悩むこころと言葉を受け止める「話の聴き方」

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話の聴き方の手法や
テクニック以前に大事なこと

それぞれの専門領域を超えて、看護職をはじめとする医療職にある友人たちの間で、このところちょっとした話題を呼んでいる本があります。

精神科医にして産業医であり、しかも人知れず作詞作曲も手掛けるミュージシャンの一面ももつという小山文彦医師(東邦大学産業精神保健職場復帰支援センター・センター長・教授)による『精神科医の話の聴き方 10のセオリー』*¹です。

著者が精神科医であることや、本のタイトルにある「話しの聴き方10のセオリー」、つまり「10の基本原則」の部分から、よくあるカウンセリングや心理療法関連のハウツー本かと思いがちでしょうが、決してそうではありません。

この本を「是非ブログで紹介して」とすすめてくれた友人の1人は、現役の病棟看護師として「患者の話を聴くこと」に日々エネルギーを注いでいます。しかし、「どう工夫しても話が深まっていかない」と、つねづねずっと悩んできた、と――。

ところが、発売間もないこの本を、たまたま病院内の書店で手に入れて読み進めていくうち、「自分がずっとこだわってきた聴き方の手法とか、聴き出すテクニックといったことに先立って大事なものがあることに気づかされた」と、語っています。

小山医師がこの本を通して私たちに伝えようとしている、その「先立つ大事なもの」とはいったいどんなことなのでしょうか。本書の中からポイントとなる部分をかいつまんで紹介してみようと思います。

医療・危機介入場面における
「聴き方」の話を読む前に

まず本を開いてざっと目次を見ると、おそらく看護師さんら医療スタッフの方なら、「医療・危機介入の場面」における「聴き方」について書かれている「第Ⅲ部」に目がいき、いきなりそのページから読みたくなるのではないでしょうか。

その第Ⅲ部では、小山医師のご専門である企業におけるメンタルヘルスケで欠かせないうつ病や大人の発達障害などと並び、「長年の痛み・苦しみを受け止める」「がん体験者の悩みを聴くとき」「死にたいをどう聴くか?」という、臨床で日常的に遭遇し、受けとめ方や聴き方に悩む場面が取りあげられています。

しかし、先の看護師の友人は、「その部分を先に読んでしまったら、聴き方やカウンセリングに関する類書では出会えないこの本ならではの話が抜けてしまうから、第Ⅲ部は後の楽しみとしてとっておき、最初から読んでほしい」と話します。

悩むこころを受け止める
聴き方の「10の基本原則」から

彼女のアドバイスに従って、「第Ⅰ部 悩むこころを受け止める10のセオリー」から読み始めてみると、まず「Theory 1」として「口は一つに、耳二つ」とあります。

口は一つなのに、耳はなぜ二つあるのか

確かに、私たちが話をする際に言葉を発する口は一つだけです。ところが、相手の話や周りの物音、音楽などを「聴く」、あるいは「聞く」ための耳は、顔の両サイドに一つずつ、合わせて二つ付いています。

これは、自分が一方的に話すだけでなく、相手の話を自分の話の倍は聴くようにと、もともと身体の仕組みができているのだと、小山医師。

改めて考えてみるまでもなく、口は一つで、耳は二つあるのは当然のこととして受け止めていました。なぜ一つと二つなのか、などと考えてみたこともなかったのですが……。言われてみれば「なるほど、そうだったのか」と了解できるのではないでしょうか。

ゆっくりと耳を傾けるとホッとしてもらえる「傾聴」

人の悩みにはそれぞれに、その人にとっての重みがあります。重い悩みなのか、軽いものなのかを決めるのはすべてその人自身であって、他人が決められるものでもなく、また簡単に理解できるものでもないはずです。

ところが聴く側の立場になると、ついつい、話し手の悩みをいち早く理解し、何かしらの答えを出してあげたい、などと考えがちではないでしょうか。

そこで小山医師は、「Theory 5」として、「理解と示唆を急がない」と説いています。

自分が悩みを抱えているときのことを改めて思い返してみると、このセオリーの意味がよくわかるのではないでしょうか。相手から「こうすればいい」という即答がほしくて悩みを打ち明けているわけではない場合が多いはずです。

自分が話していることに、まずはゆっくりと耳を傾けてもらいたい。ただじっと聞いてもらっていると、やがてホッとしてなんとなく気持ちが落ち着き、悩みに自ら向き合う余裕が出てくるものです。

看護職をはじめとする医療スタッフの皆さんは、患者との会話において、「傾聴する」ことをことのほか大切にしておられます。この「傾聴」の効用とはこういうものなのだと、納得させられるのではないでしょうか。

「何を」ではなく「いかに」語っているか

読んでいてユニークに思ったのは、「Theory 7」の「ボーカルへの意識を高める」です。会話の際に話の内容だけに気を配るのではなく、ボーカル、つまり話し手が発している音声(声)にも着目するということです。

ここが精神科医にしてミュージシャンでもある著者らしさが最もよく表れているところです。音楽に例えて言えば、歌詞だけでなく、ボーカルの声の質、トーン、テンポ、速さ、リズム、抑揚、沈黙のはさみ方などにも着目する――。

簡単に言ってしまえば、話し手が「何を語っているか」ではなく、「いかに語っているか」にも注意を払うということです。

このことは聴き手側にも言えることです。特に話し相手が高齢者の場合、加齢に伴う聴力の変化により高い音から聞き取りにくくなることを思えば、自らの声のトーンへの配慮はより大切だろうと思います。

著者、小山医師の実に多彩で確かな臨床実践に裏づけられた、実際的な「聴き方」の道しるべとして、日々の看護ケアに役立てることにより、かかわりをより深めていただけたらと思い、ポイントを紹介させていただきました。

参考資料*¹