「身体拘束予防ガイドライン」の活用を!!




自由

日本看護倫理学会がまとめた
「身体拘束予防ガイドライン」

人権擁護の観点だけではなく、心身両面に、また社会的にも患者に大きなダメージを与え、患者のQOLを大きく損なうリスクが指摘される身体拘束――。

わが国では2000(平成12)年4月の介護保険制度施行を契機に、国が主導して身体拘束ゼロに向けた取組みが行われるようになっています。

当初この取組みは、介護保険施設の運営基準において、
「サービスを提供するに際しては、入所者の身体拘束や行動を制限する行為を行ってはならない」
と明記されていることもあり、介護現場を中心に進められてきました。

これに促されるように医療現場においても、患者の身体拘束を極力減らすための取組みがさまざまなかたちで進められています。

その代表といえるものに、日本看護倫理学会の「臨床倫理ガイドライン検討委員会」が2015年6月に公表した「身体拘束予防ガイドライン」があるのですが、ご存知でしょうか。

このガイドラインをめぐって、このところちょっとした動きがみられます。
医療現場はもとより介護の現場においても、厚生労働省による「身体拘束ゼロへの手引き」に比べ、こちらのガイドラインはより具体的かつ実践的であるとして、導入し、活用する施設が増えているようなのです。

何がどう実践的なのだろうと思いながら、このガイドラインを見直してみました。

「拘束は緊急やむを得ない状況」は
本当にやむを得ないことなのか

日本看護倫理学会の「身体拘束予防ガイドライン」は、
予防的ケアを行うことにより身体拘束をゼロにもっていきたいとの考えのもと、
「臨床倫理ガイドライン委員会」で具体策の検討を重ねたうえでまとめられたものです*¹。

当ガイドラインは冒頭で、このような指摘をしています。
多くの看護職は、患者を身体拘束することは人権擁護に反するものであり、してはいけないことだと重々承知はしている。にもかかわらず「患者の生命と安全を守るため」「人員不足のため」「緊急やむを得ない状況だ」などの理由から、倫理的ジレンマにかられながら身体拘束を行っている現状が、残念ながらある、と――。

そのうえで、これらの「緊急やむを得ない」としている状況は、「本当にやむを得ないことなのだろうか」との疑問のもと、まずは「やむを得ない」を理由に身体拘束が行われている状況を、患者の症状別に洗い出しています。

さらに、それぞれの症状がなぜ起きているのかを考え、安全策を講じながらケアを見直すなかで、身体拘束を解除していく手順を提示しています。

身体拘束予防の一歩として
全患者にせん妄アセスメントを

日常の看護場面において、苦渋の決断として「身体拘束もやむなし」と判断するのは、このままでは患者にとって危険と思われる症状がみられる場合ではないでしょうか。

この「身体拘束もやむなし」とやむを得ず判断するような場合、その背景にはしばしば「せん妄」が潜んでいる例が少なくありません。

そこでガイドラインは、年齢・疾患を問わず、すべての患者に対して、まずはせん妄症状の有無をアセスメントすることを推奨しています。

そのうえで、それぞれのアセスメント結果に見合う予防的ケアを検討し、実施すべきケア方法を具体的に提示しています。

なお、せん妄のリスク要因の確認、せん妄の誘発因子などについてはこちらの記事で詳しく書いています。是非参考にしてみてください。
→ 認知症と決めつける前に「せん妄」チェックを

このままでは患者にとって危険と思われる6症状

せん妄に続く「このままでは患者にとって危険と思われる症状」として、ガイドラインは、以下の6症状を挙げています。

さらに、その一つひとつについて、その症状が患者にとって本当に危険なのかどうかを見極めていくための考え方、その際のアセスメントの視点、そして実践すべき予防的ケアについて具体的に解説しています。

  1. 転倒・転落の危険性が高い
  2. チューブ類を抜いてしまう(輸液ルート、CVカテーテル*、経鼻胃管カテーテル等)
    *CVカテーテルとは、central venous、つまり中心静脈カテーテルのこと
  3. 攻撃的な行為がある(物を投げる、激しい言葉を使う、暴力を振るう等)
  4. ケアに抵抗する(介護・看護・治療に拒否的なしぐさや言動を示す)
  5. 大声で叫ぶ
  6. オムツを外してしまう、衣類を脱いでしまう

やむを得ず行う身体拘束の3要件と
身体拘束の解除基準

アセスメントを行い、予防的ケアを実施した結果として、患者の安全のために短期的にでも身体拘束をせざる得ないと判断することもあるでしょう。

この場合についてガイドラインは、厚生労働省が介護保険施設運営基準のなかで示している以下の3要件すべてを満たすことが必要としています。

  1. 切 迫 性 :患者本人または他の患者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
  2. 非代替性:身体拘束あるいはその他の行動制限を行う以外に代替するケア方法がない
  3. 一 時 性 :身体拘束その他の行動制限が一時的なものである

以上の3要件すべてを満たしているかどうかの判断に際しては、
⑴ チーム(医師・看護職、場合によっては介護職も含む)の判断と、
⑵ 患者本人と家族へのインフォームドコンセント(ていねいに説明したうえでの同意)が欠かせないとしています。

その結果、「身体拘束せざるを得ない」となった場合には、事前に身体拘束時間、拘束する時間帯、期間をできる限り詳細に決めたうえで、
⑴ 身体拘束期間を超える
⑵ 身体拘束の3要件すべてを満たせない状況になった
などの場合には、身体拘束を解除すること、また一連の経緯を記録し、いつでもその情報を開示できるように保存しておくことを求めています。

なお、高度急性期を含む急性期一般病棟と精神科病棟を抱える医療現場において「身体拘束ゼロ」を達成している金沢大学附属病院の取り組みをこちらの記事で紹介しています。
是非参考にしてみてください。
→ 身体拘束をしない看護で患者の安全を守る

参考文資料*1:日本看護倫理学会「身体拘束予防ガイドライン」
http://jnea.net/pdf/guideline_shintai_2015.pdf

なお、日本看護倫理学会 臨床倫理ガイドライン検討委員会(委員長 長谷川美栄子・東札幌病院看護部長)による「身体拘束予防ガイドライン」は、看護師が臨床現場で遭遇する倫理問題の解決に向けたガイドラインとして、「医療や看護を受ける高齢者の尊厳を守るためのガイドライン」とともに、『看護倫理ガイドライン』(看護の科学社)に収載されています。

また、『看護実践の科学2019年10月号 特集:身体拘束をしない病棟組織づくり-日本看護倫理学会「看護倫理ガイドライン」を活用しよう』でも詳しく取り上げられています。