大人の発達障害―特性を踏まえたかかわりを

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「大人の発達障害」を
ご存知ですか

このところ「発達障害」とか「ADHD(注意欠如・多動症)」という言葉をよく耳にするようになりました。いずれもこれまでは、子どもの問題としてとらえられがちでした。それが最近では、世間に顔も名前も知られた「有名人」とされる方が、自分が発達障害であると公表したりして、「大人の発達障害」が広く一般にも知られるところとなっています。

大人の発達障害、つまり発達障害をもつ成人の多くは、「周囲に溶け込めない」「ケアレスミスが多い」「その場の空気が読めない」「コミュニケーションが苦手」等の問題を抱えながらも、なんとか努力してそれぞれの職場や社会で社会人として活躍しています。

当然の成り行きとして、彼らが発達障害とは別の健康問題で医療機関を訪れ、看護職の皆さんの前に現れることもあるわけです。

患者から「自分は発達障害です」と打ち明けられたら

実際、別件で内科医を取材した折りに、こんな話を伺ったことがあります。

「病気や検査の説明をしてもこちらの言っていることをなかなか理解してもらえない患者さんがいて、どうしたものかと迷っていたら、実は自分は発達障害の診断を受けていると打ち明けられたことがあります」

そんなとき、患者が抱える発達障害をどのように理解してかかわったらいいのでしょうか。このとき内科医が話してくれたことを思い起こしながら、かかわり方のポイントを書きとめておきたいと思います。

発達障害は
生まれもった「特性」あるいは「個性」

「発達障害」とは、先天的に脳機能の発達に部分的なかたよりがあるために、情報を処理したり感情をコントロールしたりする機能に支障が生じ、コミュニケーションや対人関係を中心に日常生活に困難をきたしている状態を言います。

このような状態は先天的、つまりその人の生まれつきの「特性」です。「個性」と言ってもいいでしょう。ですからおそらくは、幼少時にも情緒面や行動面にその子なりの特徴があり、「集団になじめない」とか「感情的になりやすい」等の症状があったはずです。

しかしそうした症状は、両親をはじめとする周りの大人たちによってカバーされ、「ちょっと変わった子」「手のかかる子」という理解のまま、発達障害自体が見過ごされてきたことも珍しくないようです。

ところがその子が独り立ちをして社会人として生活するなかで、潜在していたその特性が顕在化し、「人の名前や顔を覚えられない」とか「周囲に溶け込めない」「人の気持ちを気づかうことができない」ことから生活のしづらさを自覚するようになり、そこで初めて自分が発達障害であることに気づくことになります。「大人の発達障害」の方には、このようなケースが多いと聞きます。

大人の発達障害に多い
情緒・行動面の特徴

発達障害を抱える成人患者にかかわるコツとして、先の内科医が話してくれたのは、その人の情緒面や行動上の特徴を「発達障害」としてではなく「発達特性」としてとらえる、ということでした。

大人の発達障害で見られる情緒面や行動上の特徴には、大別して以下に示す3つの傾向があると説明されています。

  1. 自閉症スペクトラム障害(ASD)
    「相手の立場に立って考えることが苦手」「その場の空気を読めない」「臨機応変に気持ちや行動を切り替えることが難しい」などの特性により、コミュニケーションが苦手なうえに融通性に乏しく、自分の中でパターン化した行動に強くこだわる
  2. 注意欠如・多動症(ADHD)
    「注意欠如(気が散りやすい)」「多動(じっとしていられない)」「衝動(考える前に思いつきで行動する)」特性により、感情が不安定で、次々と周囲のものに関心を持ち即行動に移すことが多く、周囲のペースに合わせて行動することが難しい
  3. 学習障害(LD)
    「話す」「理解する」は普通にできるのに、「読む(特に漢字を正しく覚えられない)」「書く(鉛筆など筆記具の操作が上手くできない)」「計算する(特に暗算が苦手)」ことが、努力しているのにうまくできない

発達特性にはプラスとマイナスの両面が

これらの特性はきっちり分けられるものではなく、それぞれの特性を併せ持つ人もいれば、特性の現れ方が特に強い人もいれば弱い人もいて、現れる症状も、それによって生じる生活上の困りごとも一人ひとり微妙に異なるようです。

その人がもつ発達特性により日常生活に支障をきたし、生活のしづらさを感じることはあるものの、その一方で別の面では、その特性が非常に優れた能力を発揮することがあるのも、発達障害の特徴の一つです。

したがって、「発達障害」としてマイナスにとらえてかかわるのではなく、その人の「発達特性」ととらえてプラスの面を見つけ、その部分を最大限活かすことによって苦手な部分をカバーできるようにかかわるのがいいようです。

発達障害の人の生きづらさの理解に

なお、2022年12月には、認知神経科学者である井出正和氏による『発達障害の人には世界がどう見えるのか (SB新書)』(SBクリエイティブ)という本が刊行されています。

発達障害の人がどのような生きづらさを抱え、どんなことに困っているのかを具体的に理解し、その苦しみを軽減してコミュニケーションの円滑化を図つていくうえで役立つ内容となっています。是非読んでみてください。

また、特性を踏まえた具体的なかかわり方について知っておきたい方は、精神科医の岩瀬利郎氏によるこちらの本がお勧めです。

患者の発達特性を
「その人らしさ」ととらえる

翻って考えると、看護職の皆さんは日々のケアにおいて、「その人らしさを尊重する」ことをとても大切にしておられます。

大人の発達障害を抱える患者のもつ発達特性を「その人を特徴づけているもの、その人の生き方のスタイル」としてとらえることができれば、難なくかかわることができるように思うのですが、いかがでしょうか。

また、その人が「できない」とか「苦手」というマイナス面ではなく「できていること」、つまりプラス面を見つけ、その「できる」ことで「できていない」ところをカバーし、「できる」ことを増やしていくというかかわりも看護職ならお手のものではないでしょうか。

なお、「もしかしたら自分は発達障害では?」と悩んでいる方には、専門の相談窓口や専門の医療機関へ相談してみることを勧めてみてはいかがでしょうか。

発達障害とは:精神疾患の診断のために参照されることの多いアメリカ精神医学会の診断基準DSM(精神障害の分類と診断の手引き)の最新版である第5版(DSM-5)において発達障害は、「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠如・多動症(ADHD)」「学習障害(限局性学習症、LD)」「コミュニケーション障害」「知的障害(知的能力障害)」「発達性協調運動障害」「チック症」の7つに分けられている
参考資料*¹:American Psychiatric Association(著),日本精神神経学会(日本語版用語監修),高橋三郎,大野裕(監訳)「DSM-5精神疾患の分類と診断の手引」医学書院,2014