看護師が考える「その人らしさ」とは?




看護におけるその人らしさ

「その人らしさを尊重する」は
「よい看護」のキャッチフレーズ?

看護・医療領域の出版に携わっている関係から、病院の看護部・看護局のホームページにアクセスすることがよくあります。

そのたびに気になるのが、「看護部の理念」「看護局の理念」として書かれているなかに
「その人らしさを尊重する看護を提供します」
といった一文をあげている病院看護部や看護局が多いことです。

この「その人らしさを尊重する」とか「その人らしく生きることを支援する」という表現は、看護の研究論文のタイトルなどでもよく使われています。

看護職や看護教員の方々を取材していても、話のなかにこのフレーズがよく登場します。

最近では、ICF(総合的な生活機能)の考え方が普及している介護や福祉の領域でも「その人らしい生活」とか「その人らしさを取り戻す」といった表現が好んで使われているようです。

その辺の話はこちらの記事を読んでみてください。
→ ICFと「その人らしさ」を尊重する看護実践

「その人らしさ」とは?

「その人らしさを尊重する」という文言が「よい看護」「よいケア」のキャッチフレーズのように安易に使われている感がないわけではありません。

看護師のあなたご自身は、そもそもこの「その人らしさ」という言葉にどのような思いを込め、どのような意味合いで日々使っているでしょうか。

また、患者個々の「その人らしさ」をいかにして把握し、理解して、具体的な看護につなげておられるのでしょうか

看護における
「その人らしさ」の定義は?

慢性疾患看護専門看護師の下村晃子さんも、
近著の『生活の再構築―脳卒中からの復活を支える 』(仲村書林)のなかで、
この「その人らしさ」「その人らしい」ということに繰り返し言及しておられます。

たとえば、冒頭の「序に変えて」のなかで下村さんは、四半世紀もの間、脳卒中をはじめとする脳神経系疾患の患者や家族にかかわってきたことを紹介しています。

そのうえで、その長い間一度もぶれることなく、
「その人らしい生活を取り戻す手助けをしたい
という思いのもとに看護に取り組んできたと、記しています。

続いて、この「その人らしい」とか「その人らしさ」という言葉をあまり意識することなく日々頭に置き、あるいは使ってきたことを振り返り、改めて「その人らしさ」を、下村さんなりにこんなふうに定義しています。

その人の価値観や人生観など、
「その患者個人を特徴づけているものであり、その人がこだわっている生き方のスタイルそのもの」だと――。

ここで言う「こだわり」の探り方については、こちらの記事を読んでみてください。
→ 「その人らしさ」は「その人のこだわり」から

認知症ケアで重要とされる
「パーソンフッド(その人らしさ)」

認知症ケアの領域にも、「その人らしさ」を重視する根拠らしきものはありました。
1990年代初頭に英国の臨床心理学者、トム・キットウッド(T. Kitwood)が、「パーソンセンタード・ケア(Person Centered Care)」という概念を提唱しています。

この概念は、あまり時間を置かずに日本にも紹介され、認知症ケアの専門職を中心に、一時期かなりのブームになりました。
記憶しておられる看護師さんも少なくないと思いますがいかがでしょうか。

この概念について、5年ほど前に、当時認知症介護研究・研修東京センターのセンター長を務めておられた老年精神医学者で、あの認知症スケールの開発者である長谷川和夫医師を取材させていただいたことがあります。

その人の言いなりになることではない

そのとき長谷川医師は、キットウッド博士の著書『Dementia Reconsidered』の中心概念が「パーソンフッド(Personhood)」であるとし、
「これを日本語でいえば、”その人らしさ”ですね」と説明してくれました。

そのうえで、パーソンセンタード・ケアは、
「認知症者の言いなりになることではないし、ケアする側の都合を優先することでもない」
と説明してくれたことを印象深く記憶しています。

長谷川医師のこの説に関心のある方は、『その人を中心にした認知症ケア―みんなで学ぼう』(ぱーそん書房)が参考になります。

その後90歳を目前にした長谷川和夫医師は、自らが認知症であることを公表。その2年後に認知症になったご自分が生きている世界のすべてを一冊の本にまとめています。
詳しくはこちらの記事を!!
→ 患者になった認知症専門医が語る認知症の世界

「その人らしさ」を
看護として理解するには

看護の場面でも介護場面でも、「その人らしさ」ということを意識しすぎると、長谷川医師が指摘されたように、とかく「患者の言いなり」になってしまうのではないでしょうか。

それを避けるためには、患者との言語的・非言語的コミュニケーションを通して、
「その人がこだわっているもの」「それにこだわる理由」を知るとともに、
「その人の強み」、つまり「その人が今持っている力」「自分でできること」についても理解することが大事だと、下村さんは先の著書の中でも記しています(p.103)。

患者個々が、今持っている力を最大限発揮して、日常生活に自分らしさを取り戻し、主体的に生活していけるように支援することが、その人らしさを尊重することになるのだろうと、私なりに理解したところです。

下村さんの慢性疾患看護専門看護師としてのサブスペシャリティは、脳神経系領域です。
そのためこの著書のサブタイトルは「脳卒中からの復活を支える」となっていますが、この著書に書かれていることは、脳神経系領域における看護に限ったことではありません。

領域の別なく、あらゆるかかわりの基本として、「その人らしさを尊重する看護実践」の参考になると思うのですが、いかがでしょうか。

「その人らしさ」のヒントが「嗜好品」に

なお、看護師さん同様、医師らも「その人らしさの尊重」には日々力を入れています。
その典型例として、「嗜好品外来」というユニークな外来があることをご存知でしょうか。

患者に嗜好品について話してもらうことをきっかけに、趣味について、こだわっていることについて……、と話を進めていくことが、その人らしさを知ることにつながっていくでしょうし、治療にも役だっていくのではないでしょうか。

いずれにしても「嗜好品外来」での取り組みは「その人らしさを尊重する看護」に役立つと考え、こちらの記事で紹介していますので、参考にしてみてください。
→ 看護師は患者の「嗜好品」にも関心を