厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」ポイント

病院
令和6(2024)年度診療報酬改定では、医療機関における入院料の通則(算定の大前提となる項目)に、すべての病棟において、緊急やむを得ない場合以外の身体拘束を禁止するなど、「身体拘束の最小化」に取り組むべきことが加えられ、提示された基準*¹をクリアできない場合は、診療報酬の減算の対象となることが記されています。

介護との連携に欠かせない
「身体拘束ゼロへの手引き」

身体拘束に関して、「特に介護職との連携場面では、厚生労働省のガイドラインを理解していないと、話が進みにくい……」、という話を看護職の方から聞くことがよくあります。

厚生労働省のガイドラインとは、2000(平成12)年4月の介護保険制度施行を機に、同省の「身体拘束ゼロ作戦推進会議」がまとめた「身体拘束ゼロへの手引き ~ 高齢者ケアに関わるすべての人に ~ 」のことです。

身体拘束の予防については、看護の現場ではこの手引きよりも、日本看護倫理学会が2015年6月に公表した「身体拘束予防ガイドライン」が、具体的かつ実践的であるとして、好んで活用されている話を先に紹介しました。

身体拘束を防ぐ取組みについては、厚労省の「身体拘束ゼロへの手引き」よりも日本看護倫理学会の「身体拘束予防ガイドライン」がより実践的として、医療現場はもとより介護現場でも活用する施設が増えていると聞く。何がどう実践的なのか、改めて見直してみた。

しかし、介護や福祉職のスタッフと個々の事例の身体拘束に関して意見を交わす際には、「身体拘束ゼロへの手引き」に立ち戻ることが多いとのこと。そこで今回は、この手引きに書かれている、特に「身体拘束予防に関する基本的なこと」を見直してみたいと思います。

身体拘束・行動制限の対象となる
11の具体的行為

介護保険施設の指定基準には、次のような身体拘束禁止規定が明記してあります。

「サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)または他の入所者等の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束、その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない」

この規定にある身体拘束・行動制限禁止の対象となる具体的行為として、介護施設のみならず病院等においても身体拘束を原則認めていない厚生労働省は、「身体拘束ゼロへの手引き」のなかで次の11点をあげています。

  1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
  3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
  4. 点滴、経管栄養等のチューブ類を抜かないように、四肢をひも等で縛る
  5. 点滴、経管栄養等のチューブ類を抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける
  6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける
  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する
  8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る
  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する

身体拘束が認められる
「緊急やむを得ぬ場合」の3要件

また、先の規定にある生命や身体を保護するために身体拘束や行動制限を行う「緊急やむを得ない場合」については、次の3要件をすべて満たし、かつ、それらの要件が満たされていることを確認する等の手続きが慎重に実施されているケースに限られる、としています。

  1. 切迫性:患者・利用者本人または他の患者・利用者等の、生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと(「切迫性」の判断を行う際には、身体拘束を行うことが本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要となる程度まで患者・利用者本人等の生命または身体が危険にさらされる可能性が高いことを確認する必要がある)
  2. 非代替性:身体拘束あるいはその他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと(「非代替性」の判断を行う際には、いかなる場合でも、まずは身体拘束を行わずに介護するあらゆる方法を検討し、患者・利用者本人等の生命または身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを複数のスタッフで確認する必要がある。また、拘束の方法自体も、患者・利用者本人の状態像等に応じて最も制限の少ない方法により行わなければならない)
  3. 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること(「一時性」の判断を行う際には、本人の状態像等において必要とされる最も短い拘束時間を想定する)

手続きの面でも慎重な取り扱いを

上記の3要件を満たす場合であっても、以下の点に留意することが求められています。

1.病棟・施設全体の判断であること
「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかの判断は、担当のスタッフ個人、あるいはチームの数名だけで行わず、病棟・施設全体としての判断が行われるように、あらかじめルールや手続きを決めておく必要があります。

特に、院内・施設内の「身体拘束廃止委員会」などの組織において、事前に手続等を定め、具体的な事例についても関係者が幅広く参加したカンファレンス(倫理カンファレンス)で判断する体制を整えておくことが原則とされています。

2.本人や家族に十分な説明を
身体拘束を行う際には、患者・利用者本人や家族に対して、身体拘束の内容、目的、身体拘束が必要な理由、拘束の時間、時間帯、期間等をできる限り詳細かつ具体的に説明し、十分な理解が得られるように努めることが重要です。

その説明の際には、施設長や医師、その他現場の責任者が行うなど、説明の手続きや説明者について事前に明文化しておくことが求められます。

仮に、事前に身体拘束について施設・病院としての考え方を利用者や家族に説明して理解を得ている場合でも、実際に身体拘束を行う時点で、必ず個別に説明を行うことが必要です。

3.身体拘束の3要件に該当しなくなったらすぐに解除
緊急やむを得ず身体拘束を行う場合であっても、「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかを常に観察、再検討し、3要件に該当しなくなったら、直ちに拘束を解除します。

この場合には、実際に身体拘束を一時的に解除して状態を観察するなどの対応をとることが重要とされています。

4.身体拘束に関する記録を残し、2年間保存
緊急やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その様態および時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録することが義務づけられています。

この記録には、既定の「身体拘束に関する説明書.経過観察記録」*³を用いて、日々の心身の状態等の観察、拘束の必要性や方法について再検討を行う度に、逐次(ちくじ:一つひとつ順を追って)その記録を加えることが求められています。

同時に、それについて情報を開示し、ケアスタッフ間、病棟・施設全体、家族等関係者の間で直近の情報を共有できるようにしておくことも求められています。

さらに、記載した「身体拘束に関する説明書.経過観察記録」は当該病棟・施設にて2年間保存し、行政による指導監査の際に提示できるようにしておく、とされています。

認知症者の身体拘束もゼロに

なお、「認知症患者・利用者の身体拘束をどうしたらゼロにできるのか」という課題をお持ちの方は少なくないと思います。

この点については、「身体拘束ゼロの認知症医療・ケア」を実践している大誠会認知症サポートチームの取り組みをこちらで紹介しています。是非チェックしてみてください。

認知症、特にBPSDがみられるときは身体拘束を余儀なくされがちで、「縛らない認知症ケア」の実践は簡単なことではない。そんななかBPSDの予防的ケアを徹底して身体拘束ゼロの認知症ケアを実践している医療法人大誠会グループの取り組みを紹介する。
2018(平成30)年度の介護報酬改定では、身体拘束等のいっそうの適正化を目的に、適正化のための対策検討委員会の定期的開催を義務付けるなど、新たなルールが制定され、ルールに違反するとペナルティとして介護報酬の減額(1日当たり10%減算)が行われることになっている。詳しくは、こちら*⁴のp.21を参照されたい。

参考資料*¹:令和6年度診療報酬改定概要説明資料 p.27

参考資料*²:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き ~ 高齢者ケアに関わるすべての人に 」

参考資料*³:「身体拘束に関する説明書.経過観察記録」

参考資料*⁴:平成30年度介護報酬改定の主な事柄について