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劇症型溶血性レンサ球菌感染症
この半年で患者数が過去最多に
手や足の壊死などを引き起こし、発病から数十時間以内に急性腎不全や肝不全など多臓器不全によるショック状態から死に至ることもあることから、「人食いバクテリア」とも呼ばれる感染症をご存じでしょうか。
この感染症、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」について国立感染症研究所は6月11日、今年(2024年)に入ってからすべての都道府県で患者が確認されており、1月からの累積患者数が早くも977人(速報値)に達したと発表しています。
昨年(2023年)1年間の患者数は941人で、統計を開始して以来最多を記録していました。ところが今年は、まだ半年足らずしか経っていないというのにすでに過去最多を更新したことになります。
事態を深刻に受け止めた感染症専門医らは、「手足にある傷口の痛みや腫れ」「発熱」など感染の兆候があったら早期に医療機関を受診するよう、広く一般に呼びかけています。
また、武見敬三厚生労働大臣も11日の閣議後会見で、この感染症患者が日本だけでなく諸外国でも増加傾向にあるとして、「手指衛生や咳エチケット、傷口の清潔な処置など基本的な感染防止策を徹底してほしい」と注意を促しています。
手足のわずかな傷口や
感染者の飛沫を介して感染
国立感染症研究所のウエブサイト*¹によれば、問題の劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌は、昨年(2023年)の夏以降患者が増加している急性咽頭炎の原因菌として知られる「溶血性レンサ球菌(いわゆる溶連菌)」です。
この細菌が、手足のわずかな傷口(軽い怪我、切り傷、擦り傷、ひびわれ、指先のささくれ、水虫、虫刺され、転倒などによる打撲傷)や鼻腔や喉から感染者の飛沫を介して体内に入り込んで発症する感染症で、「溶連菌感染症」の一種です。
感染症法上は、新型コロナウイルス感染症や季節性インフルエンザなどと同じ5類感染症で、患者を診断した医師には7日以内に保健所に届け出ることが義務づけられています。
初期の感染症状が
急激に悪化してショック状態に
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、免疫不全疾患や糖尿病など重篤な基礎疾患による免疫力低下がみられないにもかかわらず突発的に発症し、その後急激かつ劇的に病状が進行するのが特徴です。子どもから大人まで広範囲の年齢層に発症しますが、30歳以上の大人、特に高齢者、あるいは妊娠中の方に多い*のも特徴の一つです。
この感染症では、何らかの傷がある手足の疼痛、傷口の周りの発赤、腫れ、発熱といった感染症状が突発的に起こります。
その後これらの初期症状が急激に悪化するのに伴い、傷口部分や周辺組織の壊死、さらには呼吸状態の悪化、血圧低下などの症状が進み、最終的には敗血症や腎不全などの多臓器不全からショック状態に陥る危険性があります。場合によっては、疼痛などの初期症状が現れてから数十時間以内に死に至ることもあるそうです。
異変に気づいて対応に迷ったら
「#7119に電話」で相談
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、「致死率がおよそ30%」とか「(病巣となっている)傷口のある腕や足の切断を余儀なくされることもある」などとして恐れられている感染症です。
しかし、傷口の発赤や腫れの広がりの速さ等の異変に気づいた時点で、あるいは高熱や激しい咳などで食事がとれない状態の時は直ちに医療機関を受診し、抗菌薬(ペニシリン系薬)などによる治療を受けることで、最悪の事態は防ぐことができるようです。
厚生労働省はウエブサイト*²で、上記のような状態で「すぐに病院に行った方がいいか」とか「救急車を呼ぶべきか」などと悩んだ時は、救急安心センター事業(#7119)に電話して、窓口の医師や看護師からアドバイスを受けるよう勧めています。
なお、救急安心センター事業を導入している地域は総務省消防庁のウエブサイトで確認することができます。導入していない地域(#7119がつながらない地域)にお住まいの方は、迷わず119番通報を。
標準予防策を励行して
職業感染や院内感染を防ぐ
看護職をはじめとする医療従事者としては、職業感染や院内感染が気になるところでしょうが、現時点で劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌に対して有効性や安全性が確認され薬事承認されたワクチンはありません。
感染拡大防止策としては、原因菌がドアノブや手すりなどを介した接触感染や飛沫感染により感染することから、手指衛生や咳エチケット等の、いわゆる標準予防策(スタンダードプリコーション)を徹底して行うことが重要です。
同時に、傷口を介した接触感染も少なくないことから、よほど意識して観察しないと気づかないほどの小さな傷でも、傷口を水道水で洗って汚れを落としてから常に清潔に保つことも感染拡大防止に有効とされています。
なお、標準予防策の方法については『The 標準予防策』(ヴァンメディカル)などを参考に、再確認しておかれることをおすすめします。
参考資料*¹:国立感染症研究所、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
参考資料*²:厚生労働省、劇症型溶血性レンサ球菌感染症