退院支援における看護師とMSWの役割分担

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退院支援看護師として
MSWとの連携に迷う

取材を受けていただいて以来親交がある病院勤務のK看護師が、退院支援看護師として活動を始めるに際し、「何から手をつけたらいいか迷っている」と相談を受けたときの話を、先に記事にしていますが、読んでいただけましたでしょうか。

退院支援の担当になったものの、何から手をつけたらいいのかと迷う看護師に、退院支援看護師として5年の経験を持つ看護師が「私も使って役に立ったから」と勧める手引き書を紹介する。必要な書式等もあり、ダウンロードしてすぐに活用できるのがうれしい。

そこにあるように、K看護師は、退院支援にかけては5年余り先輩のW看護師から紹介された手引書を頼りに、大きなトラブルもなく、担当者としての責任を全うしているようでした。

ところがそのK看護師から、SOSというより、少々愚痴まじりの電話が入ったのです。聞けば、院内には退院支援専任の医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker;以下「MSW」)の女性がいて、この方との役割分担があいまいで遠慮し合うことが多く、やりにくいとのこと――。

退院後の生活に関する
相談相手に患者も迷う

MSWとの連携の難しさは、これまでにも退院支援を担当している何人かの看護師さんからうかがったことがあります。

その都度出された結論は、「お互いの専門性を尊重し合って、この問題はどちらが中心になって対処するのが患者にとってベストなのかを、ケースごとに話し合いながら進めていくのがいいのではないか」といった、ごく当たり前のものだったのですが……。

しかし、K看護師の話では、役割分担があいまいなためにお互いが譲り合うことが多く、結果として患者サイドに、「このことはどちらに相談したらいいのか」といった無用の心配をさせていることが多いように思う、というのです。

最終的に「担当者が二人いることが患者さんの負担になっているのはまずいんじゃないの」という話になり、再度この道では先輩のW看護師に相談してみることになりました。

MSWは社会福祉面で
患者を支える専門家

ところでMSWの業務範囲は、厚生労働省が2002(平成14)年に改訂した「医療ソーシャルワーカー業務指針」において次の6種類に分類されています。

1.療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
2.退院援助
3.社会復帰援助
4.受診・受療援助
5.経済的問題の解決、調整援助
6.地域活動

このうち「2」の「退院援助」については以下のように記されています。少し長くなりますが、紹介しておきましょう。

生活と傷病や障害の状況から退院・退所に伴い生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、退院・退所後の選択肢を説明し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。

  1. 地域における在宅ケア諸サービス等についての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連携の下に、退院・退所する患者の生活及び療養の場の確保について話し合いを行うとともに、傷病や障害の状況に応じたサービスの利用の方向性を検討し、これに基づいた援助を行うこと。
  2. 介護保険制度の利用が予想される場合、制度の説明を行い、その利用の支援を行うこと。また、この場合、介護支援専門員等と連携を図り、患者、家族の了解を得た上で入院中に訪問調査を依頼するなど、退院準備について関係者に相談・協議すること。
  3.  退院・退所後においても引き続き必要な医療を受け、地域の中で生活をすることができるよう、患者の多様なニーズを把握し、転院のための医療機関、退院・退所後の介護保険施設、社会福祉施設等利用可能な地域の社会資源の選定を援助すること。なお、その際には、患者の傷病・障害の状況に十分留意すること。
  4. 転院、在宅医療等に伴う患者、家族の不安等の問題の解決を援助すること。
  5. 住居の確保、傷病や障害に適した改修等住居問題の解決を援助すること。

(引用元:厚生労働省「医療ソーシャルワーカー業務指針」

行政文章のわかりにくさはさておき、ここに書かれたことの大要を頭に入れたうえで、W看護師に電話を入れ、MSWと連携するうえでどんなことに配慮しているのか聞いてみました。早速返ってきたのは、こんな答えでした。

「私たちが医療面で支える専門家であるのに対し、MSWは社会福祉面で支える専門家*です。だから、私たちにはとかく不得手な、経済的な面での課題とか、人的サポートの面で社会資源にどうつなぐかといったことはお任せするようにしています」

MSWは国家資格ではないが、MSWとして勤務している方の多くは、社会福祉士や精神保健福祉士のような国家資格の有資格者が多い。

「生活のしやすさに関する質問票」を
退院支援患者のニーズ分析に活用

さらに具体的方法として、W看護師が活用を勧めるのが、緩和ケア領域において患者のニーズ(どのようなことを心配しているのか、どのような苦痛がどの程度あるのか)を的確に把握するためのスクリーニングツール、「生活のしやすさに関する質問票」です。

この質問票の存在は、がん患者の退院支援を担当した際にはじめて知ったそうです。質問票の1ページ目にある4つの質問のうち、以下の2点に患者自らが記載した内容に応じて、看護師とMSWがそれぞれ対応することになります。

  • ①の「気になっていること、心配していることをご記入ください」
  • ④の「専門のチームへの相談を希望しますか?」

そのうえで患者がどのような課題を抱えているのか、それにどのようなサポートをしたのかを相互に情報交換しながら、それぞれの立場で追加しておきたいことがあれば、支援を付け加えていく、といった方法をとることになるのだそうです。

「理想としては、退院支援用にこのような質問票を用意できればいいのですが、まだそこまで手が回らないので、当面はこれを使わせてもらっています」――W看護師がこう語っていることも、K看護師にしっかり伝えたところです。

福祉用具に関することは福祉用具専門相談員と連携を

なお、在宅療養に移行する患者の退院支援では、療養上欠かせない福祉用具類に関する情報が求められることが多いのではないでしょうか。

レンタルや購入に介護保険が適用になる福祉用具も最近は増えてきています。この点については、福祉用具専門相談員と連携すると、ずいぶん助かるようですが、この福祉用具専門相談員についてはこちらで紹介していますのでご活用ください。

在宅に移行する患者には自立促進や介護負担軽減を目的に福祉用具の活用が勧められる。この福祉用具の選択、活用に精通した「福祉用具専門相談員」の存在をご存知だろうか。患者の病状や介護状況、生活環境を踏まえた助言の的確さの評価は高い。退院支援での連携を。

引用・参考資料*¹:医療ソーシャルワーカー業務指針

参考資料*²:「生活のしやすさに関する質問票」