「医師の働き方改革」で高まる看護師への期待

ドクター

勤務医の時間外労働に
上限を設けて負担を軽減

今年(2024年)4月から、病院など医療機関に勤務する医師(以下、勤務医)の「働き方改革」*¹がスタートしていることをご存じでしょうか。最悪のケースでは自殺者が出るなど、かねてより社会問題化している勤務医の過酷な長時間労働を改善するのが目的です。

改革のポイントは、勤務医の時間外労働(休日労働を含む)に上限規制が適用されることです。具体的には、一般の勤務医の場合は、原則として年間960時間、月平均にすると80時間までとなります。

なお、大学病院など教育・研究機関の付属施設の勤務医は本来業務に教育・研究が含まれています。そのため、これらに関連する自己研鑽となる活動(勉強、学会・外部勉強会への参加、そのための準備等)は労働時間に含まれます。

ただし、今回の改革により地域医療の提供体制に大きな影響が出る可能性が懸念されます。そこで、地域医療を担う医療機関の勤務医などは、特例としてやむをえない場合に限り年間1860時間を上限としています。

とは言え、この特例はあくまでも暫定的(ざんていてき)なものです。つまり一時的な措置であって、一部を除き開始から10年後の2035(令和17)年度末までに解消することが目標とされています。

連続勤務は28時間まで

また、勤務医の連続勤務は28時間までとされ、その日の勤務を終えて(終業)から次の勤務に就く(始業)までには最低9時間空けることが求められています。

たとえば、ことさら高い専門性と技量が求められるNICU(新生児集中治療室)勤務の医師などでは、連続勤務が36時間に及ぶことも珍しくないと聞きます。それだけに、今回の働き方改革はかなりの負担軽減になるはずです。ただ、果たしてそれを補うだけの人材を確保できるかどうか、懸念材料も消えません。

3割を超える病院が
救急医療の縮小・撤退を懸念

今回の勤務医の働き方改革が地域医療に及ぼす影響については、日本医師会が昨年(2023年)11月、時間外・休日労働の上限規制導入により、「救急医療体制の縮小・撤退」を懸念する病院が約3割にのぼったとする調査結果を公表しています。

この調査では、全国の病院と診療所を合わせ約14,000施設を対象に、働き方改革制度開始以降、地域の医療提供体制で懸念されることを複数回答で求めています。

回答が得られた病院(3,088施設)では、「特に変化なし」(37.7%)を除いて最も多かったのは「救急医療体制の縮小・撤退」で34.6%、次いで「専門的な医療提供体制の縮小・撤退」(21.7%)につながるとの懸念が示されていました。

一方、有床診療所(1,262施設)の回答で最も多かったのは、「周産期医療体制の縮小・撤退」(19.9%)につながるとの懸念でした。

現場の医師不足が慢性化している状況にありながら勤務医の残業を削減して労働時間を減らせば、夜間や休日、さらには救急時にも診療を休止するなどして患者の受入れを抑えざるをえないだけでなく、手術の削減や中止など、苦渋の決断を迫られる病院が少なからず出てくることが懸念されます。

「診療看護師」の活躍に
期待が高まる

深刻な懸念が確かにあるとはいえ、勤務医の過酷な長時間労働を改善していくために、今回の働き方改革は必要不可欠な取組みです。

そこで、患者への影響を最小限に抑えながら医師の負担を減らすうえで大きな期待が寄せられているのが、医師の業務の一部を代行することが認められている「診療看護師(ナースプラクティショナー;NP)」の存在です。

診療看護師とは、臨床で看護職(看護師、保健師、助産師)として5年以上の経験を積み、大学院の修士課程(診療看護師養成課程)で2年間、診察診断学、薬理学、疾病病態学などの医学知識の習得と初期医療に関する実践を修了して、「日本NP教育大学院協議会」に認定を受けた看護職を言います。

診療看護師は、2023年12月1日時点で全国に759人しかいません。数としてはまだまだ少ないものの、彼らは医師の包括的指示*のもと一定の診療行為を行うことができます。

ですから、医師とうまく協働すれば、医師は医師にしかできないことに専念できるというメリットがありますから、医師不足のなかで働き方改革を進めるうえでも診療看護師の活躍に一層大きな期待が高まっているというわけです。

*「医師の包括的指示」とは、患者に対する医行為について、あらかじめ患者の状態の変化に応じて診療看護師が選択し、実施できるように一定の範囲に限って認めておく、いわば医師による事前指示のことを言う。

一般の看護師も
働き方改革を意識した患者指導を

もちろん診療看護師以外の一般の看護師にもできることは多々あります。

今回の勤務医対象の働き方改革により診療機能の縮小や撤退が懸念されているのは、高度専門医療や救急医療などを行っている比較的規模の大きな病院です。

このような病院に患者が集中しないように、いわゆる「初期症状」を自覚した時は、まずかかりつけ医など最寄りのクリニックや診療所を受診すること、緊急時以外は救急外来の受診を控えること、そのためには抱えている病気のセルフコントロールを徹底し、異変を察知したら早めに受診すること、などなど……。

勤務医の働き方改革を進めるには医療機関を利用する患者の協力が必須ですから、一般の看護師には特に患者指導の面において、この春からの勤務医の働き方改革を意識した患者一人ひとりに見合ったきめ細やかな指導が求められています。

参考資料*¹:厚生労働省「医師の働き方改革」

参考資料*²:日本医師会プレスリリース「医師の働き方改革と地域医療への影響に関する調査結果を公表」