臨床倫理4分割法を意思決定支援に活かす

決断

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令和6(2024)年度診療報酬改定では、入院料の通則(算定の大前提となる項目)に、原則すべての病棟において「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を繰り返し行い、人生の最終段階における医療・ケアを本人の意思決定を基本に行うこと」が加えられ、そのための意思決定支援*¹が行われていない場合は、診療報酬減算の対象となることが記されています。

意思決定支援における
本人の意思のとらえ方

私たちは元気なときはもちろん、少々体調が思わしくないときも、自らさまざまな意思決定をしながら日々の生活を送っています。この決定においては、自分が生きていくうえで優先的に価値を置き大切にしている「価値観」とか「信念」を判断基準にしています。

一方で看護の現場にあってはどうでしょうか。治療方法の選択や退院先をどこにするかなど、医療者側から選択を求められているもののなかなか決められずに悩む患者・家族から、助言を求められる場面は数多くあると思います。

このような場合は、当事者である患者の意思(思い)はどうなのかをまず見定め、その意思を最大限尊重して意思決定できるように支援しておられることでしょう。

倫理的ジレンマやモヤモヤ感の解決に

意思決定支援、とりわけ人生の終わりを見据えたACP(アドバンス・ケア・プランニング)、いわゆる「人生会議」では、本人の価値観や信念に基づく「患者の意思」を尊重して、「本人が望んでいるようにできるかぎりのことをしてあげたい」と支援するのは基本中の基本でしょう。

ただ、本人の意思に寄り添いすぎていると、「ああ、そっちではなくこっちの治療を受けたほうがこの先もっと患者さんらしい生活ができるだろうに……」など、じくじたる思いから倫理的ジレンマに陥りがちです。

日常のケア場面で意思決定支援が求められることは多い。その際、患者の意思を最優先すべきだが、患者の選択に倫理的問題を感じてジレンマに陥ることがある。だがそれは自分の価値観との違いに起因することもあり、第三者の意見を求めてみることが大切だ。

さらには、「倫理的に本当にこれでよいのだろうか」とモヤモヤした気持ちを抱え込んでしまうことにもなりがちではないでしょうか。

この倫理的ジレンマやモヤモヤ感を解決していく1つの方法として、「臨床倫理4分割法」というツールを活用してみてはどうだろうか、という話を書いてみたいと思います。

臨床倫理4分割法を
倫理的課題の問題整理に

医療現場で直面しがちな倫理的課題は、治療やケアのあり方がその人の生死を大きく左右するような課題と考えていいでしょう。

この倫理的課題について、患者・家族と医師をはじめとする医療・ケアチームの双方が、ともに納得できる最善の意思決定を行うには、患者側の意思を踏まえた話し合い、いわゆる倫理カンファレンスを、繰り返しもつことが必要となります。

しかし、医療やケアを受ける立場にある患者側と、医療・ケアを提供する側とでは、立場の違いや考え方の違い、さらには個々の価値観により、話し合いの参加者全員が納得できる合意を導き出すことはそう簡単ではありません。

そこで、この紆余曲折しがちな倫理的課題に関する話し合いを支援するツールとして開発されたのが、「臨床倫理4分割法」です。もちろんこの4分割法は、日常的なケアに関する課題をテーマにしたカンファレンスでも活用できます。

倫理カンファレンスにおける
情報整理に4分割法を

臨床倫理4分割法とは、要約すれば「倫理カンファレンスにおいて問題点を整理する方法」と理解していいんだろうと思います。

倫理カンファレンス、つまり倫理的な課題に関して意思決定するための話し合いの参加者は、個々の立場や自らの価値観、臨床経験といったものに裏づけられた自分なりの見解、あるいは問題意識をもってその場に臨んでいます。

そこで、まずは参加者それぞれが倫理的に問題だと考えていることを、臆することなく堂々と出し合い、検討課題として、次に紹介する4つの枠組み、いわゆる「4分割表」に区分けしていきます。そのうえで、項目ごとにあげられている課題について検討を重ねながら情報を整理します。

たとえば「医学的適応」については、「患者の医学的状況に問題はないか」「治療目標は何か」「治療にリスクはないか」などと検討し、医学的適応をはっきりさせていくわけです。

4項目の検討が終わったところで、それぞれの項目を関連づけながら全体を見通して、「何を、どうするのが患者にとって最善なのか」を参加者全員で考え、コンセンサス、つまり合意を形成していくことになります

臨床倫理4分割法の4つの枠組み

  • 医学的適応
    ①患者の診断と予後(医学的状況)、②治療目標の確認、③医学(治療)の効用とリスク(治療等が転帰に与えるプラスの影響と有害性)、④治療の無益性(治療を行うべきか、行うべきではないか)
  • 患者の意向
    ①患者の判断能力と対応能力、②インフォームドコンセント(コミュニケーションと信頼関係)、③治療に対する患者の意向(拒否)、④事前の意思表示(リビングウイル)の有無、⑤患者に対応能力がない場合の代理人の有無
  • QOL(本人にとっての生活・人生の質)
    ①QOLの定義と評価(身体・心理・スピリチュアルの状態)、②誰がどのような基準で決めるか(偏見の危険性、何が患者にとって最善か)、③QOLに影響を及ぼす因子、④生命維持についての意思決定
  • 周囲の状況(治療に関する決定に影響する要因)
    ①家族など他者の利益、②守秘義務、③コスト・経済的側面、④希少資源の配分、⑤法律、⑥公共の利益、⑦施設の方針や診療形態、診療チームの状況、研究教育、⑧その他あらゆる問題(慣習、宗教、診療情報開示、医療事故など)

それぞれの「具体的な問い」は、こちら*³が参考になります。

意思決定支援の前に
本人の意向を見定める

ところで、意思決定支援に関しては、自分の気持ちや「これだけは譲れない」ことをきちんと伝えてくる患者がいる一方で、「自分としてはどうしたいのか、どうしてほしいのか」がなかなかはっきりしない患者も少なからずいるという話をよく耳にします。

治療法などについてはすべて医師が決め、患者は「それでお願いします」と従順に従っていた「おまかせ医療」の時代の名残りでしょうか。高齢患者のなかには、自分の価値観すらはっきり語ってくれない患者もいるようです。

このような患者や家族については、事前に看護師さんが十分すぎるほどの時間をかけて、その人がこれまで生きてきたなかで何を大切にしてきたのかを一緒に考えることから始めてみるのがいいようです。

つまり価値を置いていることや信念について本人と一緒に考え、明らかにしたうえでカンファレンスに臨むようにしていただけたらと思うのですが、いかがでしょうか。

なお、下記の参考資料*²には、Jonsen(ジョンセン)らの4分割法による症例検討の方法が、医療現場で起きる典型的な倫理的課題を事例に、丁寧に説明されています。

参考資料*¹:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定概要説明資料P.26

参考資料*²:アルバート・R他著 赤林郎他監訳『臨床倫理学―臨床医学における倫理的決定のための実践的なアプローチ』、新興医学出版社、1997

参考資料*³:神戸大学「E-FIELD(意思決定支援教育プログラム) STEP-4」