褥瘡対策で注意したい「薬剤滞留の問題」

しずく

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日本褥瘡学会は、毎年10月20日を「床ずれの日」と定め、重症化すると命にもかかわる事態になりかねないとして、予防と早期発見、早期対応を広く一般にも呼び掛けています。厚生労働省の調査によれば、2020年の時点で褥瘡で治療を受けている患者は全国でおよそ3万2000人と推定されるとのこと。ただ、褥瘡があっても治療を受けていない人や褥瘡に気づいていない人も多く、実態はさらに多いとみています。

褥瘡対策に加わった
薬学的管理と栄養管理

2022年4月1日から実施されている「令和4年度(2022年度)診療報酬改定」では、褥瘡対策の見直しにより「褥瘡対策の基準」、つまり診療報酬の加算対象となる褥瘡対策を行ううえで満たしておくべきルールに新たな要件が加わっています

褥瘡対策チーム専任の医師や看護師が作成し記載する「褥瘡対策に関する診療計画書」に、「薬学的管理に関する事項」及び「栄養管理に関する事項」の2点が追加され、必要に応じて薬剤師や管理栄養士が褥瘡対策チームに介入することが求められているのです。

褥瘡の発生リスクを高める薬剤と薬剤滞留の問題

このうち「薬学的管理に関する事項」については、患者の状態を以下の2点について確認し、必要に応じて薬剤師と連携して、薬剤の適正使用や薬剤選択等の薬学的管理計画書を作成、記載することを求めています。

この場合の計画書の記載者は指定されていませんから、褥瘡対策チーム内で連携を図り、適任者が記載することになります。

  1. 「褥瘡の発生リスクに影響を与える可能性がある薬剤の使用」の有無
  2. すでに褥瘡を有する患者の場合に「薬剤滞留の問題」の有無

このうち「1」の「褥瘡の発症リスクに影響を与える可能性のある薬剤」の主なものとしては、「催眠鎮静剤」「抗不安薬」「麻薬」「解熱鎮痛消炎剤」「利尿剤」「腫瘍用薬」「副腎皮質ホルモン剤」「免疫抑制剤」の8剤がリストアップされています

これらの薬剤が褥瘡の発生リスクを高めたり治癒遅延をもたらす理由については、先にこちらで詳しく書いていますので参照してください。
⇒ 「薬剤誘発性褥瘡」の存在を認識していますか?

また、「亜鉛キレート作用」により亜鉛の吸収を抑制して褥瘡の発生リスクを高めたり治癒を遅らせる薬剤については、こちらをチェックしてみてください。
⇒ 亜鉛が不足していると褥瘡が治りにくい

褥瘡対策における
「薬剤滞留の問題」とは

一方、薬学的管理に関する事項として確認が求められている「2」の「薬剤滞留の問題」については、疑義解釈資料*において「次のような状態を指す」と説明されています

「例えば、創の状態や外用薬の基剤特性の不適合等により、薬剤が創内に滞留維持できていないこと等が想定される」

ここにある「創の状態」としては、高齢者に多く見られる加齢変化による皮膚のたるみや外力(圧迫やズレ)などによって創の形態が大きく変化し、使用した外用薬が必要な部位(創内)に滞留できない、つまりとどまれない場合、あるいは創部の形態が複雑で薬剤の滞留維持が困難な場合などが考えられます。

たとえば目薬は、目の中に点眼しなければ薬効は期待できません。同様に、せっかく外用薬を使っても、褥瘡の創内に薬剤が滞留しなければ薬の効果は期待できず、褥瘡の回復も遅れてしまうというわけです。

*疑義解釈資料とは、診療報酬の算定などについて医療機関などから寄せられた問い合わせに、Q&A形式で取りまとめた資料をいう。厚生労働省から都道府県の担当者に事務連絡として発出されると同時に公表されている。

薬学的管理が必要な
褥瘡患者とは

褥瘡対策として薬学的管理が必要な患者としては、おおむね以下が想定されています。

  1. 日常生活の自立度が低い患者(障害高齢者の日常生活自立度判定基準で「寝たきり」に分類される「ランクB」もしくは「ランクC」の患者)
  2. 褥瘡に関する危険因子のある患者
  3. 褥瘡対策チームが必要と判断した患者

このうち「2」の褥瘡に関する危険因子の評価項目としては、「日常生活自立度」「基本的動作能力」「病的骨突出」「関節拘縮」「栄養状態低下」「皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)」「皮膚の脆弱性(浮腫)」「皮膚の脆弱性(スキン-テアの保有、既往)」の8項目が挙げられています。これらの危険因子の評価についてはこちらを読んでみてください。
⇒ 「褥瘡に関する危険因子の評価」が身近な課題に

また、「3」の判断基準は明示されていませんが、「褥瘡を有する患者」ならびに「使用している薬剤により褥瘡発生のリスクが高い患者(催眠鎮静剤、抗不安剤、麻薬、解熱鎮痛消炎剤、利尿剤などを使用している患者)」と考えられています。

薬剤滞留が問題となる
褥瘡の状態とは

このような患者において、薬剤滞留が特に問題となる「褥瘡の状態」としては、以下があげられています。

  1. DESIGN-R®2020* D3以上(NPUAP分類 Ⅲ度以上)
  2. 深い褥瘡が発生した後にポケットが形成されている場合
  3. 創が変形している場合
  4. 皮膚のたるみやズレにより創が移動し、創面が擦(す)れている場合

加えて、薬剤滞留の問題は、痛みに耐えるための安楽な体位や姿勢を保持することによっても起こり得ると説明されています。

*DESIGN-R®2020とは、日本褥瘡学会が開発した褥瘡状態を評価するためのアセスメントツールの2020年改訂版をいう。
DESIGN(デザイン)はDepth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症/感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)の頭文字を合わせたもので、ポケットがある場合は「-P」を付ける。末尾の「R」はRating(評価)の略。

薬学的管理計画の内容は

ところで、褥瘡のある患者に薬学的管理が必要と判断され、薬剤師と連携した場合、この患者に対する薬学的管理計画はどのような内容のものになるのでしょうか。

この点については、皮膚褥瘡外用薬学会が2022年4月1日に公表した「褥瘡対策における『薬学的管理に関する事項』に関する当学会の見解」のなかで、「薬学的管理計画の記載例」として以下をあげています

薬学的管理計画の記載例

  • 感染コントロールなど全身管理を実施する
  • 輸液や経腸栄養を用いた栄養管理を実施する
  • 薬効・基剤に考慮した外用薬の選択や薬剤の適正使用を実施する
  • 薬剤滞留の問題を考慮した薬剤の適正使用を実施する(薬剤滞留を考慮した対策)

(引用元:皮膚褥瘡外用薬学会「褥瘡対策における『薬学的管理に関する事項』に関する当学会の見解 22.04.01」より)

褥瘡・創傷専門薬剤師の認定制度がスタート

褥瘡対策に薬剤師の参加が求められるようになったことを受け、日本褥瘡学会は2022年7月4日、薬剤師会員を対象に「褥瘡・創傷専門薬剤師」の認定を開始することを決定した旨、ホームページで公表しています。認定開始は2024年度からですが、すでに他職種、とりわけ在宅医療の関係者からは、褥瘡ケアへの薬剤師の介入を期待する声があがっています。

参考資料*¹:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要」p.140

参考資料*²:疑義解釈 令和4年3月31日「問37」

引用・参考資料*³:皮膚褥瘡外用薬学会「褥瘡対策における『薬学的管理に関する事項』に関する当学会の見解 22.04.01」

参考資料:日本褥瘡学会『褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版』(照林社)