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ACP(人生会議)の実践が
すべての病棟に求められています
6月1日から施行されている令和6(2024)年度診療報酬改定では、医療機関における入院料算定の施設基準に、原則すべての病棟(精神科病棟を除く)において「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を繰り返し行い、人生の最終段階における医療・ケアを本人の意思決定を基本に行うこと」が新たに加えられ、提示されている適切な意思決定支援*¹が行われていない場合は、診療報酬減算の対象となることが記されています。
ACPは、「人生会議」という愛称により一般の注目を集めたこともあり、最近では、多くの病棟で行われているようです。ただその現状は、ここで示されている「繰り返し行う」ものとは、かなりかけ離れているのではないでしょうか。
一度だけのACPになっていないだろうか
現在入院患者を対象に行われているACPについては、たとえば主治医ら医療スタッフが終末期、とりわけ「もしものとき」のDNAR指示(心肺蘇生を行わない指示)など、延命(生命維持)治療をはじめとする医療やケアについて「受けたいか、受けたくないか」患者の意向を聞き、必要な書類にサインを求めたうえで、「わかりました。ではこの方針でやっていきましょう」と機械的に進めているケースが少なくないと聞きます。
しかし、人の気持ちやものの考え方、希望というものは、時間の経過、とりわけ健康状態の変化とともに変わっていくものです。
一度だけの話し合いで患者のその時々の意思を汲みとることは難しく、ACPのそもそもの目的である「人生の最終段階における医療・ケアを本人の意思決定を基本に行う」ことにはつながりにくいのではないでしょうか。
患者の意思の変化に応じて
ACPをアップデートする
今回の診療報酬改定で求められている「適切な意思決定支援」に関する説明資料*¹では、厚生労働省が平成30(2018)年度に策定した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(以下、ガイドライン)の内容を踏まえた指針を作成することが要件とされています。
そこで、そのガイドラインを見てみると、そこには「心身の状態に応じて意思は変化しうるため繰り返し話し合うこと」と明記されています。
病状の変化や治療法が変わるとき
この「繰り返し」については、「毎月のように話し合うのがいい」とする説もあるようです。しかし、ACPにはかなりの時間と手間がかかりますから、「月1回話し合って方針を見直す」というのは、あまり現実的ではないように思います。
具体的には、生活環境(家族関係を含む)や病状に変化があったとき、治療やケアの変更が必要になったとき、患者サイドから方針を見直したい旨の要望があったときなどに、改めて話し合い、ACPをアップデート(更新)していくのがいいのではないでしょうか。
この「ACPのアップデート」の重要性については、『終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで 現場でともに考える』(メディカルサイエンスインターナショナル)のPart3で詳しく解説されています。是非参考に!!
話し合いに入る前に
適切な情報提供と説明を
話が前後しますが、ガイドラインでは、ACPについてもう一点重要なこととして、「医師等の医療従事者から本人・家族等へ適切な情報の提供と説明がなされたうえで」十分な話し合いを行うべきとしています。
ここでいう「適切な情報」とは、ACPで話し合うべきすべてのことに関する情報です。病気や治療に関することは言うまでもなく、たとえば治療には限界がある患者の緩和ケアについても、また入院生活を経済的・社会的側面から支える国や自治体レベルの支援制度についても情報提供が必要なケースが少なくないでしょう。
人生観や価値観の把握に
役立つ問いかけ
ガイドラインはまた、ACPの重要なポイントとして、「本人の人生観や価値観等をできる限り把握」したうえで話し合うことをすすめています。
この点については、日本医師会がかかりつけ医を主な対象に、広く医療従事者向けに作成した「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」というリーフレットのなかで、以下の問いかけが患者の人生観や価値観、希望などを把握するうえで役立つとして紹介しています。活用してみてはいかがでしょうか。
- これまでの暮らしで大切にしてきたことは何ですか?
- 今の暮らしで、気になっていることはありますか?
- これからどのように生きたいですか?(会っておきたい人、最期に食べたいもの、葬儀、お墓、財産など)
- 最期の時間をどこで、誰と、どのように過ごしたいですか?
- 意思決定のプロセスに参加してほしい人は誰ですか?
- 代わりに意思決定してくれる人はいますか? など。
(引用元:日本医師会編「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」*²)
ACPでは
これからの生き方を考える
なお、このリーフレットの、ACPを行う際の留意点について書かれた部分に、「ACPは、前向きにこれからの生き方を考える仕組み」であり、「そのなかに、最期の時期の医療およびケアのあり方が含まれる」とあります。
ACPについては、「もしものとき」に自分で自分のことが決められなくなることがあるから、そうなったときに備えて、医師ら医療スタッフや家族に前もって自分としてはどうしてほしいかを伝えておこう、という話として理解されている方が多いように思います。
しかし、ACPは「もしものとき」に限った話ではありません。この点を、患者や家族に事前に伝えておくことは、ACPに積極的に参加してもらううえで重要ではないでしょうか。
本人の意思が確認できないときは推定意思を尊重
なお、患者の状態によっては、本人の意思が確認できないことも少なからずあるでしょう。そんなときは、本人の推定意思を尊重することになるのですが、その方法についてはこちらをご覧ください。
また、2024年4月1日に刊行されたばかりの『ACPの考え方と実践: エンドオブライフ・ケアの臨床倫理』(東京大学出版会)では、「Ⅱ実践編」において、「認知症を有する高齢者の場合」「治療が困難な状態にあるがん患者」など、多くの困難事例をもとにACPの実践を解説してあり、とても参考になります。是非ご覧ください。
参考資料*¹:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定概要説明資料P.26