アドバンス・ケア・プランニングの手引き

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令和6(2024)年度診療報酬改定では、入院料算定の施設基準に、原則すべての病棟において「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を繰り返し行い、人生の最終段階における医療・ケアを本人の意思決定を基本に行うこと」が加えられ、提示された意思決定支援*¹が行われていない場合は、診療報酬減算の対象となることが記されています。

ACPに取り組みたいが、
患者に説明する手引きがほしい

「たくさんありすぎて選択に迷う」との声が、多くの看護師さんから届いています。各医療機関で取り組みが進むアドバンス・ケア・プランニング(ACP)、いわゆる「人生会議」について、その主旨や方法を患者・家族に説明する手引きがほしいが、どれを使ったらいいのか迷う、という話です。

そこで今回は、公開されている数々の「ACPの手引き」と、ACPの取り組みを進めていく際にあると便利な「事前指示書(エンディングノート)」のなかから、実際にそれを活用している看護師さんから「使いやすい」との声が多い2点を選び、紹介したいと思います。

「もしものとき」はいろいろあるが
「いのちの終活」としてのACPを

ところで、紹介に入る前に、「そもそもACPって」の確認をしておきたいと思います。

患者の意思、意向に沿った医療・ケアを実現することにより、最期まで自分らしさを貫いてもらうことを目的に、患者の「もしものときのこと」をテーマに本人と家族、医師ら医療スタッフが話し合うのがACPです。この「もしものとき」には、たとえば次のような場面も想定されます。

  • がんと診断されて治療に抗がん剤を使うかどうかの選択を求められた
  • 慢性腎不全で治療を続けていたものの腎機能の低下が進んで透析療法が必要な状態となり、それを受けるかどうかの判断を求められた

ただ、一般にACPと聞いて思い浮かべる「もしものとき」は、否応なくいのちの終わりを見据えさせられる人生の最終段階の話でしょう。終末期に自分自身で自分のことを決められない状態になっていても自分らしい最期を迎えられるように、家族や医師ら医療スタッフに希望や思いを伝え、備えておくことです。

なお、ACPについては、広く一般にもその認知度をより高めようと、厚生労働省が「人生会議」と愛称を決めたこと、名付け親は現役の看護師さんであることはこちらで紹介していますのでご覧ください。

ただ、「その人の人生」となると、あまりに膨大すぎて、どのような状況を想定したらいいのか、何から手をつけたらいいのか、迷ってしまいます。そこで私は、一般の方には「いのちの終活」という表現で説明するようにしています。「終活」という言葉は巷でもよく使われていますから、結構すんなり理解していただけます。

終末期医療ガイドラインに基づく
ACPの進め方の手引書&指示書

さて、手引きの話ですが、まず1点は、厚生労働省のホームページで紹介されている「これからの治療・ケアに関する話し合い―アドバンス・ケア・プランニング―」と題するパンフレットです

このパンフレットは、厚生労働省の委託を受け、神戸大学医学部の木澤義之・同大学病院緩和支持治療科 特命教授(2022年度からは筑波大学医学医療系教授)を中心に作成されたものです。

A4版・15ページからなるこのパンフレットの冒頭には、「これからの治療やケアについて話し合うことが大切な理由」が書かれています。続いて、厚生労働省が先に策定した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づいたACPの進め方が、以下の5つのステップで示されています。

  • ステップ1:考えてみましょう
  • ステップ2:信頼できる人がだれかを考えてみましょう
  • ステップ3:主治医に質問してみましょう
  • ステップ4:話し合いましょう
  • ステップ5:伝えましょう

チェックを入れるだけでは物足りない方向けに

この手引き書の第一の特徴は、事前指示書に該当するチェックシートと説明書が一緒に収められている点にあります。

さらに、チェック欄には、それぞれの項目について「自分が選択する理由」、「選択する際に迷ったこと」、「疑問に思ったこと」、「医師に確認したいこと」などを書き留めておくスペース、つまり自由記述欄がたっぷり用意されている点です。

事前指示書には、市販のもの、自治体作成のものを含め、チェック式のものが多いように思います。しかしチェックを入れるだけでは、「物足りない」「私が希望することを自分の言葉で書き留めておきたい」という声もよく耳にしますから、自分で記載できるこちらのタイプはお勧めです。

広島県ACPの「手引き」と
「私の心づもり」

もう1点ですが、最近は、ACPについて簡単に解説したパンフレットや事前指示書(エンディングノート)を独自に作成し、希望者に配布している自治体が増えています。その先陣を切り、県全体でACPの取り組みを始めたのが、広島大学・広島県・広島市・広島県医師会の4者から成る協議会、広島県地域保健対策協議会(地対協)です。

当協議会は、すでに2013(平成25)年6月に本家好文・広島県緩和ケア支援センター長(当時)を委員長とする「終末期医療のあり方検討特別委員会」を設置。ACPについて先駆的な取り組みを進めているカナダ・アルバータ州の試みを参考に議論を重ねてきました。

そして、翌2014年2月に完成させたのが、市民向けにACPについてやさしく解説した「ACPの手引き」と、その話し合いの際に活用するチェックシート「私の心づもり」です。「私の心づもり」は、その後改訂版も刊行されています。

患者が自分の意思を医師や看護師と話し合うきっかけに

「ACPの手引き」には、「説明版」と「パンフレット版」が用意されています。

このうち「説明版」では、病気が悪化するなどして自分で意思決定できなくなったときにどうしてほしいかを自ら考えていく、その考え方のプロセスをStep1からStep5へと、段階的に文章で説明しています。この「説明版」にイラストを加えてより分かりやすくしたのが「パンフレット版」です。

一方の「私の心づもり」は、医師や看護師ら医療スタッフと話し合うきっかけになるように作成された、いわゆる事前医療・ケア指示書です。

こちらは、手引きに沿って段階的に書かれている内容を読みながら、自分が伝えておきたい項目を選び、チェックを入れていく構成になっています。

これらは広島県地対協のホームページ*³からダウンロードできます。まずダウンロードして実物をご覧になってはいかがでしょうか。さらに、「私の心づもり」を使って、ご自分のこととしてチェックしてみるのもいいかと思います。

病棟で現在行われているACPは、一度限りのケースが多いと聞きます。しかし今回(2024年度)の診療報酬改定で、原則すべての病棟に求められているのは、「ACPを繰り返し実施すること」です。その方法については、こちらを参照していただけたら幸いです。

なお、「どうもACPの話は患者に切り出しにくい」という方もいらっしゃるでしょう。そんな方にはACPの入門書として人気と聞く『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』(日経BP)が参考になるのではないでしょうか。

また、2024年4月1日に刊行されたばかりの『ACPの考え方と実践: エンドオブライフ・ケアの臨床倫理』(東京大学出版会)は、日本の文化的特徴を踏まえたACPの実践を、「認知症を有する高齢者の場合」「治療が困難な状態にあるがん患者の場合」「身寄りのない高齢者の場合」など、豊富な事例をもとに解説されています。

在宅呼吸不全患者のACP支援ガイド

在宅医療の現場で呼吸不全を有する患者、またはそのリスクを有する患者のACPを実践していく際に是非参考にしていただきたい支援ガイド(こちら)もあります。呼吸不全について書かれていますが、第4章から第6章を他の病態(心不全、腎不全など)に置き換えることで、呼吸不全以外のACP実践に活用することもできますので、一度チェックしてみてください。

人生会議の短編ドラマも活用を

なお、ACPの一般の方への啓発には、神奈川県横浜市が作成した人生会議の短編ドラマを活用するのもいいのではないでしょうか。

2人の在宅医の体験を基にした再現動画も

厚生労働省が2022年3月に公開している人生会議に関する普及・啓発のための動画(2人の在宅医の体験を基に作成)も参考になります(こちら)。

日本老年医学会の「ACP事例集」もあります

また、ACPの進め方については、日本老年医学会がまとめた事例集も参考になります。

参考資料*¹:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定概要説明資料P.26

参考資料*²:厚生労働省(神戸大学/木澤義之他)「これからの治療・ケアに関する話し合い―アドバンス・ケア・プランニング」

参考資料*³:広島県地域保健対策協議会「私の心づもり」