空気感染リスクのある
患者対応に必須のN95マスク
新型コロナウイルス感染症(COPID-19感染症)については、感染症法上の位置づけが、5月8日から季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に移行することになりました。
これにより一般の医療機関も季節性インフルエンザ同様にコロナ患者を受け入れることになりますから、医療の最前線で患者対応に尽力しておられる看護師等医療従事者の方々には、依然として気の抜けない、心身ともにかなり負担のかかる日々が続くことと拝察いたします。
N95マスクで鼻のつけ根に褥瘡の兆候が
その負担は時として意外なかたちとなって現れているようです。というのは、取材でお目にかかって以来ずっと親しくさせていただいている看護師さんから、数日前、久しぶりにこんなメールが届いたのです。
「応援部隊として駆り出され、コロナ患者さんの対応にあたってきたのですが、N95マスクをずっと装着しているため、鼻のつけ根などに褥瘡を思わせる兆候が出はじめ、うら若き女性としては跡が残らないかと心配しています(苦笑、涙……)」
こんなメールを受け取ったからには知らんぷりもできず、早速、なんとか打つ手はないものかと調べてみました。
N95マスクは外せないが
圧迫創傷は何とか避けたい
褥瘡には、いわゆる「床ずれ」とは違うタイプのものがあるといった話を以前書きました。
「医療関連機器圧迫創傷」、いわゆるMDRPUです。
医療関連機器圧迫創傷(Medical Device Related Pressure Ulcer;MDRPU)は、ギプスや気管内チューブ等の医療関連機器を長時間にわたって装着した際に、装着部位が圧迫を受け続けることにより血流が低下、あるいは滞ることが引き金となってできる創傷です。
寝たきり状態が長く続いているような患者の仙骨部や踵部などに発生しがちな褥瘡は、自重、つまり自身の体重が負荷となって発生します。一方のMDRPUは、機器等と接触している部位に局所的な外力が加わって発生します。
圧迫創傷は除圧して血行を促せば予防できるが
ですから両者は完全にイコールではないものの、基本的な発生メカニズムは同じです。したがって褥瘡同様にMDRPUも、予防には除圧、つまり機器と接触する局所に外圧が過剰に加わらないようにしたうえで、マッサージなどを行って血行を促してあげればいいわけです。
友人が悩んでいるというN95マスクの装着による「褥瘡を思わせる兆候」とは、まさにMDRPUのサインと考えて、除圧を図ればいいわけですが……。
ただ、感染対策上、とりわけ空気感染リスクがあり、エアロゾルが発生するような医療処置やケアが行われている患者のベッドサイドに一定時間居続ける看護師さんとしては、圧迫創傷を防ぐためとは言え、M95マスクを簡単に外すわけにはいかないでしょう。
N95マスクによる圧迫創傷に
日本褥瘡学会が予防策
そこで、顔への密着性の高いN95マスクの長時間装着によるMDRPUの予防策として、日本褥瘡学会は、マスクのフィッティング(密着性)を邪魔しないハイドロコロイド素材の薄手のテープを活用することを推奨しています。
ハイドロコロイド素材とは、水(汗)に強く低刺激性で肌にやさしい密着剤とでも言えばいいでしょうか。褥瘡予防やストーマケアの補助用品、あるいは経管栄養チューブ類の固定にも長年使用されている「ビジダーム」や「デュオアクティブET」は、いずれもハイドロコロイド素材です。
現在国内で使用されているN95マスクには、カップ型のものもあれば折りたたみ式のものもあります。いずれのタイプにしろ、自分にピッタリ合ったマスクを選ぶためには、事前にフィットテストを実施して空気の漏れの有無を測定することと、選択したマスクについては、そのマスクに合った正しい装着法を身につけておくことが必須とされています。
同時に、N95マスクを装着するたびにユーザーシールチェックと言って、マスクと顔の隙間から空気が漏れないことを確認することも、我が身を感染から守るためには欠かせません。
特に圧迫感が強い部分に
ハイドロコロイド材を貼付
このような、顔にピタッと密着してこそ意味のあるN95マスクですが、長時間装着し続けることによる圧迫創傷の好発部位は、選んだマスクやそのゴムひもの位置、およびその人の顔の形状などによって異なります。
一般に、特に持続して圧迫を受けやすく、圧迫創傷ができやすいのは、鼻根部(両眼の間にある鼻のつけ根部分)と盛り上がった頬骨部分、および下顎部とされています。
まずは、自分で選んだマスクを装着してみてください。そのうえで、特に圧迫感が強い部分に、ハイドロコロイド素材のドレッシング材を適度な大きさにカットして貼付し、除圧を図るといいようです。
N95マスクは、顔への密着性が何よりも重要です。上記委員会は、いかなるMDRPU対策をする場合でも、感染対策担当の部門と相談すること、また「フィッティングテスト」は必ず実施して、密着性を確認するよう促しています。
新型コロナの空気感染
「可能性も除外できない」とWHO
なお、新型コロナウイルスについては、WHO(世界保健機関)やUSCDC(米国疾病管理センター)などの専門機関、そして日本感染症学会や日本環境感染学会なども、これまでは、エアロゾルが発生するような医療処置が行われる状況を除き、接触感染と飛沫感染が主な感染経路だとしたうえで感染予防策を推奨してきました。
ところがWHOは2020年7月10日、専門家らによる指摘を受け、新型コロナウイルスの主要な感染経路はこれまでどおり飛沫感染と接触感染と考えられるものの、「空気感染の可能性も除外できない」とする公式見解を発表しています。したがって、空気感染の可能性を念頭に、より慎重な感染対策が求められます。
マスクによる肌トラブル・ドライアイ対策も
なお、マスクの長時間着用による弊害としては、肌荒れやドライアイもあります。それぞれの対策については、こちらを参照してください。