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多職種連携による地域ケアに
ICFの活用が欠かせない
訪問看護を続けてそろそろ15年になるH看護師とは、近況報告をし合う間柄です。あるとき彼女が何気なく口にした、「最近の私の課題はICFの活用かしら」という言葉が、とても気になりました。
と言うのは、つい先日も、退院支援を専任で行っている看護師さんから、「ICFについてもっと理解を深め、実際に活用できるようにしないと、地域のケアチームとの連携がうまくいかない」という話を聞いたばかりだったからです。
ご承知のように「ICF」とは、いわゆる「国際生活機能分類」 のこと。WHOが2001年5月、病気などによる障害の新たなとらえ方として公表した、「健康状態からもたらされる基本的日常生活動作能力(Basic ADL)の状態に関する国際分類」です。
WHOがICFを公表した翌年には、その日本語版として『ICF国際生活機能分類: 国際障害分類改定版』(中央法規出版)が刊行されています。
以来、わが国においてICFは、リハビリテーション領域の専門職を中心に、日々の実践への活用に向けた議論が進められてきたように思います。そして最近では、在宅ケアや高齢者ケアにかかわる方々を中心に活用への取り組みが始まっているようですが、看護職のあなたはいかがでしょうか。
ICFの看護実践が
「その人らしさ」の尊重へ
看護師さんは日々の看護実践において、対象となる患者(利用者)の「その人らしさを尊重する」ことを最優先課題にしておられます。その場合の「その人らしさ」については、さまざまな定義が報告されています。
その一つ、たとえば慢性疾患看護専門看護師の下村晃子さんは、著書*¹のなかで、「その人らしさ」についてこんなふうに書いておられます。
私なりに「その人らしさ」を定義するなら、その患者固有の価値観や意志、自然な姿といったようなもののすべてを包含する、「その人を特徴づけているものであり、その人がこだわっている生き方のスタイルそのもの」といっていいかと思います。
引用 :『生活の再構築―脳卒中からの復活を支える』*¹(p.99-100)
この考えをベースに、患者との言語的・非言語的コミュニケーションを通して、「その人がこだわっているもの」「それにこだわる理由」の理解に力を注ぐとともに、「その人の強み」、つまり「その人が今持っている力」「できること」に目を向けるようにしていると、下村さんは記しています。
このような視点で「対象理解」を深めながら、その人が、今持っている力を最大限発揮して自分らしさを取り戻し、主体的に生活していけるようにかかわっていく――。おそらくこれが、看護師さんが目指している「その人らしさを尊重する看護」につながっていくのだろうと、私は理解しています。
ICFの視点が
「その人らしさ」への視点
ところでICFは、病気などにより生じている生活機能の障害の度合いを、「できないこと」に視点をおいてとらえるという長年続けてきた方法をやめ、これからは「できること」を見ていこうという、まさに180度の発想転換を促すものです。
このベースにあるのは、対象者の生活機能全体、つまり日常生活動作能力など、その人が生きていくうえで必要な機能の一つひとつを「できること」に視点を置いてみようとしています。この視点でとらえ、その人の全体像を前向きに理解していこうという考え方です。
ナイチンゲールの健康観が原点!?
この、「できないことではなく、できることに視点を置く」という対象理解の考え方については、発想のおおもとをたどってみると、ナイチンゲールの健康観にあることがわかったという話を、もうかなり前の取材で聞いたことがあります。
この話をしてくれたのは、わが国におけるリハビリテーション医学のオーソリティーで、国際リハビリテーション医学会の会長も務められ、わが国におけるICFの普及に尽力されてきた上田敏(さとし)医師です。
取材後の雑談のなかで上田医師が、「看護師さんはナイチンゲールの教えをベースにした看護独自の対象理解の方法をすでにもっていますから、改めてICFなんて、と思われるかもしれませんが……」としたうえで、こんな話をしておられたことが印象深く残っています。
「ICFを、看護師さんが対象理解の視点として大事にしているものを他の職種と協働していくためのツールとしてとらえたらどうでしょう。このとらえ方により、この先看護師さんには、臨床におけるICF活用のイニシアチブをとっていただけると思うのですが……」
上田医師はICFを初めて学ぶ方向けに、「新しい障害観であるICFの基本的考え方とそれをどう活用するか」を『 ICF (国際生活機能分類) の理解と活用 ―人が「生きること」「生きることの困難(障害)」をどうとらえるか』(萌文社)に簡潔にまとめておられます。まずはICFの取っ掛かりに一読をおすすめします。
ICF分類の臨床実践向け
ICFコアセットが登場
WHOの発表後にわが国でも紹介されているICFは、ベースにある対象理解の考え方には理解が深まり、普及が進んでいるようです。
しかし、健康状態からもたらされる生活機能の状態について評価し、分類する、いわゆるアセスメントツールとして日常の臨床で活用していくには、アセスメント項目の数が膨大過ぎるという問題があります。
そのため分類に時間がかかりすぎて、そのまま利用できるツールになっていない、つまり実用的ではないとの指摘が、実際にその活用を試みた専門家の間からあがっていました。ICFの分類コードなどを一目見て同様の感想を持ち、日々の実践に活用していくのは難しいと、使用を躊躇しておられる看護師さんも少なくないのではないでしょうか。
この「実用的でない」との声が世界的に広がるのを受け、より実践的で使いやすいものとして、「ICFコアセット( Core Sets)」がドイツの研究チームにより開発されています。
ICFコアセットを使用した5つの実践例
ICFコアセットとは、ICF分類のなかから選択された複数のカテゴリーを組み合わせたものですが、その日本語版『ICFコアセット 臨床実践のためのマニュアル―CD-ROM付(ICFコアセット・記録用フォーム・使用症例)』(医歯薬出版)もすでに刊行されています。
本書は9章から構成され、その第5章では、臨床実践の場で活用できるようにと、以下5例のICFコアセット使用症例が紹介されています。
- 急性期ケアにおける筋骨格系健康状態のためのICFコアセットの適用
- 亜急性期ケアにおける脊髄損傷のための包括ICFコアセットの適用
- 長期ケアにおける多発性硬化症のためのICFコアセットの適用
- 長期ケアにおける職業リハビリテーションのためのICFコアセットの適用
- 長期ケアにおける腰痛のためのICFコアセットの適用
附属のCD-ROMには31のICFコアセットやすべてのコアセットの記録用フォームなども収載されていますから、ICF導入に向けた入門書として活用してみてはいかがでしょうか。
なお、ICFのごく実践的な話として、「ICFの発想で、できることを奪わない看護を」もあわせて読んでみてください。
引用・参考資料*¹:『生活の再構築: 脳卒中からの復活を支える 』