ビジネスケアラーに仕事と介護の両立支援を

介護

ビジネスケアラーが
300万人を超える時代に

11月13日(2023年)、岸田首相が認知症に関する会議の席で、仕事と介護の両立支援制度を盛り込んだ法案を来年度の通常国会に提出するよう指示した、との報が流れました。家族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」を防ぐため、介護休業制度などの周知を企業に求める仕組みを検討する方針、とのことです。

先に経済産業省は、第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年以降は、ビジネスケアラーの数が優に300万人を超え、日本経済は大損失を免れない、との推測を発表しています。

ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族等の介護をしている人のことです。

経済産業省がこのように推測した背景には、「高齢になった親を在宅で介護するためには仕事を辞めなくてはならないのではないか」とか、「介護のためには仕事をセーブする必要があるのではないか」、といった懸念が根強くあるように思います。

しかし私たちの国には、介護保険制度をはじめとして、介護が必要な方を社会全体で支えていくための公的サービスが各種用意され、その体制も整備されてきています。それらのサービスを上手に活用すれば、在宅で老親を介護するために仕事を辞めたりしなくても、仕事と介護を両立させていくことは可能ではないでしょうか。

国や企業で始まった新たな取り組みに加え、看護としてビジネスケアラーに提案し、支援できることをまとめてみたいと思います。

「日中ひとりに」の不安は
日帰りサービスでクリア

退院支援を担当している看護師さんによれば、高齢の患者さんが在宅療養に移行する話になると、ご家族の多くは、「日中ひとりにしておけないだろうから、今の仕事をこのまま続けるのは無理だろう」と考えるようです。

そんな話になったときは、もちろん患者さんの状態にもよるのですが、「在宅療養に移っても、日中ずっと自宅にいるわけではないんですよ」という話をするのだそうです。

平日であれば、介護保険に用意されている日帰りの通所サービス、「デイサービス(通所介護)」や「デイケア」と呼ばれる「通所リハビリテーション」を利用することができます。

いずれのサービスも、原則として送迎サービスつきです。ご家族が送り迎えをする必要はありませんから、自宅で見送ってから出勤し、いつも通りの勤務を続けているビジネスケアラーがこのところ増えていると聞きます。

認知症でも日帰りサービスを利用できる

ちなみにこのタイプのサービスは、認知症の方も利用できることをこちらで紹介しています。是非チェックしてみてください。

在宅で認知症などの夫や妻を介護していると、24時間、365日一緒に暮らしていることから心身ともに疲労困憊の状態に陥りがち。時には介護から解放される時間を持つことがすすめられる。その一つの方法として、デイサービスやデイケアの利用の提案を。

通所サービスが無理なら
各種ある訪問サービスを活用

ただ高齢の方には、「人と群れるのは嫌い」という方が少なくないようです。現役時代のままのプライドからでしょうか、老いた病身を人目にさらされるのを避けたがる方もいるでしょう。そんな方は、デイサービスやデイケアに通いたがらないものです。

あるいは、褥瘡があるとか、酸素吸入や経管栄養などの医療的処置が必要で、通所サービスを活用するのは無理な方もいるでしょう。その場合は、訪問サービス(訪問看護、訪問介護、訪問リハビリテーション)を利用すれば、日中の時間帯の介護を専門家に委ねることができます。

院内の退院支援看護師か
MSWへの相談を勧める

いずれにしても、これからビジネスケアラーとして在宅介護を始めようという方には、患者さんが入院中であれば、まずはその病院の退院支援看護師や医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)に、遠慮なく相談するよう勧めていただきたい。

この場合、患者さん側としては、抱えている課題を退院支援看護師とMSWのどちらに相談すべきか迷いがちです。

そんなときはこちらを参考に、退院支援看護師は医療やケアの面で支える専門家であること、MSWは社会福祉面で支える専門家であり、在宅介護にかかる費用など経済的なことも含め、暮らし全般の相談に乗ってもらえることを伝えてみてはいかがでしょうか。

退院支援担当看護師とMSWとが連携して退院支援を行うケースが多い。お互いの専門性を尊重し合いながらの活動になるのだが、実務上重なる部分も多く、患者側に「このことはどちらに相談したらいいのか」と戸惑わせることが多いと聞く。その解決策は……。

市区町村に一つはある
地域包括支援センターの活用を

病院によっては、退院支援看護師やMSWがいないかもしれません。あるいは家族が、入院先のスタッフには相談しにくい問題を抱えていることもあるでしょう。そんなときの相談先として、「地域包括支援センター」があることも伝えておきたいものです。

地域包括支援センターは、地域に暮らす高齢者や家族の医療・介護・福祉に関するありとあらゆる相談や悩みに各種領域の専門スタッフが対応して、情報提供やサービスの紹介を無料で行う公的機関です。

原則として市区町村に最低一つは設置されています。最寄り(介護者でなく高齢者の居住地)のセンターの所在は、厚生労働省の公式ホームページにある「全国の地域包括支援センターの一覧」*¹で確認できること、電話でもFAX、あるいは手紙でも問い合わせできることを伝えてはいかがでしょうか。

その際には、地域包括支援センターは「高齢者あんしん相談センター」などの愛称で活動している地域があることも、情報として提供することをお忘れなく。

介護保険の要介護認定は
入院中に申請を

なお、デイケアなどの通所サービスや訪問サービスなど介護保険サービスを利用するには、事前に「要介護認定(要支援認定を含む)」を受ける必要があります。それには申請が必要ですが、その方法はこちらを参照してください。

介護保険制度については、「申請方法がよくわからない」「かかりつけ医がいないので申請できないのでは」といった声をよく見聞きする。用意されているサービスを上手く利用できていない方も多いと聞く。そこで、改めて基本的なことを整理してみた。

この申請から介護認定の面接調査を受け、その結果が届くまで、病状などにより多少の違いはありますが、おおむね1か月はかかっているようです(介護保険法では「原則30日以内に結果を通知する」としている)。

退院して自宅に戻ったその日から介護保険サービスを利用するには、できるだけ入院中に要介護認定の申請を済ませ、要介護度を確認しておけば安心でしょう。

なお、介護保険法には「要介護認定は申請日にさかのぼってその効力を生ずる」という規定があります。仮に結果が出る前に退院することになっても、申請時点から介護保険サービスを利用できることも伝えておけば、安心材料となるでしょう。

「退院前カンファレンス」への
参加を促す

ビジネスケアラーとして仕事と介護を両立させていこうという方が、これから始める在宅介護をイメージして両立の妨げになると思っていること、またかかわるスタッフへの要望などを的確に把握するには、「退院前カンファレンス」への参加を促すのが一番です。

退院前カンファレンスに関することは、こちらを参照してください。なお、退院前カンファレンスは患者サイドの同意を得て行えば診療報酬の評価対象となり、原則として患者サイドも参加できることになっています。

入院患者が退院後も安心して療養生活を送るためには関係する職種間の密な連携が欠かせない。その要となるのが退院前カンファレンスだが、2018年度の診療報酬改定で充実された「退院時共同指導料」が連携の強化に一役買っていると語る退院支援看護師の話を紹介する。

参考資料*¹:厚生労働省「全国の地域包括支援センターの一覧」