床ずれではない褥瘡「医療関連機器圧迫創傷」の予防策は万全ですか

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従来の褥瘡に代わり注目される
医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)

「床ずれ」として一般にもよく知られている「褥瘡」――。厚生労働省は、かねてより力を入れて進めてきた褥瘡対策に加え、2002年10月には「褥瘡対策未実施減算」制度を導入しています。褥瘡の予防・治療・ケア対策を徹底していない医療機関に対しては、診療報酬を減算するという罰則制度を発動したわけです。

この減算制度も奏功したのでしょう。医療機関における褥瘡の発生率、有病率は年々低下し、今や世界一低いと言われるまでに改善されていると聞きます。

まずは一安心ですが、どっこい油断は禁物。従来の褥瘡に代わり最近では、同じ持続的な圧迫によって起こる「医療関連機器圧迫創傷」の存在が改めて浮き彫りにされ、医療機関にはその予防策の徹底が求められています。

そこで今回は、カテーテルやチューブ類、酸素マスク、あるいはギブスなど、医療現場で日常的に用いられる医療機器の圧迫によって発生する「医療関連機器圧迫創傷」、いわゆるMDRPUについて、いくつかのポイントをまとめておきたいと思います。

なお、最近は「薬剤誘発性褥瘡」の増加も問題視されていますが、このタイプの褥瘡については、こちらにまとめてありますので参考にしてみてください。

日本褥瘡学会学術集会で「薬剤誘発性褥瘡」という言葉を知ったと話す看護師の友人に触発され詳細を調べた。結果、鎮静薬による過鎮静の弊害として褥瘡ができるという話だとわかり一安心。高齢者に特徴的な薬剤有害事象として認識を高めていただきたい。

医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)
発生頻度が高い部位は?

医療関連機器圧迫創傷(Medical Device Related Pressure Ulcer:MDRPU )は、基本的には褥瘡と同じメカニズムで発症します。装着された医療関連機器による長時間にわたる圧迫接触により、装着部位の血流が悪くなったり、滞ったりしてできる創傷で、日本褥瘡学会は次のように定義しています。

医療関連機器による圧迫で生じる皮膚ないし下床の組織損傷であり、厳密には従来の褥瘡、すなわち自重関連褥瘡(self load related pressure ulcer)と区別されるが、ともに圧迫創傷であり、広い意味では褥瘡の範疇に属する。なお、尿道、消化管、気道等の粘膜に発生する創傷は含めない。

(引用元:『医療関連機器圧迫創傷の予防と管理』

日本褥瘡学会の実態調査委員会が2013年10月に行った調査によると、一般病院と療養型病床を有する病院で医療関連機器圧迫創傷が最も多い部位は足、次いで下肢です。

一方で、大学病院では下肢、次いで耳介、鼻、口唇・口角以外の顔面・頚部、小児専門病院では耳介、鼻、口唇・口角以外の顔面・頚部が最も多く、次いで体幹という結果になっています。いずれの部位も、従来の褥瘡が発生しやすい部位とは明らかに異なるのが特徴です。

MDRPUの発生頻度が高い機器

また、医療関連機器圧迫創傷の発生頻度が高い医療機器は、一般病院では多い順に①ギブス、シーネ(点滴固定用含む)、②医療用弾性ストッキング(深部血栓予防用)、③気管内チューブ(経鼻または経口気管挿管専用チューブ)、④NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)マスク、⑤下肢装具(整形靴、短下肢装具、長下肢装具)の順になっています。

一方で大学病院では、①医療用弾性ストッキング、②NPPVマスク、③手術用体位固定用具(手術台、支持板)、④気管内チューブ、⑤ギブス、シーネの順。また小児専門病院では、体幹装具(胸腰仙椎装具、頚椎装具)が最多といった結果になっています*¹。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療現場、特にエアロゾルの発生を伴う医療処置等が行われる場所では、N95マスクの装着が必須となります。
このN95マスクを長時間装着して発生する鼻のつけ根や頬骨などの圧迫創傷については、こちらの記事で日本褥瘡学会が推奨する予防策を紹介しています。
新型コロナウイルス感染症は落ち着きを見せてはいるものの、医療従事者には気の抜けない日々が続く。特にその患者対応に当たるスタッフには、N95マスクの長時間装着による圧迫創傷という肌トラブルも悩みだ。日本褥瘡学会によるその予防法を紹介する。

MDRPUの予防は
機器を扱う医療者の認識に負う

医療関連機器圧迫創傷は、自重、つまり自分の体重の負荷により仙骨部位などにできやすい褥瘡同様、予防すればその発症リスクを低減することができます。

しかもこの圧迫創傷は、医療関連機器を装着している間に、その機器と接触している部位に局所的な外力が加わることによって発生する創傷です。

ですからその発生を防ぐには、機器と接触する局所に外力が加わらない、あるいは外力が極力最小限に抑えられるようにすればいいわけです。いわゆる「外力低減ケア」です。

医療関連機器を患者に装着し、その管理を担っているのは医療スタッフです。したがって圧迫創傷を予防するには、医療関連機器を取り扱うすべてのスタッフが、機器の装着に伴い圧迫創傷を発生させるリスクがあることを認識することがまずは必要でしょう。

医療関連機器の添付文書に必ず目を通す

そのうえで、患者に装着する医療関連機器にふさわしい予防策を講じていくことが求められることになります。具体的には、すべての医療機器には医薬品同様、添付文書が必ずありますから、そこに書かれている情報には必ず目を通していただきたい。

例えば、添付文書には必ず「警告」「禁忌・禁止」「使用上の注意」の項目が設けられています。このうち「警告」の項には、「適用対象(患者)――次の患者には慎重に適用すること」として該当する患者がリストアップされています。このリストに続き、慎重な適用を要する患者への「使用方法」がかなり具体的に明記されています。

また、「禁忌・禁止」の項には、「適用対象(患者)――次の患者には使用しないこと」とあり、続いて該当する患者のリストが挙げられています。

また「使用上の注意」の項には、その機器を患者に装着する際の基本的な注意事項が非常に詳しく、ていねいに説明されています。

こうした各機器別の添付文書は、薬機法(医薬品医療機器等法)の改正により2021年8月1日より電子化が義務化されていて、専用アプリ「添文ナビ」(無料でダウンロード可)で最新情報を入手できるようになっています。

なお、医療関連機器圧迫創傷の医療機器別予防法、ケア方法は、日本褥瘡学会がまとめた『医療関連機器圧迫創傷の予防と管理: ベストプラクティス』(照林社)でも詳しく紹介されています。

「薬剤滞留の問題」の有無を忘れずに確認を

褥瘡対策で欠かせない「薬剤滞留の問題」が、令和4年度診療報酬改定において、必須のチェック項目として取り上げられています。詳しくはこちらを。

令和4年度診療報酬改定では褥瘡対策が見直され、「褥瘡対策に関する診療計画書」に「薬学的管理に関する事項」が追加された。これにより、すでに褥瘡のある患者については「薬剤滞留の問題」の確認が求められることになった。では、「薬剤滞留の問題」とは?
日本褥瘡学会のガイドラインが7年ぶりに改定され、『褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版』(照林社)が2022年3月に発表されています。
新版では、14項目のクリニカルクエスチョンを設定し、「推薦文」と「推薦の強さ」が提示されています。

参考・引用資料*¹:『医療関連機器圧迫創傷の予防と管理 ベストプラクティス』(照林社)