リアリティ・オリエンテーションを活かす

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身体的拘束の最小化に
リアリティ・オリエンテーションを

来る6月1日施行される令和6(2024)年度診療報酬改定では、医療機関における入院料算定の施設基準に、すべての病棟において、緊急やむをえない場合以外の身体的拘束を禁止するなど、「身体的拘束の最小化」に取り組むべきことが新たに加えられ、提示されている基準をクリアできない場合は、診療報酬減算の対象となることが記されています。

ここで言う「緊急やむをえない場合」については、先に厚生労働省が介護保険施設運営基準の中で示している「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件すべてを満たし、かつ、それらの要件が満たされていることを確認する等の手続きが慎重に実施されているケースに限られると説明されています。詳しくはこちらをご覧ください。

せん妄予防とBPSDの改善で混乱を防ぐ

日常の看護場面で上記の条件を満たし、「この患者には身体的拘束もやむなし」と判断する背景には、せん妄、あるいは認知症によるBPSD(焦燥、不穏状態、攻撃性など行動面の症状や不安、幻覚、妄想、感情面の障害などの心理症状)により、日常生活において精神的に混乱している状態がみられるケースが少なくありません。

なにしろ一般の医療機関に入院中の高齢患者の約30%にせん妄が合併し、約15%に認知症による症状がみられ、術後や集中治療室の入室患者となるとさらに高く約70%、緩和ケア病棟においても約40%の患者にせん妄が見られるとの報告があるほどですから、混乱が予測される患者は少なくないはずです(詳しくはこちら)。

そこで、身体的拘束の最小化に向けた取り組みの一つとして、混乱の原因となるせん妄の予防や認知症によるBPSDの改善に効果があるとされている「リアリティ・オリエンテーション」を日々のケアに取り入れる病棟はこの先さらに増えるものと思われます。

リアリティ・オリエンテーションをより効果的に

ただ、リアリティ・オリエンテーションについては、手軽に行えるとして紹介されていることもあってか、安易な方法で行われていることが多く、身体的拘束につながりがちな精神的混乱を防ぐほどの効果は上がっていないケースが少なくないとの指摘があります。

そこで今回は、リアリティ・オリエンテーションの方法を見直しつつ、身体的拘束の回避に効果的に活用するための留意点をまとめておきたいと思います。

リアリティ・オリエンテーションで
現実認識を深める

リアリティ・オリエンテーション(Reality Orientation;略称「RO」)は、日本語では「現実見当識(けんとうしき)訓練」と紹介されています。

この言葉が示すように、リアリティ・オリエンテーションとは、「今日は何年の何月何日なのか」といった年月や時間、「自分は今どこにいるのか」といった場所、あるいは季節など、自分の身の回りの状況がわからないという、いわゆる「見当識障害」の進行を食い止め、改善するための訓練で、現実認識を深めることを目的に行われます。

これには2種類の方法があるのですが、身体的拘束の最小化を目的に個々の患者への日常的なケアに取り入れるかたちで通常行われているのは、「24時間リアリティ・オリエンテーション(24時間RO)」と呼ばれる方法です。

24時間リアリティ・オリエンテーションとは

その基本的な方法は、たとえば大分県看護協会の公式サイトにある「認知症ケアの好事例」のなかでは、次のように説明されています。

24時間リアリティ・オリエンテーションでは、患者さんとスタッフとの日常生活における基本的なコミュニケーションのなかで、カレンダー等を活用し、「自分は誰であるのか」「自分は現在どこにいるのか」「今はいったい何時か」といった事柄に対する現状認識の機会を反復提供することで、見当識障害の改善を図ります。

(引用元:大分県看護協会「認知症ケアの好事例」

コミュニケーションのなかで
「今」に気づいてもらう

ところで、どこの病棟でも高齢者が入院してくると、まずはせん妄や見当識障害など認知症の症状チェックを行い、混乱状態を招くような見当識障害が疑われる患者には、24時間リアリティ・オリエンテーションを日々のケアに取り入れておられることと思います。

その方法ですが、ベッドサイドにカレンダーや時計などを用意し、たとえば朝の検温の際などに、「今日は何日ですか」などと問いかけることを通して、「今」に気づいてもらうという方法をとっておられる方が多いのではないでしょうか。

しかし24時間リアリティ・オリエンテーションでは、患者との日常的なコミュニケーションのなかで、ごく自然なかたちで日時や場所、季節などに関することを意図的に伝えて見当識を補う手がかりを与えて、患者に現実を実感してもらうことが重要とされています。

このコミュニケーションにカレンダーや時計、四季折々の花、旬の食材などを活用することが勧められているわけですが、いずれもコミュニケーションを円滑化にするためのツールでしかありません。

関係性の深まりが現実認識を助ける

リアリティ・オリエンテーションで大事なことは、このコミュニケーションを通して患者とスタッフとの関係性が深まっていくなかで、患者が「自分は今どこにいるのか」「なぜここにいるのか」といったことを正しく認識できるようになり、精神的な混乱を招いていた不安や恐怖が解消されることです。

リアリティ・オリエンテーションが必要と判断されるような患者は、概してスタッフの話を集中して聞くことができないものです。そのため現実を認識してもらうことは簡単ではありませんが、日々のケアの中でできるだけ相手の関心が日時や天候、季節といったことに向くように、相手のリズムに合わせて語りかけていくことが理解を得るコツと言えそうです。

たとえば「そろそろ10時になりますから、お茶にしましょうか」とか、着替えなどを手伝いながら「やっと春らしくなってきましたから、桜が咲くのが楽しみですね。毎年お花見はどこに行かれていましたか?」、などなど……。

なお、見当識障害と並び身体的拘束の最小化に欠かせないせん妄対策については、こちらがお役に立てると思います。

身体疾患で入院中の高齢患者にみられる混乱は認知症と判断しがち。だが、むしろ多いのはせん妄で発生頻度は30%とのこと。厚労省研究班による「一般医療機関における認知症対応のための院内体制整備の手引き」を参考に、せん妄リスク確認の方法をまとめた。

参考資料*¹:厚生労働省「身体的拘束最小化の基準」P.27

引用・参考資料*²:大分県看護協会「認知症ケア 好事例の紹介」