ICFと「その人らしさ」を尊重する看護実践




チームワーク

地域ケアチームとの連携に
ICFの活用が欠かせない

高齢者の在宅ケアを中心に訪問看護を続けてそろそろ10年になる看護師さんとは、近況報告をし合う仲です。あるとき彼女が何気なく口にした、
「最近の私の課題は、ICFの活用かしら」
という言葉が、とても気になりました。

というのは、つい先日も、退院支援を専任で行っている病院勤務の看護師さんから、
「ICFについてもっと理解を深め、実際に活用できるようにしないと、地域のケアチームとの連携がうまくいかない」
という話を聞いたばかりだったからです。

ご存知のように、「ICF」とは、International Classification  of Functioning,Disability
and Health、いわゆる「国際生活機能分類」 のこと。

WHO(世界保健機関)が2001年5月に、病気などによる障害の新たなとらえ方として公表した、健康状態からもたらされる基本的日常生活動作能力(Basic ADL)の状態に関する国際分類です。

WHOがICFを公表した翌年には、その日本語版として『ICF 国際生活機能分類―国際障害分類改定版』(中央法規出版)が発行されています。

以来、わが国においてICFは、リハビリテーション領域の専門職を中心に、理解を深め、かつ日々の実践への活用に向けた議論が積極的に進められてきたように思います。

そして最近では、介護職を含む在宅ケアや高齢者ケアにかかわるスタッフを中心に活用への取り組みが始まっているようですが、看護職のみなさんはどうでしょう。

ICFの看護実践が
「その人らしさ」の尊重へ

看護師さんは日々の看護実践において、看護の対象となる患者、訪問看護で言えば利用者の「その人らしさを尊重する」ことを最優先課題にしておられます。
この場合の「その人らしさ」については、さまざまな定義が報告されています。

その一つ、たとえば慢性疾患看護専門看護師の下村晃子さんは、近著『生活の再構築―脳卒中からの復活を支える 』(仲村書林)のなかで、四半世紀、つまり25年に及ぶ患者へのかかわりを振り返り、「その人らしさ」についてこんなふうに書いています。

私なりに「その人らしさ」を定義するなら、その患者固有のや意志、自然な姿といったようなもののすべてを包含する、「その人を特徴づけているものであり、その人がこだわっている生き方のスタイルそのもの」と言っていいかと思います。

引用 :『生活の再構築―脳卒中からの復活を支える』(p.99-100)

この考えをベースに、患者との言語的・非言語的コミュニケーションを通して、「その人がこだわっているもの」「それにこだわる理由」の理解に力を注ぐとともに、「その人の強み」、つまり「その人が今持っている力」「できること」に目を向けるようにしていると、下村さんは記しています。

このような視点で「対象理解」を深めていきながら、その人が、今持っている力を最大限発揮して自分らしさを取り戻し、主体的に生活していけるようにかかわっていく――。

おそらくこれが、看護師さんが目指している「その人らしさを尊重する看護」につながっていくのだろうと、私は理解しています。
→ 看護師が考える「その人らしさ」とは?

ICFの視点が
「その人らしさ」への視点

ところでICFは、病気などにより生じている生活機能の障害の度合いを、「できないこと」に視点をおいてとらえるという長年にわたって続けられてきた方法をやめ、これからは「できること」を見ていこうという、まさに180度の発想転換を促すものです。

このベースにあるのは、対象となる人の生活機能全体、つまり日常生活動作能力など、その人が生きていくために必要なあらゆる機能を「できること」に視点を置いてみようとしています。
この視点でとらえ、その人の全体像を前向きに理解していこうという考え方です。

この、「できないことではなく、できることに視点を置く」という対象理解の考え方については、発想のおおもとをたどってみると、ナイチンゲールの健康観にあることがわかったという話を、もうかなり前の取材で聞いたことがあります。

この話をしてくれたのは、わが国におけるリハビリテーション医学のオーソリティーであり、国際リハビリテーション医学会の会長なども務められ、わが国におけるICFの普及に尽力されてきた上田敏(さとし)先生です。

取材を終えた雑談のなかで、上田先生が、こんな話をしておられたことが、今もってとりわけ印象深く残っています。

「看護師さんは、ナイチンゲールの教えをベースにした看護独自の対象理解の方法をすでにもっていますから、改めてICFなんて、と思われるかもしれません。しかしICFを、看護師さんが対象理解の視点として大事にしているものを、日々の臨床で多職種と共有し連携していくためのツールとしてとらえてみたらどうでしょう。このとらえ方により、この先看護師さんには、臨床におけるICF活用のイニシアチブをとっていただけると思うのですが……」

ICF分類の臨床実践向け
ICFコアセットが登場

WHOの発表後にわが国でも紹介されているICFについては、ベースにある対象理解の考え方については理解が深まり、広く受け入れられて、普及が進んでいるようです。

しかし、健康状態からもたらされる生活機能の状態について評価し、分類する、いわゆるアセスメントツールとして日常の臨床で活用していくには、アセスメント項目の数が膨大過ぎるという問題があります。

そのため分類に時間がかかりすぎ、そのまま利用できるツールになっていない、つまり実用的ではないとの指摘が各方面、とりわけ臨床において実際にその活用を試みた専門家の間からあがっていました。

実際、ICFの分類コードなどを一目見て同様の感想を持ち、日々の実践に活用していくのは難しいと考え、使用を躊躇しておられる看護師さんが少なくないのではないでしょうか。

この「実用的でない」との声が世界的に広がるのを受け、より実践的で使いやすいものとして、「ICFコアセット( Core Sets)」がドイツの研究チームにより開発されています。

ICFコアセットとは、ICF分類のなかから選択された複数のカテゴリーを組み合わせたものですが、その日本版『ICFコアセット 臨床実践のためのマニュアル―CD-ROM付(ICFコアセット・記録用フォーム・使用症例)』(医歯薬出版)もすでに刊行されています。

本書は9章から構成されています。
その第5章では、臨床実践の場で活用できるようにと、以下5例のICFコアセット使用症例が紹介されています。

  1. 急性期ケアにおける筋骨格系健康状態のためのICFコアセットの適用
  2. 亜急性期ケアにおける脊髄損傷のための包括ICFコアセットの適用
  3. 長期ケアにおける多発性硬化症のためのICFコアセットの適用
  4. 長期ケアにおける職業リハビリテーションのためのICFコアセットの適用
  5. 長期ケアにおける腰痛のためのICFコアセットの適用

附属のCD-ROMには31のICFコアセットやすべてのコアセットの記録用フォームなども収載されていますから、ICF導入に向けた入門書として活用してみてはいかがでしょうか。

なお、ICFの実践多岐な話としては、こちらの記事を読んでみてください。
→ ICFの発想で「できることを奪わない」看護を