「高額療養費制度」で医療費負担を軽くする

費用

医療費が高くて困っていたら
「高額療養費制度」の紹介を

私たちの国の医療保険制度が、国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)であることは、皆さんご承知でしょう。すべての国民は原則、何らかの公的医療保険、いわゆる「健康保険」に加入しています。

病気やケガで医療機関にかかるときや薬局で処方薬を受け取るときは、会計窓口で健康保険証を提示すれば、かかった医療費の一部、自己負担分の1~3割を支払うだけで検査や治療を受けることができるようになっているわけです。

ところが受けた検査や治療によっては、あるいは入院が長期化したりすると、医療費の自己負担分が高額になることがあります。

このようなとき「高額療養費制度」を活用すれば、仮に1カ月の医療費の自己負担分が数十万円を超えるほどの高額になっても、その負担を一定の額まで抑えることができるのです。

高額療養費の支給申請は本人が行う

この高額療養費制度は、健康保険に加入して保険料をきちんと収めていれば、誰でも利用することができます。と言っても、本人が支給申請をし、「限度額適用認定証」の交付を受けないことには、この制度の恩恵を受けることはできません。またこの支給申請には、いくつか注意すべきことがあります。

看護師さんは、患者や家族が医療費が高額になることを気にして、医師から提案された検査や治療を受ける決心がつかずにいる場面に遭遇することもあるだろうと思います。

そのようなときに、「高額療養費制度」があることやその支給申請のアウトラインだけでも患者や家族に説明していただけるよう、この制度の仕組みとポイントをまとめておきたいと思います。

高額療養費の支給申請は
加入健康保険の「保険者」へ

高額療養費制度とは、個人が1カ月の間(その月の1日から月末まで)に負担する医療費を一定(自己負担限度額)に抑えることによって、医療費が過度の負担にならないよう、自己負担限度額を超えた金額を支給する制度です。

この自己負担限度額は、年齢や所得金額により決まっていて、厚生労働省のホームページ*¹で確認することができます。

この支給を受けるには、加入している健康保険事業を運営している「保険者」に支給申請をする必要があります。保険者は健康保険の種類によって異なりますが、各自持参の健康保険証の表紙の下の方に明記してありますから、すぐにわかります。

サラリーマンとその扶養者であれば、「〇〇健康保険組合」あるいは「全国健康保険協会(〇〇支部)」と書いてあるはずです。同じサラリーマンでも、国家公務員や地方公務員、あるいは私立学校の教職員とその扶養者の場合は「〇〇共済組合」となります。自営業者や個人営業の医師、薬剤師、弁護士などとその扶養者は、国民健康保険になります。

国民健康保険の運営主体は2018(平成30)年に、それまでの市区町村から都道府県に替わっていますから、保険者名には住民票のある都道府県名が入っているはずです。

健康保険にはもう1つ、75歳以上の方と、65歳以上75歳未満で一定の障害があり、運営主体(広域連合)の認定を受けた方が加入する保険があります。この場合の保険者は、「〇〇後期高齢者医療広域連合」となり、「〇〇」には住民票のある都道府県名が入ります。

高額療養費の支給申請には
事後申請と事前申請がある

高額療養費の支給申請には、「事後申請」と「事前申請」の二通りがあるのですが、多くの方は、事後申請を選んでいるようです。

事後申請とは、医療機関や薬局の会計窓口で、自己負担分(1~3割)の医療費や薬代をいったん支払ってから*、高額療養費の支給申請書を提出または郵送して、後日、自己負担限度額を超えた分の払い戻しを受けるという方法です。

*医療費の支払いが多額になり払い戻しを受けるまでの間に家計にかかる負担が重すぎるようなときは、「高額医療費貸与制度」を利用できる場合がある。受けられる貸付金額は、高額療養費支給(払い戻し)見込み額の9割以内で、無利息です。詳細は、加入している健康保険組合に問い合わせを。

高額療養費の支給申請書は加入している健康保険組合のホームページからダウンロードできますから、手続き自体は比較的簡単にできます。この支給申請書に医療機関や薬局で受け取った領収書の添付が求められることがありますから、くれぐれも領収書を紛失しないよう伝えておいてください。

支給申請を受けた保険者サイドは、レセプトといって、申請した患者が受診した医療機関から提出されている診療報酬の明細書などを審査してから支給の可否を判断します。そのため、自己負担限度額を超えた分の払い戻しを受け取ることができるのは、通常、医療機関や薬局の会計窓口で自己負担分を支払ってから3カ月後になるようです。

事前申請して「限度額適用認定証」の交付を受ける

医療費の自己負担分が高額になることがあらかじめ予想され、後日支払いを受けるまで家計的に待っていられないといったケースもあるでしょう。あるいは、入院が長期化して医療費が高額になりそうだということも考えられます。

そのようなときは、加入している保険者に「限度額適用認定証」の交付を事前に申請することができます。いわゆる「事前申請」です。この事前申請が認められると、認定証の発行を受けることができます。

会計の際にこの認定証を提示すると、医療機関側は患者の自己負担限度額を超える額については、患者が加入する健康保険の保険者に直接請求してくれますから、窓口での支払いは、自己負担の上限枠に抑えることができます。

マイナンバーカードを健康保険証として利用することのできる医療機関を受診している方で、マイナンバーカードを保険証として利用している方は、マイナンバーカードが「限度額適用認定証」の代わりとなるため、認定証の発行手続きは不要となります。

高額療養費の申請に関して
伝えておきたい4つの注意点

注意点1:自己負担額は1カ月単位で計算する

高額療養費制度で払い戻しが受けられるのは、1カ月(暦月の1日から末日まで)の区切りで自己負担額が自己負担限度額を超えた場合に限られ、月をまたいでの合算はできません。

ここでいう「自己負担限度額」は患者の年齢・所得別に決められていて、2022年6月時点の年齢・所得別月額自己負担限度額は厚生労働省のホームページで確認できます*¹。

注意点2:高額療養費の支給対象から外れる医療費がある

高額療養費制度の対象となるのは、公的医療保険が適用される診療費に対して患者が支払った自己負担額に限られます。入院中や在宅療養に必要となる「食費」や入院中の「差額ベッド代」、「先進医療にかかる費用」などは支給対象外となります(収入状況によっては食費が対象に含まれることもある)。

なお、先進医療にかかる費用は、患者が全額を自己負担することになりますが、先進医療にかかる費用以外の、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療同様に扱われます。先進医療技術は2023年10月23日時点で81種類あり、その一覧はコチラ*²で確認できます。

注意点3:世帯合算で高額療養費の支給を受けられる

高額療養費の計算は、原則「医療機関ごと」「個人ごと」です。ただし、患者1人の1カ月の窓口負担額では高額療養費の給付対象とならない場合は、同じ健康保険に加入している家族(被扶養者)の窓口負担額、および別の医療機関での窓口負担額を合算し、その合計額が自己負担限度額を超えるようなら、超えた分が給付対象となります。

なお、一つの医療機関で複数の診療科で検査や治療を受けた場合は、全診療科の医療費を合算した額が自己負担限度額を超えるようなら、高額療養費を請求することができます。

注意点4:高額療養費の支給には時効がある

高額療養費支給の申請は診療を受けて自己負担額を支払った月の翌月1日から2年間を経過すると時効となり、払い戻しを受けることができません。

逆に、この2年間の消滅時効内に支払いを済ませた高額医療費については、過去にさかのぼって支給申請をすることができます。

療養のための生活費は「傷病手当金」で

なお、いわゆる勤め人で健康保険に加入している方が、入院や治療のために給料を受け取れないときは、標準報酬日額の3分の2が支給される所得補償制度として「傷病手当金」制度があります。受給するにはいくつか条件がありますが、詳しくはこちらをご覧ください。

病気やケガで就労できなくなり収入が途絶えたときに備え、公的医療保険には「傷病手当金」が用意されている。健康保険に加入している会社員や公務員が最長で1年6か月間、給料の一部を受けとることができる制度だ。業務中以外の病気やケガであることなどの条件をまとめた。

参考資料*¹:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆様へ 平成30年8月診療分から」―年齢・所得水準別自己負担限度額 p.3-4

参考資料*²:厚生労働省 先進医療の各技術の一覧