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ユマニチュードはフランス発の
コミュニケーション技法
「ユマニチュード」と呼ばれるコミュニケーション技法をご存知でしょうか。認知症者の「その人らしさ」を尊ぶことを意図したフランス生まれのこの技法が、日本の認知症ケアの現場に導入されたのは、2012年のことでした。
導入された当初は、認知症高齢者が多く入所し、生活している介護関連施設の介護スタッフや自宅で認知症の家族を介護している方たちの間で、まず注目されたように記憶しています。その後、あまり時間をおかずに、テレビや新聞、介護関連雑誌などで、ユマニチュードが盛んに取り上げられるようになりました。
そんななかで、認知症ケアに携わる看護師のみなさんも、少しずつ関心をもつようになった、という経緯があったように思います。
ただ、当時の取材を振り返ってみると、看護師さんの多くはこのユマニチュードを、「看護がずっと大切にしてやってきていることと基本的に同じで、改めて取り上げるほどのことではない」として、比較的冷静に受け止めていたように思います。
ところが、2014年にユマニチュードを紹介する一冊の本、『ユマニチュード入門』が医学書院から刊行され、その技法の底辺にある対人関係に関する考え方や方法論が幅広く浸透するにつれ、ちょっと様子が変わってきました。
看護界においても、認知症患者と信頼関係を築く新たなコミュニケーション技法として、認知症ケアや老年看護の専門家の方々を中心に、ユマニチュードを自らの実践に応用する動きが広がってきたのです。
ユマニチュードとは
「その人らしさを取り戻す」ケア技法
「ユマニチュード」とは、フランス語で「人間らしさ」「人間らしくある状況」を意味し、日本では「人間らしさを取り戻す」と意訳して紹介されることが多いようです。
本書の著者のお一人、本田美和子医師(老年医学)は、ユマニチュード発祥の地である南フランスを訪れ、ユマニチュードの創始者お二人に直接会って話を聞くとともに、お二人と一緒にその技法が実践されている現場を訪れています。
その現場で本田医師は、ユマニチュードをケア技術として身につけたスタッフたちによる「相手の人格を尊重するかかわり」により、多くの認知症者たちが本来の「その人らしさ」を取り戻し、心身ともに回復していく様子を目の当たりにし、いたく感動されたそうです。
その感動のままに帰国され、日本の認知症ケアにも、対人関係を築く「技術」としてユマニチュードを定着させたいと考え、本書をまとめられたとうかがっています。
ユマニチュードでは、「見つめる」「話しかける」「触れる」「立つ」の4つを、ケアされる側とケアする側とがお互いにひとりの人間として向き合うための基本的な技として身につけることを提唱しています。
これらの技法を、その場の状況に見合うかたちで臨機応変、かつ柔軟に組み合わせてかかわり、認知症者と信頼関係を築いていくことにより、認知症者が最期の日のその瞬間までその人らしく生きられるように支えていこうというわけです。
ユマニチュードが提唱する
かかわりの4つの基本技法
「見る」ではなく「見つめる」
ユマニチュードが基本にしている4つの技を詳しく見ていくと、まず「見る」ではなく「見つめる」としている点に大切なポイントがあるように思います。
この点については、幼かった頃に母親から、「話をするときはきちんと相手と視線を合わせて話しなさい」と繰り返し言われたことを思い出します。
ユマニチュードが基本としている「視線をきちんと合わせ続ける」ことが、相手がどのような状況にある人であっても、信頼関係を構築する第一歩であることに異議をとなえる人は、おそらくいないでしょう。
「話す」ではなく「話しかける」
2つ目の技についても、「話す」ではなく、優しく、穏やかに、低めの声で、できるだけ前向きな言葉で「話しかける」ことをユマニチュードはすすめています。
相手の了解をとってから「触れる」
3つ目の「触れる」については、「腕や足をつかまない」「いきなりではなくゆっくり」「一定の重みをかけて」、しかも「必ず相手の了承をとって触れるようにし、拒否されたら絶対に触れないように」と書かれています。
洋画などを観ていると、相手に「ハグしていいかしら?」と尋ね、相手がOKサインを出すとハグするというシーンがよくありますが、あの精神です。
ケアをする際には了解を得ないままに相手の身体に触れるということを、ついやってしまいがちではないでしょうか。それだけにこの指摘は重要なポイントだと思います。
「立つ」機会を増やす
そして最後の「立つ」には、寝たきり、寝かせきりになるのを防ぐ観点から、できるだけ身体を起こしたり、立つ機会を増やす支援をしよう、との意図が込められているようです。
このように具体的にみていくと、相手の人格を尊重したかかわり方の基本となることは、万国共通なんだと、つくづく感じ入ったものです。
ユマニチュードを
あらゆる看護場面で活用を
ここまで理解が進むと、ユマニチュードは、相手の人格を尊重することを基本とするコミュニケーションに基づくケア技法であることがおわかりいただけるかと思います。
その理解のもとに、実はユマニチュードは、認知症以外の患者の看護場面にも応用可能であり、人間関係の改善に役立つとの声が、あちこちで聞かれるようになっています。
たとえば高度急性期病院で身体拘束ゼロを達成した金沢大学附属病院では、このユマニチュードの哲学と技術を多くの看護師が学び、身に着けて、日々の看護実践に生かしていることが拘束ゼロの看護につながっていると報告されています。
日本ユマニチュード学会も
なお、2019年7月には、日本国内におけるユマニチュードの哲学とその技法の普及および研究を目的に「日本ユマニチュード学会」(代表理事:本田美和子・国立病院機構東京医療センター総合内科医長)が設立されています。ユマニチュード認証制度や研修・講演などの活動内容に関心のある方はこちらをご覧ください。