亜鉛が不足していると褥瘡が治りにくい

牡蠣

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褥瘡については、日本褥瘡学会が毎年10月20日を「床ずれの日」と定め、重症化すると命にもかかわる事態になりかねないとして、予防と早期発見・対応の重要性を広く一般に呼びかけています。厚生労働省の調査によれば、2020年の時点で、褥瘡で治療を受けている患者は全国で約3万2000人と推定されるものの、治療を受けていない人や褥瘡に気づいていない人も多く、実際の数はさらに多いとみています。

必須ミネラルの亜鉛不足が
褥瘡の治癒を遅らせる?

褥瘡の発生や難治化に低栄養が関係していることはかねてより指摘されていることです。この低栄養状態については、「亜鉛不足」が大きく影響している可能性のあることが認められたとする研究成果が発表されています。

亜鉛(Zn)は、カルシウムやマグネシウム、ナトリウムなどと同じ必須ミネラルの1つです。亜鉛不足が、高齢者に多い味覚障害の原因とされていることは知られていますが、褥瘡の発生や治癒過程にもマイナスの影響をもたらしているとは……。

各種アプローチを試みてはいるもののいっこうに回復に向かわない褥瘡に、日々悩まされている医療・ケアスタッフは少なくないと聞きます。そこで今回は、興味深いこの研究結果と、亜鉛という必須ミネラルと褥瘡の関係について、書いてみたいと思います。

亜鉛欠乏マウスにできた褥瘡は
キズが大きく、回復も遅れがち

亜鉛不足により褥瘡が治りにくくなることが、マウスを使った実験で科学的に証明されたとする研究成果が発表されています。発表したのは、群馬大学大学院の茂木清一郎准教授がリードする山梨大学、金沢医科大学との共同研究チームです。

研究チームは、亜鉛欠乏食または亜鉛を含む普通食のいずれかを2週間与えたマウスを使い、マグネット(磁石)でマウスの皮膚を圧迫して褥瘡モデルを作り、圧迫部位にできた褥瘡の広がり方(大きさ)とその治癒過程を比較しています。

その結果、亜鉛を含む普通食を食べた正常マウスと比較して、亜鉛欠乏食を食べたマウスでは、以下の2点が違いとして確認されたというのです。

  1. 皮膚の圧迫によりできた褥瘡のキズ(皮膚潰瘍)が大きくなりやすい
  2. 褥瘡の回復が遅れがち

亜鉛不足による低酸素状態で
活性酸素が増え、褥瘡を難治化

加えて研究チームは、褥瘡が広がりやすく、なおかつ治りにくくなるメカニズムを探っていく過程で、亜鉛欠乏のマウスにできた褥瘡部位は正常マウスにできた褥瘡部位に比べ、血液量が少なくなっていることも確認しています。

このことから、血液中に亜鉛が不足して起こる低酸素状態が活性酸素(通常の状態よりも活性化された酸素)を増やし、その過剰に増えた活性酸素が褥瘡の周囲組織にダメージを与え、傷が広がったり治りにくくなったりすると考えられる、と結論づけています。

これを裏づけるように研究チームは、亜鉛欠乏マウスに経口的に亜鉛を補充して得られる褥瘡の回復効果を調べた実験で、褥瘡の潰瘍部分の広がりと治りにくさは、亜鉛の経口補充により改善することが確認できたことも、併せて報告しています。

通常の食生活を続けていれば
亜鉛不足に陥る心配はないが

そもそも亜鉛という必須ミネラルは、私たちの体内のいたるところで休みなく繰り返されている細胞の新陳代謝に深くかかわっています。褥瘡のできる皮膚について言えば、皮膚組織を構成している細胞一つひとつの新陳代謝に亜鉛が深くかかわっているわけです。

皮膚細胞は、体内にある各種細胞のなかでもとりわけ新陳代謝が活発です。約1カ月ごとに古い細胞から新しい細胞へと入れ替わっているのですが、この新しい細胞を形成するうえで、亜鉛が重要な働きをしているのです。

亜鉛は体内では合成できないため毎日の食事からとる必要があるのですが、通常の食生活を続けていれば、亜鉛不足に陥る心配はないとされています。ただ以下のような場合は、からだが亜鉛不足に陥り、それが即、褥瘡の悪化や難治化へとつながりかねないようです。

  1. 食欲不振等により食事の摂取量の低下に伴い亜鉛の摂取量が不足している
  2. 胃腸機能の低下により、摂取した亜鉛の消化・吸収に支障がある
  3. 服用している薬のために亜鉛の吸収が阻害され、血清亜鉛値が低下している

血清亜鉛値が低下したら
亜鉛を経口補充する

上記の研究結果から研究チームは、高齢者のような低栄養状態に陥りやすく褥瘡を起こすリスクの高い患者の亜鉛による褥瘡予防として、以下をあげています。

  • 積極的に血清亜鉛値を測定する
  • 測定の結果、低亜鉛であれば亜鉛を経口補充する

亜鉛不足に陥りやすい原因として高齢者でよく指摘されるのは、歳を重ねるにつれて食が細くなり、食事の摂取量自体が目に見えて減少してくることです。ちなみに日本臨床栄養学会は、血清亜鉛値の基準値(正常範囲の目安)を80~130㎍/dlとしています。

調理済み加工食品には亜鉛の吸収を妨げる食品添加物が

加えて、特に高齢者二人だけの世帯や独居高齢者では、手間のかからない出来合いの総菜や弁当、菓子パンといったファーストフード(「ファストフード」とも言う)で簡単に食事を済ませることが多くなりがちです。

手軽さが魅力でつい利用したくなるハムやソーセージ類、ちくわやかまぼこのような魚肉の練り製品、カップ麺に代表されるインスタント食品やレトルト食品、スナック菓子類などの加工食品もファーストフードの範疇に入ります。

これらの加工食品には、亜鉛の吸収を妨げる食品添加物*が、微量ながら含まれています。時々摂取するぶんに問題はないのですが、これらの食品に頼りすぎて毎食のように食べ続けていると、やがて亜鉛不足に陥ります。

*亜鉛の吸収を妨げる食品添加物の主なものとしては、フィチン酸(ナッツ類、シリアル、漬物)、リン酸塩(インスタントラーメン)、ポリリン酸(ハム、チーズ、かまぼこ)、グルタミン酸(化学調味料)があげられる。

亜鉛と相性が悪い飲み物も

また、コーヒーやお茶類(緑茶、紅茶、烏龍茶)、ココア、コーラといった飲み物に含まれるカフェインやポリフェノールにも、亜鉛の吸収を妨げる作用があります。

食材から亜鉛を効率的に吸収するには、亜鉛を多く含む食材とこれらの飲み物の摂取時間を空ける工夫が必要で、その間の水分補給には、水を一度沸騰させて有害物質を取り除いた白湯(さゆ)を勧めるといいでしょう。

褥瘡の発生・治癒遅延リスクを伴う薬剤

薬剤について言えば、高齢者の多くが処方を受けている薬のなかには、「亜鉛キレート作用」といって、亜鉛の吸収を抑制して血清亜鉛値を低下させる作用を持つ薬があります。この作用により、褥瘡の発生リスクを高めたり治癒を遅らせるリスクを高める可能性のある主な薬剤としては以下があげられます。

  • 利尿薬:フルイトラン、ラシックス、アルダクトンAなど
  • 降圧薬:アルドメット、カプトリル
  • 抗パーキンソン薬:イーシー・ドパール、ネオドパストン、マドパー
  • 鎮吐薬:プリンペラン
  • 抗生物質:リンコシン、ダラシン、アクロマイシン、ミノマイシン
  • 抗腫瘍薬:5-FU
  • 肝臓疾患治療薬:チオラ、タチオン
  • リウマチ治療薬:メタルカプターゼ
  • 抗甲状腺薬:メルカゾール
  • ステロイドホルモン:プレドニン

これらの薬の服用を続けていると、通常以上の亜鉛が尿中に排泄されてしまうため、亜鉛不足から低亜鉛の状態に陥りがちです。

該当する薬が処方されている患者については、血清亜鉛値の変動に注意し、褥瘡の回復が遅れているようならその旨を主治医に伝え、処方薬の変更、あるいは亜鉛の補充などの対応をとってもらうことも必要でしょう。

牡蠣やうなぎ、ゴマで亜鉛不足を防ぐ

亜鉛はあらゆる食材に含まれているのですが、身近な食品で含有量が多いもののトップにあげられるのは牡蠣(かき)です。常食を摂取可能な患者であれば、普通サイズのものを3、4個とれば、1日の摂取推奨量を補うことができます。手軽さで言えば、牡蠣の燻製油漬け缶詰もOKです。

その他にもうなぎのかば焼き、レバー類なども含有量の多さでは上位にあげられますが、もっと身近にあって手軽な亜鉛補給源は、ゴマです。

ゴマには亜鉛だけでなくカルシウムも豊富に含まれています。クラッシュミルサー などを使って「すりゴマ」をいろいろなものにかけてとるようにすすめてみるのもいいと思います。

また、乾物の一つである「こうや豆腐」にも、亜鉛やたんぱく質の効果により褥瘡の治癒を促す効果を期待できることが、実験で確認されたとの報告もあります*²。

亜鉛を多く含む食品による食事療法だけでは不十分な場合は、経口薬(酢酸亜鉛などの亜鉛製剤)で亜鉛を補充する亜鉛補充療法も検討されることになるでしょう。

なお、褥瘡についてはコチラの関連記事も読んでみてください。
⇒ 床ずれではない褥瘡「医療関連機器圧迫創傷」の予防策は万全ですか

⇒ 「薬剤誘発性褥瘡」の存在を認識していますか?

⇒ 褥瘡対策で注意したい「薬剤滞留の問題」

日本褥瘡学会のガイドラインが7年ぶりに改定され、『褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版』(照林社)が2022年3月に発表されています。
新版では、14項目のクリニカルクエスチョンを設定し、「推薦文」と「推薦の強さ」が提示されています。

参考資料*¹:群馬大学PRESS RELEASE 2019/7/29「治りづらい床ずれのメカニズムを解明」

参考資料*²:褥瘡治癒促す可能性 こうや豆腐普及委員会が発表

コメント

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