、あるいは問題意識といったものをもって、その場に臨んでいます。

そこで、まずは参加者それぞれが問題だと考えていることを、臆することなく出し合い、検討課題として、以下4つの枠に区分けしていきます。

そのうえで、項目ごとにあげられている課題について検討を重ねながら情報を整理し、4項目の検討が終わったところで、それぞれの項目を関連づけながら全体を見通して、何を、どうすればいいかを全員で考え、コンセンサス(合意)を形成していくことになります*¹。

  • 医学的適応
    ①診断と予後、②治療目標の確認、③医学(治療)の効用とリスク(治療等が転帰に与えるプラスの影響と有害性)、④治療の無益性(治療を行うべきか、行うべきではないか)
  • 患者の意向
    ①患者の判断能力と対応能力、②インフォームドコンセント(コミュニケーションと信頼関係、③治療に対する患者の意向(拒否)、④事前の意思表示(リビングウイル)の有無、⑤患者に対応能力がない場合の代理人の有無
  • QOL(生きることの質)
    ①QOLの定義と評価(身体・心理・スピリチュアルの状態)、②誰がどのような基準で決めるか(偏見の危険性、何が患者にとって最善か)、③QOLに影響を及ぼす因子、④生命維持についての意思決定
  • 周囲の状況(治療に関する決定に影響する要因)
    ①家族など他者の利益、②守秘義務、③コスト・経済的側面、④希少資源の配分、⑤法律、⑥公共の利益、⑦施設の方針や診療形態、診療チームの状況、研究教育、⑧その他あらゆる問題(慣習、宗教、診療情報開示、医療事故など)

意向を語ってくれないときは
事前に意向の見定めを

ところで、意思決定支援に関しては、自分の気持ちや「これだけは譲れない」といったことをきちんと伝えてくる患者がいる一方で、「自分としてはどうしたいのか、どうしてほしいのか」がなかなかはっきりしない患者も少なからずいるという話をよく耳にします。

治療法などについてはすべて医師が決め、患者は「それでお願いします」と従順に従っていた「おまかせ医療」の時代の名残りでしょうか。
高齢患者には、自分の価値観すらはっきり語ってくれない患者もいるようです。

このような患者や家族については、事前に看護師さんが十分すぎるほどの時間をかけて、その人がこれまで生きてきたなかで何を大切にしてきたのか、つまり価値を置いていることや信念について本人と一緒に考え、明らかにしたうえで話し合いの場に臨むようにしていただけたらと思うのですが、いかがでしょうか。

なお、意思決定にはその人の情報リテラシー、つまり情報を効果的に活用する力も大きく影響します。その辺の話はこちらの記事を読んでみてください。
→ コロナ禍で考える「情報リテラシー」のこと

参考資料*¹:赤林郎他監訳『臨床倫理学 医学における倫理的決定のための実践的アプローチ』、新興医学出版社、1997