N95マスク長時間装着による圧迫創傷を防ぐ




マスク

新型コロナウイルス感染症の
患者対応に必須のN95マスクだが

いったんは収束に向かう傾向をみせた新型コロナウイルスですが、ここにきて新規感染者の確認が相次ぎ、7月26日には、国内で感染が確認された人が累計で3万人を超えたと報じられています(クルーズ船の乗船者・乗員を除く)。

このうち2万人余りは、すでに症状が改善するなどして退院し、社会復帰しているようです。
しかし26日の時点で、依然として66人が重症で集中治療を受けていると聞きます。

新規感染者には20代、30代の軽症者が多いのですが、家庭内や職場での感染により重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人が感染するケースも増えています。

医療の最前線で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者対応に尽力しておられる看護師等医療従事者の方々には、依然として気の抜けない、心身ともにかなり負担のかかる日々が続いていることと思います。

N95マスクで鼻のつけ根に褥瘡の兆候が

その負担は時として意外なかたちとなって現れているようです。
というのは、取材でお目にかかって以来ずっと親しくさせていただいている看護師さんから、数日前、久しぶりにこんなメールが届いたのです。

「応援部隊として駆り出され、コロナ患者さんの対応にあたっているのですが、N95マスクをずっと装着しているため、鼻のつけ根などに褥瘡を思わせる兆候が出はじめ、うら若き女性としては跡が残らないかと心配しています(苦笑、涙……)」

こんなメールを受け取ったからには、知らんぷりもできません。
早速、なんとか打つ手はないものかと調べてみました。

同じ悩みを抱えておられる看護師さんも少なくないと聞き、みなさんへの心からの感謝と激励の気持ちを込めつつ、わかったことをお伝えしたいと思います。

N95マスクは外せないが
圧迫創傷は何とか避けたい

褥瘡には、いわゆる「床ずれ」とは違うタイプのものがあるといった話を以前書きました。
「医療関連機器圧迫創傷」、いわゆるMDRPUです。
→ 床ずれではない褥瘡「医療関連機器圧迫創傷」の予防策は万全ですか

医療関連機器圧迫創傷(Medical Device Related Pressure Ulcer;MDRPU)は、ギプスや気管内チューブ等の医療関連機器を長時間にわたって装着した際に、装着部位が圧迫を受け続けることにより血流が低下、あるいは滞ることが引き金となってできる創傷です。

寝たきり状態が長く続いているような患者の仙骨部や踵部などに発生しがちな褥瘡は、自重、つまり自身の体重が負荷となって発生します。
一方のMDRPUは、機器等と接触している部位に局所的な外力が加わって発生します。

MDRPUは除圧して血行を促せば予防できるが

ですから両者は完全にイコールではないのですが、基本的な発生メカニズムは同じです。

したがって褥瘡同様にMDRPUも、予防には除圧、つまり機器と接触する局所に外圧が過剰に加わらないようにしたうえで、マッサージなどを行って血行を促してあげればいいわけです。

友人が悩んでいるというM95マスクの装着による「褥瘡を思わせる兆候」とは、まさにMDRPUのサインと考えて、除圧を図ればいいわけですが……。

ただ、新型コロナウイルスの感染対策上、とりわけエアロゾルが発生するような医療処置やケアが行われている患者のベッドサイドに一定時間居続ける看護師さんとしては、圧迫創傷を防ぐためとは言え、M95マスクを簡単に外してしまうわけにはいかないでしょう。

N95マスクによるMDRPUに
日本褥瘡学会が予防策

そこで、顔への密着性の高いN95マスクの長時間装着によるMDRPUの予防策として、日本褥瘡学会は、マスクのフィッティングを邪魔しないようなハイドロコロイド素材の薄手のテープを活用することを推奨しています。

ハイドロコロイド素材とは、水に強く低刺激性で肌にやさしい密着剤とでも言えばいいでしょうか。
褥瘡予防やストーマケアの補助用品、あるいは経管栄養チューブ類の固定などにも長年使用されているビジダームやデュオアクティブETは、いずれもハイドロコロイド素材です。

ご承知のように、現在国内で使用されているN95マスクには、カップ型のものもあれば折りたたみ式のものもあります。

いずれのタイプにしろ、自分にピッタリ合ったマスクを選ぶためには、事前にフィットテストを実施して空気の漏れの有無を測定することと、選択したマスクについては、そのマスクに合った正しい装着法を身につけておくことが必須とされています。

同時に、N95マスクを装着するたびにユーザーシールチェックと言って、マスクと顔の隙間から空気が漏れないことを確認することも、感染防止には欠かせません。

特に圧迫感が強い部分に
ハイドロコロイド材を貼付

このような、顔にピタッと密着してこそ意味のあるN95マスクですが、長時間装着し続けることによる圧迫創傷の好発部位は、選んだマスクやそのゴムひもの位置、およびその人の顔の形状などによって異なります。

一般に、特に持続して圧迫を受けやすく、圧迫創傷ができやすいのは、鼻根部(両眼の間にある鼻のつけ根部分)と盛り上がった頬骨部分、および下顎部とされています。

まずは、自分で選んだマスクを装着してみてください。
そのうえで、特に圧迫感が強い部分に、ハイドロコロイド素材のドレッシング材を適度な大きさにカットして貼付し、除圧を図るといいようです。

実際の貼付方法は、日本褥瘡学会の危機管理委員会がWebサイトにて、
「COVID-19感染対策 N95マスクによるMDRPU予防」として写真入りで具体的に紹介していますので、チェックしてみてください*¹。

N95マスクは、顔への密着性が何よりも重要となります。
上記委員会は、いかなるMDRPU対策をする場合でも、感染対策担当の部門と相談すること、また「フィッティングテスト」は必ず実施して、密着性を確認するよう促しています。

新型コロナウイルスの空気感染
「可能性も除外できない」とWHO

なお、新型コロナウイルスについては、WHO(世界保健機関)やUSCDC(米国疾病管理センター)などの専門機関、そして日本感染症学会や日本環境感染学会なども、これまでは、エアロゾルが発生するような医療処置が行われる状況を除き、接触感染と飛沫感染が主な感染経路だとしたうえで感染予防策を推奨してきました。

ところがWHOは7月10日、専門家らによる指摘を受け、新型コロナウイルスの主要な感染経路はこれまでどおり飛沫感染と接触感染と考えられるものの、「空気感染の可能性も除外できない」とする公式見解を発表しています。

WHOがこのような見解を出すまでの経緯については、こちらの記事を読んでみてください。
→ 新型コロナウイルスに空気感染の可能性浮上

参考資料*¹:日本褥瘡学会「COVID-19感染対策 N95マスクによるMDRPU予防」