看護現場で直面する倫理的ジレンマの解き方

道の選択ジレンマ

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看護現場に山積する
倫理的ジレンマ

長年の友人である看護師のFさんから届いた年賀状をきっかけに、今回は「倫理的ジレンマ」ということにフォーカスしてみたいと考えました。その年賀状には、新年の挨拶に加え、こんな添え書きがあったのです。

「看護部長として日々直面して悩む倫理的ジレンマを解いていくうえで道しるべになってくれる素晴らしい本に出合いました!!」

Fさんとは看護系の雑誌の取材で初めて会って以来、親しく情報交換を中心にお付き合いいただいて、そろそろ20年になります。初対面の時のFさんは、病棟主任というお立場でした。それが今や、500床余りの病院の看護部長として、それはもう身を粉にして日々精力的に活動しておられます。尊敬です!!

この20年の間には、たとえば主治医と看護師サイドの認識の違いから、患者に十分な看護ができないとか、終末期にある患者の意向を尊重したいと考えているが、家族が反対していて患者の意思を尊重したケアができないと看護スタッフから相談されている……等々。

こと看護そのものにまつわる倫理的ジレンマについて、「どう思うかしら?」「何かいい解決法はないかしら」などと悩みを打ち明けてくれることがよくありました。ただこのような悩みを話してもらっても、看護現場にいない私には、しっかりした提案ができるわけではありません。

せめて、「そう言えば、〇〇という月刊誌の最新号で医師とのチームカンファレンスについて特集を組んでいたから読んでみたらヒントがあるかもよ」とか、「先日取材した学会で△△という方が、家族とのコミュニケーションについて発表していたけど、学会誌にはその論文が載ると思うから、詳細がわかったら知らせるね」などと答えるのが精一杯でした。

組織のはざまにいる
看護管理者の倫理的ジレンマ

Fさんが病棟主任から病棟の看護師長、さらには副看護部長を経て、看護管理のトップである現在の看護部長へと昇進するのに伴い、彼女が話してくれる倫理的ジレンマは、看護管理者ならではのものへとどんどん変化していきました。

一番大きく変わったと私が感じているのは、「病院という組織」を強く意識するようになったことです。正確には、意識せざるをえなくなったということでしょう。その辺の複雑な心境を、年賀状を受け取った翌日の私からの電話に応えて、Fさんは概ねこんなふうに語ってくれました。

病院という組織が求めている利益の確保とコスト削減という、いわゆるコストパフォーマンスを考えることと、看護が追い求めている「その人らしさを尊重したよりよいケアの提供」を両立させることは口で言うほど簡単ではない――。

その間に横たわる数々の倫理的ジレンマに直面して、看護部長としていかに意思決定していくべきなのか、思い悩む日々が続いている……、と。

「倫理的意思決定プロセスモデル」
の枠組み

そんなときにFさんがたまたま手にし、一読して「今の私の道しるべになってくれる」と実感したというのが、勝原裕美子(かつはら・ゆみこ)氏による『組織で生きる: 管理と倫理のはざまでという本だった、と言うのです。

とりわけ気に入ったのは、第12章で示されている「管理者の倫理的意思決定プロセスモデル」の枠組みとのこと。

看護に限らず私たちが生活しているなかで、どちらも捨てがたいが選択をしなければならないという場面はよくあります。このような倫理的課題に直面したときに、どのように意思決定をしていけばよいのか、その道筋を示してくれているので問題の整理がしやすい、のだそうです。

同時に、その枠組みを頼りに意思決定を進めていくプロセスは、そのまま看護管理者としての役割を改めて見つめ直すことになるとのこと。この振り返りが、看護管理者として、さらには1人の看護師としてのキャリアの積み上げにもつながっていくような気がしている、とも言います。

看護師として
倫理的にふるまうヒントが

Fさんがぞっこんほれ込んだ本の著者、勝原裕美子氏については、前職の聖隷浜松病院副院長兼総看護部長時代に綴っておられた大人気のブログ「やまらい勝ちゃん」を通して、その人となりをご存知の方も多いと思います。

本書では、堅苦しいイメージの強い「倫理的ジレンマ」という課題について、あのブログタッチそのままに、気楽に読めるように、文章表現も、また構成自体も工夫されていて、その気になれば一気に読むことができる本づくりになっています。

こうした本づくりのねらいは、著者が本書のプロローグのなかで書いている次のような考えを強く反映したものと思われます。

本書のタイトルには「管理」という言葉がついており、事例は医療や看護の現場でのことばかりなので、本書を手にされた人は特別な領域の特別な職位の人向けの本だと思われるかもしれない。たしかに、看護管理者(看護師で、かつ管理者)がいちばんの大切な読者層ではある。しかし、ベッドサイドで仕事をする第一線の看護師たちも組織人であり、限られた資源のなかで倫理的に意思決定しなければならないこともある。管理職でなくてもチームのリーダーを務めることは日常的にある。そう考えると、本書には目を通してほしい内容がたくさんある。

引用元:『組織で生きるー管理と倫理のはざまで』(プロローグ)*¹

ここで言及されている第一線の看護師としての仕事と倫理的な課題の関係について、次のように記し、倫理観を大切にして看護師として、また、組織人として、さらには一人の人間として生きることの大切さを説いています。

「いくら卓越した技能や知識をもっていたとしても、そこに倫理性が伴わなければ、よい仕事とはいえない」(p.9)と――。

Fさんは、この本をすでに2回読み返しているとのこと。その読み返すなかで、自分の次なる課題は、倫理的合意を形成していくうえで欠かせないコミュニケーションスキルにさらなる磨きをかけることだと気づいた、と言います。

看護管理のお立場にある方はもちろんですが、そうでない看護師さんも、是非本書を読んでみてください。キャリアアップにつながる何らかの気づきがあるはずです。

意思決定支援で味わう倫理的ジレンマ

また、最近ニーズが高まっている意思決定支援における倫理的ジレンマについては、こちらの記事を読んでみてください。

日常のケア場面で意思決定支援が求められることは多い。その際、患者の意思を最優先すべきだが、患者の選択に倫理的問題を感じてジレンマに陥ることがある。だがそれは自分の価値観との違いに起因することもあり、第三者の意見を求めてみることが大切だ。
治療やケアのあり方がその人の生死を左右する倫理的課題について、患者側と医療者側が話し合い、意思決定するACPなどでは、参加者個々の立場や価値観の違いから、なかなか合意点を見いだせない。その解決法として、臨床倫理4分割法の活用を提案する。

引用・参考資料*¹:『組織で生きる: 管理と倫理のはざまで』(医学書院)