「身体拘束予防ガイドライン」の活用を!!

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令和6(2024)年度診療報酬改定では、医療機関における入院料算定の施設基準に、すべての病棟において、緊急やむをえない場合以外の身体的拘束を禁止するなど、「身体的拘束の最小化」に取り組むべきことが新たに加えられ、提示された基準*¹をクリアできない場合は、診療報酬減算の対象となることが記されています。

日本看護倫理学会による
「身体拘束予防ガイドライン」

人権擁護の観点だけでなく、心身両面に、また社会的にも患者に深刻なダメージを与え、QOLを大きく損なうリスクが指摘される身体拘束――。わが国では2000(平成12)年4月の介護保険制度施行を契機に、国が主導して身体拘束ゼロに向けた取組みが行われています。

当初この取組みは、介護保険施設の運営基準に「サービスを提供する際は、入所者の身体拘束や行動を制限する行為を行ってはならない」と明記され、介護現場を中心に進められてきました。

これに促されるように医療現場においても、患者の身体拘束を極力減らす取組みがさまざまなかたちで進められています。その代表と言えるものに、日本看護倫理学会の「臨床倫理ガイドライン検討委員会」が2015年に公表した「身体拘束予防ガイドライン」があるのをご存知でしょうか。

このガイドラインをめぐり、このところちょっとした動きがみられます。医療現場はもとより介護現場でも、厚生労働省による「身体拘束ゼロへの手引き」に比べ、こちらのガイドラインのほうがより具体的かつ実践的だとして、活用する施設が増えているようなのです。

何がどう実践的なのだろうと思いながら、このガイドラインを見直してみました。一方の厚生労働省による「身体拘束ゼロへの手引き」については、こちらにポイントをまとめてありますので、あわせてチェックしてみてください。

「拘束は緊急やむをえない状況」は
本当にやむをえないことなのか

日本看護倫理学会による「身体拘束予防ガイドライン」は、「予防的ケアを行うことにより身体拘束をゼロにもっていきたい」との考えのもと、具体策の検討を重ねたうえでまとめられたものです。当ガイドラインは冒頭で、このような指摘をしています。

多くの看護職は、身体拘束は人権擁護に反するものであり、してはいけないことだと重々承知している。にもかかわらず「患者の生命と安全を守るため」「緊急やむをえない状況だ」などの理由から、倫理的ジレンマにかられながら身体拘束を行っている現状がある、と。

そのうえで、「緊急やむをえない」としている状況は、「本当にやむをえないことなのだろうか」と問いかけています。

そして、まずはこの「やむをえない」を理由に身体拘束が行われている状況を、そのときの患者の症状別に洗い出しています。次いで、それぞれの症状がなぜ起きているのかを考え、ケアを見直すなかで、身体拘束を解除していく手順を提示しているのです。

身体拘束予防の一歩として
全患者にせん妄アセスメントを

日常の看護場面において、「身体拘束もやむなし」と判断するのは、このままでは患者にとって危険と思われる症状がみられる場合で、その背景には、「せん妄」が潜んでいる例が少なくありません。

そこでガイドラインは、年齢・疾患を問わず、すべての患者に対して、まずはせん妄症状の有無をアセスメントすることを推奨。そのうえで、それぞれのアセスメント結果に見合う予防的ケアを検討し、実施すべきケア方法を具体的に提示しています。

なお、せん妄のリスク要因の確認、せん妄の誘発因子については、こちらで詳しく書いていますので、参考にしてください。

また、せん妄と並び「身体拘束もやむなし」と判断される精神的な混乱を招きがちな見当識障害の改善、解消を目的に行われる「リアリティ・オリエンテーション」の効果的な方法については、こちらをご覧ください。

「このままでは患者にとって危険」と思われる6症状

せん妄に続く「このままでは患者にとって危険と思われる症状」として、ガイドラインは、以下の6症状を挙げています。

そのうえで、症状の一つひとつについて、「その症状が患者にとって本当に危険なのかどうかを見極めていくための考え方」「その際のアセスメントの視点」「実践すべき予防的ケア」を解説しています。

  1. 転倒・転落の危険性が高い
  2. チューブ類を抜いてしまう(輸液ルート、CVカテーテル*、経鼻胃管カテーテル等)
    *CVカテーテルとは、中心静脈カテーテルのこと
  3. 攻撃的な行為がある(物を投げる、激しい言葉を使う、暴力を振るう、等)
  4. ケアに抵抗する(介護・看護・治療に拒否的なしぐさや言動を示す)
  5. 大声で叫ぶ
  6. オムツを外してしまう、衣類を脱いでしまう

「やむをえず」の身体拘束3要件と
身体拘束の解除基準

アセスメント、そして予防的ケアを実施した結果、「患者の安全のために短期的にでも身体拘束をせざるえない」と判断することもあるでしょう。この場合についてガイドラインは、厚生労働省が介護保険施設運営基準のなかで示している以下の3要件すべてを満たすことが必要としています。

身体拘束の3要件

  1. 切 迫 性 :患者本人あるいは他の患者の生命や身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
  2. 非代替性:身体拘束あるいはその他の行動制限を行う以外に代替する(差し替える)ケア方法がない
  3. 一 時 性 :身体拘束その他の行動制限が一時的なものである

以上の3要件すべてを満たしているかどうかの判断に際しては、以下の2点が欠かせないとしています。

  1. チーム(医師・看護職、場合によっては介護職も含む)の判断
  2. 患者本人と家族へのインフォームドコンセント(ていねいに説明し、納得したたうえでの同意を得る)

身体拘束の解除基準と記録

その結果、「身体拘束せざるをえない」と判断して拘束を実施した場合であっても、以下の条件に該当するなら身体拘束を即座に解除し、一連の経緯を記録して、いつでもその情報を開示できるように保存しておくことを求めています。

  • 事前に決めた身体拘束時間・期間を超える
  • 身体拘束の3要件すべてを満たせない状況になった

記録内容・書式に関しては、厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」p.24-25*³にある書式例が参考になります。

紹介してきた日本看護倫理学会 臨床倫理ガイドライン検討委員会による「身体拘束予防ガイドライン」は、『看護倫理ガイドライン』(看護の科学社)にも収載されています。

急性期病棟における身体拘束ゼロの取り組み

なお、高度急性期を含む急性期一般病棟と精神科病棟を抱える医療現場において「身体拘束ゼロ」を達成している金沢大学附属病院の取組みを「高度急性期病院でも身体拘束ゼロは実現できる」で紹介しています。あわせてご覧ください。

認知症ケアにおける身体拘束ゼロの実践

また、身体拘束の原因になりがちな認知症、とりわけBPSD(行動・心理症状)がみられる患者に対しても身体拘束に頼らないケアを実践している群馬県の医療法人大誠会グループの取組みを「身体拘束に頼らない認知症ケアの実践例」で紹介しています。是非ご覧ください。

参考資料*¹:令和6年度診療報酬改定概要説明資料 P.27

参考資料*²:日本看護倫理学会「身体拘束予防ガイドライン」

参考資料*³:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き―高齢者ケアに関わるすべての人に」