誤嚥リスク患者の水分補給、どうしていますか

水分

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とろみつき緑茶が
市販されている!?

嚥下機能が低下して誤嚥リスクが高い患者が、特に高齢者に増えています。誤嚥した水分や食塊などが気管や肺に入ると、激しく咳き込んだり、むせるだけでなく、そのまま命にかかわる誤嚥性肺炎につながりかねません。

そこで食事に関しては、とろみ食やゼリー食、ペースト食、ミキサー食と、その方の嚥下機能に応じて、安全かつ飲み込みやすいように工夫しておられることと思います。

一方で、食後の、あるいは食間のお茶などによる脱水予防を意図した水分補給については、その都度患者が希望するお茶やほうじ茶などにとろみ調整用食品(以下、とろみ剤)を加え、とろみをつけて提供されているのが一般的でしょうか。

ただこれが、「結構手間がかかって大変なのよね」との声が少なくありません。とろみ剤がうまく溶けきらず、とろみに「ムラ」があったり「ダマ」ができたりすることが多く、とろみづけの作業だけに10分以上かかることも珍しくないのだそうです。

取材を機に親しくなった養護老人ホームで看護責任者として働くS看護師との久しぶりの電話で、その話になりました。私が「何かいいものないのかしら」と尋ねたところ、「あら、知らないの?」と言われてしまいました。

「手間がかからずにおいしく飲んでもらえる、とろみのついたお茶が市販されている」、と言うのです。早速その商品について調べてみました。

誤嚥を防ぎ、いつでも安心して
水分補給ができる

その商品は、あらかじめとろみをつけた緑茶飲料「とろり緑茶 」です。「お~いお茶」のテレビCMなどですっかりおなじみの大手飲料メーカー「伊藤園」が開発し、昨年(2022年)11月に販売を開始しています。

商品開発のきっかけとなったのは、ある介護現場で出会った高齢者からの「誤嚥する心配がなく、いつでも安心して飲めるお茶を作ってほしい」とのリクエストだったそうです。

この方は嚥下機能が低下していて誤嚥するリスクが高く、普通のお茶を飲むことを介護スタッフから固く禁止されていました。

要望に応え、適度なとろみで誤嚥を防ぎ、いつでも、安心して水分補給ができる製品を作ろうと、伊藤園と東京大学大学院医学系研究科「イートロス医学講座*」が共同で、2年以上を費やし、200回以上の試作を経て完成に至っています

*イートロスとは、「食べられない状態が続くこと」。食事量がおよそ10%減ると体重が1%減る可能性があり、高齢者において体重が1%減ると要介護のリスクが高まる、と説明されている

薄いとろみで、
アイスでもホットでも

「とろり緑茶」の特長としては、次の5点があげられています。

  1. 飲みたいときにすぐ飲める(とろみづけの作業が不要で、キャップを開けるだけですぐにそのまま飲むことができる)
  2. 薄いとろみで、スプーンを傾けるとすっと流れ落ちる(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021の「薄いとろみ」に準拠している)
  3. いつでもむらがなく、とろみが安定している(キャップを開けてから時間が経っても、また温めても冷やしても一定のとろみを維持してダマにならないため、ホットでもアイスでも飲むことができる。ホットで飲みたいときは、別の容器に移して電子レンジで温める)
  4. 色鮮やかな緑色の緑茶で、普通の緑茶と大差ない(時間が経っても変色しない)
  5. カフェイン少なめで、カフェインが気になる方も飲みやすく、毎日のお茶として水分補給に適している

「薄いとろみ」の性状は?

なお、「2」の日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021の「とろみ早見表」では、「薄いとろみ」を次のように説明しています。

飲んだときの性状は、「drink」するという表現が適切なとろみの程度で、口に入れると口腔内に広がる。液体の種類・味や温度によっては、とろみがついていることがあまり気にならない場合もある。飲み込む際に大きな力を要しない。ストローで容易に吸うことができる。
見たときの性状は、スプーンを傾けるとすっと流れ落ちる。フォークの歯の間から素早く流れ落ちる。カップを傾けて流れ出た後に、うっすらと跡が残る程度の付着。
(引用元:日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021。P.144「とろみ早見表」

外出先など、いつでもどこでも手軽に飲める「とろみ飲料」は、エバースマイルからも売り出されています。携帯に便利なキャップ付きの小型ボトル缶ですから、キャップで小分けで飲めるのが魅力で、りんご、緑茶、ほうじ茶、スポーツドリンクの4種が用意されています。飲食時にむせやすく誤嚥リスクのある方の熱中症や脱水症予防のための水分補給にお勧めです。

炭酸の消えない
炭酸飲料のとろみつけも

嚥下障害による誤嚥リスクのある高齢者のなかには、「若いころから飲んでいたコーラを飲みたい」という方も少なくないと聞きます。

しかしコーラのような炭酸飲料については、とろみ剤を加えてスプーンなどでかき混ぜる過程で炭酸が抜けてしまうという課題があり、そのような要望にはなかなか応えられなかったのではないでしょうか。

ところがS看護師によれば、この課題をクリアできる商品も開発されているようです。数々のとろみ調整食品を開発している森永乳業グループのクリニコが、今年(2023年)9月に売り出した「 つるりんこシュワシュワ 」です。

とろみをつけたい炭酸飲料に加えて、よく振って混ぜてから3時間ほど冷やすという作業が必要ですが、そのまま冷やしておけば炭酸が抜けることなく、とろみつきの炭酸飲料として飲むことができるそうです。

とろみつきビールの作り方も

そう言えばビールも炭酸飲料です。でもアルコール飲料ですから、水分補給として飲むのとは違いますが、在宅療養を続ける高齢者からの「たまにはビールを飲みたいが、誤嚥は怖いからなぁ」という声は多いと聞きます。

そんなときは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄(とはら はるか)教授らの研究チームが提案している「とろみつきビールの作り方」が参考になります。もちろんかかりつけ医の了解のもとに、ですが。

嚥下障害があり食事などを飲み込む際にむせたり、咳き込んだりすると、誤嚥性肺炎につながりかねない。そこで嚥下食になるのだが、ビールやコーラを飲めなくなったと嘆く声が多いと聞く。この声に応え研究・開発された「とろみ付きビール」のつくり方を紹介する。

とろみつき炭酸飲料の炭酸に嚥下改善効果

なお、先の東京医科歯科大学の戸原玄教授ら研究チームは、とろみつき炭酸飲料に含まれる「炭酸」には嚥下改善効果があり、水分で誤嚥する嚥下障害患者の嚥下訓練に有効な可能性があることを発表しています*⁴

すでに臨床現場で炭酸水を用いた嚥下訓練が行われていて、今後は、とろみつき炭酸飲料を用いた嚥下訓練の効果を研究する意向とのこと。結果の報告が待たれます。

なお、嚥下障害患者の食事支援に必須と言える「とろみ調整食品」については、こちらで詳しく書いています。

嚥下に問題がある患者の食事ケアでよく使われる「とろみ調整食品(とろみ剤)」については、その種類や患者の嚥下機能に応じたとろみの程度を理解しないまま使用している医師や看護師が多いとの調査結果がある。そこで改めて、その辺りの基本をまとめてみた。

また、今回貴重な情報をいただいたS看護師が、職場を大学病院から養護老人ホームに変えたいきさつをこちらで紹介しています。よかったら読んでみてください。

多職種との連携ツールとして定着しつつあるICFだが、問題思考アプローチに慣れた看護職はまだ使いこなせないと聞く。では残存機能を活かす発想でICFをとらえてはどうか。プラスとマイナスの両面をバランスよく見ていくことで「できることを奪わない」看護実践を。

参考資料*¹:食品新聞2023年11月20日

参考資料*²:東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座「イートロスポスター」

参考資料*³:日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021「とろみ早見表」

参考資料*⁴:東京医科歯科大学 プレスリリース「高齢嚥下障害患者に対するとろみつき炭酸飲料の効果の検証」