「薬物誘発性褥瘡」の存在を認識していますか?




多剤併用

「薬物誘発性褥瘡」を
医療従事者の75%が経験!?

「薬剤誘発性褥瘡と呼ばれる褥瘡があるのを知っていましたか?」
看護師のTさんから突然の電話で、いきなりの質問です。

先週の週末(8月23~24日)、京都市内で開催された「第21回日本褥瘡学会学術集会」に、同僚から誘われ、久しぶりの京都もいいかといった軽い気持ちで参加したとのこと。
その会場でこの言葉を耳にしたときは、「ちょっと慌てて、愕然とした」と言います。

愕然とした理由は、「薬剤誘発性褥瘡とみられる症例を過去に経験したことがある医療従事者は75%に達する」といった調査結果を聞き、
「自分はそもそもこの言葉自体知らなかったから、経験しているかどうかもわからない25%、つまり4人に1人に該当するのだ」
と気づいたからだそうです。

調査結果を発表したのは、「薬剤誘発性褥瘡」という概念の提唱者である溝神文博氏(国立長寿医療研究センター病院薬剤部・薬剤師)と聞き、早速、溝神氏が言うところの褥瘡がどのようなものなのか調べてみました。

睡眠薬による過鎮静により
無動状態が続き褥瘡が発生

溝神氏が「薬剤誘発性褥瘡」の存在に気づいた経緯と、その概念については、2017年6月23日に開かれた厚生労働省の「高齢者医薬品適正使用検討会」第2回会議に溝神氏が提出した資料に、その概要がまとめられています。

それによると、夫に付き添われて受診してきた80歳代の女性の背中に、できたばかりの褥瘡を発見したのがきっかけだったそうです。
受診の理由は、杖をついて自立歩行ができていたのに、2~3週間前から、微熱に加えて「歩くどころか立つことさえおぼつかなくなってきた」というものでした。

女性には糖尿病とアルツハイマー型認知症の既往があります。
各種検査の結果、脳梗塞の所見はなく、褥瘡の発症につながるような所見も見当たらなかったことから、何か手掛かりはないかと考えた挙句、持参薬の確認となったようです。

夫に処方されていた睡眠薬を服用して過鎮静に

すると、女性に処方されて服用していた5剤が入った薬袋とは別に、超短時間作用型の睡眠薬であるトリアゾラム0.25㎎錠が入った薬袋があり、そこには夫の名前が記載されていたのです。

なぜ夫の処方薬を持参してたのか――。
当の夫にその説明を求めたところ、
「自分が不眠で処方してもらったものだが、妻もしきりに不眠を訴えるため、自分の判断で飲ませていた」ということでした。

主治医と検討を重ねた結果、最終的に、本来夫に処方されていたトリアゾラムを女性が服用したことにより、他の服用薬との相互作用が働いて「過鎮静」と呼ばれる深い鎮静状態に陥ったのだろう、と結論づけられました。

この、過度の鎮静状態に陥ったことにより、自発的な動きがなくなる、いわゆる「無動(アキネジア)」の状態で椅子に長時間座り続け、背もたれに圧迫され続けていたことが背部に褥瘡が発生した原因だろう、と推察したわけです。

そこで、まずは過鎮静の原因薬と推察されるトリアゾラムを中止したところ、自発的な動きがみられるようになり、かつADLが改善するのに伴い褥瘡の原因になっていた外圧が取り除かれたことにより、褥瘡は徐々に回復に向かい、140日後には治癒した、と報告しています。

高齢者に多い「薬物誘発性褥瘡」を
新たな薬物有害事象として認識を

ここまでわかった時点でT看護師に以上の話をしたところ、こんな返事が返ってきました。
「ああ、それだったら私も知っている。薬物誘発性褥瘡という言葉は使っていないけれど、鎮静薬や催眠薬、あるいは抗不安薬のような鎮静作用のある薬を患者が使用しているときは、薬が効きすぎて鎮静が過度に深くなると、弊害の1つとして褥瘡ができやすいから要注意ということは、私だって一応は認識しているわよ」

実は私も、溝神氏の資料を読んでいくなかで、
「ああそうだった。トリアゾラム(ハルシオン)のような超短時間作用型の睡眠薬を使う際は、過量投与による副作用として過鎮静による不動化に伴う深部静脈血栓症や褥瘡などの弊害があるという話を、取材で聞いたことがある」と思い出していました。

フレイルや歩行レベル低下の認知症高齢者に潜在しがち

先の資料のなかで溝神氏は、「薬物誘発性褥瘡の患者はフレイルや歩行レベルの低下がみられる認知症高齢者を中心に潜在的に多い」と推測したうえで、薬物誘発性褥瘡の問題点として、
⑴ 一般的褥瘡との鑑別が非常に難しい
⑵ 医療従事者での認知度がきわめて低い
の2点をあげ、その多くが見逃されている恐れがある、と指摘。新たな薬物有害事象(いわゆる「薬の副作用」)として認識する必要があると、注意を呼び掛けています。

以上紹介してきた溝神文博氏の資料「高齢者で特徴的な薬物有害事象」は、厚生労働省のホームページ(コチラ)から全文をダウンロードできます。

鎮静薬使用時に注意したい
過鎮静の弊害としての褥瘡

さて、冒頭でT看護師が話していた日本褥瘡学会の会員を対象に行われたアンケート調査の結果の一部を紹介しておきましょう。
回答が得られた1323人(回答率44.1%。職種別内訳は医師33%、看護師48%、薬剤師10%、など)のうち「薬剤誘発性褥瘡という言葉や概念を知っているか」の問いに「知っていると」と回答したのは33%、「知らない」は67%だったそうです。

日本褥瘡学会の会員ですらこの程度の認知度であることから、溝神氏ら研究グループは、「多くの医療従事者にはまだ概念が十分に浸透していないことがわかった」と説明。

一方で、薬剤誘発性褥瘡を噛み砕いて説明し、「鎮静作用を有する薬物の投与に伴い、過鎮静や無動となり褥瘡発生に至る事例を経験したことがあるか」との問いには、「経験がない」が25%だったのに対し、「過去に経験がある」が39%、「過去にあったかもしれない」が36%だったことから、「薬物誘発性褥瘡とみられる症例を経験した医療従事者は75%に達することがわかった」と考察しています。

患者自らは訴えることができない

さらに、経験があると回答した人がその原因薬剤としてあげたのは、「催眠・鎮静薬や抗不安薬」が39%と最も多く、次いで「精神神経用剤」と「全身麻酔薬」がともに16%、「麻薬」13%となっています。

こうした結果から溝神氏は、「薬剤誘発性褥瘡は一般的な褥瘡との鑑別が非常に難しいが、原因を特定できれば、薬を中止することで患者のADLが上昇し褥瘡が治る場合がある」と指摘。
「この副作用は患者自らは訴えることができないため、医療従事者や介護者が認識していなければ発見できない。副作用として認識を高める必要がある」と呼び掛けています(参考資料:m3.com医療ニュース2019.8.28)。

最近は別のかたちでの広義の褥瘡として、ギブスや酸素マスク、カテーテル類などの圧迫、接触によって発生する創傷「医療関連機器圧迫創傷」の存在もクローズアップされています。詳しくはこちらの記事を参考にしてみてください。

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