ACPの啓発に「人生会議」の短編ドラマ活用を

話し合い

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終末期の過ごし方について
ACP(人生会議)を

患者が希望する人生の最終段階を過ごす療養場所や蘇生処置について話し合いがもたれた割合は、患者と医師の間で2~3割、患者と家族の間では3~4割にとどまっていた――。

国立がん研究センターが3月25日(2022年)に公表したこの調査結果*に、少々がっかりさせられた方も少なくないと思います。厚生労働省が主導して、アドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生会議)の取り組みが全国的にスタートして、既に8年余りというのに、心もとない現実ではないでしょうか。

調査をまとめた同センターがん診療支援部の小川朝夫医師は、最期の療養場所や治療・ケアが患者自身の望むかたちで提供されることが患者の安心や尊厳につながると指摘。そのうえで、「まずは4~5割というところを一つの目安に、終末期の過ごし方についてアドバンス・ケア・プランニングを行う必要がある」と訴えています。

そこで今回は、その啓発・普及につなげようと、神奈川県横浜市が市民向けに制作した「人生会議」の短編ドラマ2作品を紹介しておきたいと思います。

*この調査は、2017年と18年にがんで死亡した20歳以上の患者の遺族約11万人を対象に、2019年と20年に調査票(調査項目は「死亡前1週間の苦痛症状」「最期の療養場所や蘇生処置などについて患者と医師との話し合いの有無」「家族の負担感」など)を送付して実施された。詳細はこちらを。

横浜市が制作・公開している
「人生会議」の短編ドラマ

ご承知のように、「人生会議」とは、人生の終わりを見据えて希望する生き方や医療、ケアについて、本人が元気なうちから家族や大切な人、および医師や看護師等医療や介護スタッフらと話し合うアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の愛称です。

紹介する短編ドラマ「人生会議」は、この人生会議(ACP)をドラマ仕立てでわかりやすくすることで、広く一般市民にもその意図するところや方法について理解を深めてもらおうと、横浜市「医療局 がん・疾病課」が制作したものです。

同時にこのドラマでは、もしものときに備えて自分の意思を書き込んでおけるようにと、市が制作して希望する市民に無料配布している「もしも手帳」が、人生会議として家族や医療スタッフらと話し合いを持つきっかけづくりに役立っていることをアピールしています。

一人暮らしをする66歳男性の
人生会議との出合い

横浜市の「人生会議」短編ドラマは、世代別に「高齢期編」と「壮年期編」の2作品があります。いずれも首都圏の新都心として知られる横浜港に面するみなとみらい地区が舞台で、上映時間は、それぞれ12分です。

まず、「稔り(みのり)の世代(高齢期)編 ~みなとの見える街で~」では、定年退職後、週に4回倉庫管理のアルバイトをしている男性(66歳)が主人公。俳優の竹中直人さんが演じるこの男性は、15年前に妻に先立たれ、現在はひとり暮らしですが、離れて暮らす息子さんからは定期的に安否確認の電話が入っています。

ランチタイムをいつも一緒に過ごしてきた同僚の男性から「妻と人生会議をしてしている」と聞き、初めて人生会議のことを知ります。「もしも手帳を」を見せながら、「自分のもしものときは、延命より苦しまないケアを望む」と話していたこの同僚が、突然、脳梗塞で倒れて入院します。

その後、この同僚が寝たきりの状態になったのを目の当たりにし、自分も元気なうちからもしものときにどうしたいのかを考え、そのことを「人生会議」で息子たちに伝えておこうと気づく、というストーリーです。

夫の体調を心配する妻が
「もしも手帳」を紹介されて

一方の「働き世代(壮年期)編 ~みどりの見える街で~」(主演:高島礼子さん)は、食欲不振を理由に朝食にほとんど手をつけない50歳の夫の体調を心配する専業主婦の妻(高島さん)と、大学で看護を学んでいる娘さん(看護学科3年)の3人家族の話です。

「若くても急に交通事故に遭って生死をさまようこともある。誰だって、何があるかわからないのだから、ひとごとではない」――。こんな心配から、行きつけの薬局で紹介された「もしも手帳」をもとに、家族一人ひとりが、人生の最終段階はどこで過ごしたいのか、どんな治療やケアを望むのかを本気で考え、その考えを伝えあうといったストーリーです。

妻から「もしも手帳」を初めて見せられたときは、「俺はもう死ぬっていうのか」と憤慨し、その場を立ってしまう夫でした。

しかし、大学の授業でアドバンス・ケア・プランニングについて学んだ娘さんから、前もって考えておくことの大切さを聞かされ、「人生会議は何度話し合ってもOKだから」と促され、ようやく話し合いの場を持てるようになっていきます。

人生会議の話題は
「もしものとき」に限らない

ドラマにもあるように、アドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生会議)については、とかく「もしものとき」とか「人生の最期のとき」が強調されがちです。そのため、私たちは国民性として「死を語る」ことをタブー視する傾向が強いこともあり、アドバンス・ケア・プランニングが敬遠されがちではないでしょうか。

実際「壮年期編」の短編ドラマの中にも、妻から「もしも手帳」を見せられた夫が、「もしものときって、まだ病気とわかったわけでもないのに」とか「俺はもう死ぬっていうのか」と少々感情的になる場面があります。

しかし、本来アドバンス・ケア・プランニング、つまり人生会議は、「もしものとき」に備えるという話だけではないはずです。たとえば日本医師会は、アドバンス・ケア・プランニングを「前向きにこれからの生き方を考える仕組み」であり、「そのなかに最期の時期の医療およびケアのあり方が含まれる」と説明しています。

「もしものとき」というフレーズに反応して人生会議を敬遠している患者・家族には、「アドバンス・ケア・プランニングの普及に向けて」を参考に、そのあたりの話をしてみると理解が得られるのではないでしょうか。

自治体が制作・配布している事前指示書の活用を

なお、横浜市が用意している「もしも手帳」が、家族や大切な人と人生会議をもつきっかけづくりに大変役立っていることは、ドラマからおわかりでしょう。

同様の事前指示書は、たとえば兵庫県の太子町が「私のみらいノート(エンディングノート)」を、東京都が「私の思い手帳」をといった具合に、多くの自治体が独自のツールを用意して人生会議の啓発に力を入れています。

医療現場においても、これらを上手に活用してみるのも、人生会議の啓発・普及に役立つのではないでしょうか。また、「もしバナゲーム」も活用するのもいいと思います。

日本老年医学会の「ACP事例集」も参考に

併せて、ACPの実際の流れやかかわり方については、日本老年医学会による「ACP事例集」もチェックしてみてください。

また、2024年4月1日発売の『ACPの考え方と実践: エンドオブライフ・ケアの臨床倫理』(東京大学出版会)では、「実践編」において「認知症を有する高齢者」「自ら伝えることの難しい超高齢者」「治療が困難な状態にあるがん患者」など、豊富な事例を介してACPの実際が紹介されています。是非参考に!!