アドバンス・ケア・プランニングの普及に向けて

話し合い

がん終末期の過ごし方
患者とのACPは35%にとどまる

人生の最期は自宅で家族に看取られたいと考えている人は依然として多いようです。ところが、この希望を医師に伝えていた患者は約35%にとどまるとする調査結果を、国立がん研究センターが3月25日(2022年)発表しています。

一般の方々には「人生会議」という愛称で知られるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取り組みが全国的にスタートしてから、すでに6年余りになるでしょうか。

アドバンス・ケア・プランニングは、人生の最期の日々を自分らしく過ごすために、自分はどこで、どう過ごしたいか、どのような医療やケアを希望するかといったことを、早い段階から家族や医師ら医療関係者と話し合っておこうというねらいで始まったはずです。

ところがこの調査結果を見る限り、アドバンス・ケア・プランニングは依然としてあまり普及していないようですが、これはいったいなぜなのか――。

そんなことを、東京近郊の大学病院でACP相談員(ACPファシリテーター)*として活動する友人の看護師さんと話し合う機会がありました。今回はその時の話をざっと紹介して、アドバンス・ケア・プランニングについて改めて考えてみたいと思います。

*ACP相談員(ACPファシリテーター)には、ACPにおいて医療やケアに関する本人の意思を確認して意思決定を支援し、本人と家族および医療関係者との話し合いを円滑に進める役割が期待されている。ACP相談員には、医師、看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー等の医療・福祉専門職で、厚生労働省が実施する研修を修了することが求められている。詳しくはこちらを。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取り組みが始まって5年余り。推進上の課題の1つとして、本人の意思を把握して意思決定を支援をする「ACP相談員」に期待が寄せられている。厚労省が神戸大学に委託して進めているACP相談員の研修についてまとめた。

がん患者の遺族調査で判明した
ACPが進んでいない現状

彼女との話を紹介する前に冒頭の調査ですが、この調査は2017年と18年にがんで死亡した20歳以上の患者の遺族約11万人を対象に、2019年と20年に調査票を送って実施されたものです。

調査票では、死亡前1週間の苦痛症状、最期の療養場所や心肺停止時の蘇生処置などについて患者と医師で話し合っていたかどうか、家族の負担感などを尋ねています。

約5万4000人から得られた有効回答(患者の死亡時の平均年齢は78.0歳で80代以上が過半数を占めていた)を集計。分析した結果、患者と医師との話し合いに関しては以下の2点が公表されています。

  • 最期の療養場所について話し合っていたのは35.7%
  • 心肺停止時の蘇生処置について話し合っていたのは35.1%

調査をまとめた同センターがん医療支援部の小川朝夫医師は、話し合いがもたれている割合の低さを指摘したうえで、「まずは4、5割が理想の一つの目安になるのではないか」と分析。最期の療養場所や治療・ケアが患者自身が望むかたちで提供されることが、患者の安心や尊厳につながるとして、終末期の過ごし方について十分なアドバンス・ケア・プランニングを行う必要性を訴えています。

患者とのACPでは
これからの生き方を考える

そこで、「では、アドバンス・ケア・プランニングと呼ばれる取り組みがなぜ思ったほどには普及していないのか」ですが、そんな話になってふと頭に浮かんだことがあります。

日本医師会はかかりつけ医を主な対象に、広く医療従事者向けに「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」というリーフレットを作成し、公式Webサイト上で公表しています*¹。

そこではアドバンス・ケア・プランニングを、「将来の変化に備え、将来の医療およびケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセス」と説明しています。

さらに、このリーフレットを読み進めていくと、アドバンス・ケア・プランニングの留意点について書かれた部分があり、そこに「アドバンス・ケア・プランニングは、前向きにこれからの生き方を考える仕組み」であり、「その中に、最期の時期の医療およびケアのあり方が含まれる」とあるのです。

「もしものとき」に限定しない

とかくアドバンス・ケア・プランニングについては、「もしものとき」とか、「人生の最終段階」における療養場所や医療・ケアの選択について考えることだと説明することが多いように思います。

これでは、「人の死」ということをタブー視する傾向の強い私たちの国にあっては、「あまり考えたくないこと」として、アドバンス・ケア・プランニングが敬遠されるのもやむをえないことのように思えます。

しかし、本来アドバンス・ケア・プランニングは、「もしものとき」に備えるという話だけではないということを、このリーフレットは明示しているのです。

ACPではこれからの生き方の
何を話し合えばいいのか

それでは、アドバンス・ケア・プランニングでは「これからの生き方」の何を考え、話し合えばいいのかという話になります。

この点について日本医師会のリーフレットは、アドバンス・ケア・プランニングで話し合うべきは、「将来の変化に備え、患者さんの意思を尊重した医療およびケアを提供し、その人生の締めくくりの時期に寄り添うために必要と考えられること」と説明しています。

具体的には、まず家族構成や日々の暮らしぶり、健康状態といった「患者さんの状況」について、次に患者の意思を再優先に尊重するために知っておきたい「患者さんが大切にしたいこと(人生観や価値観、希望など)」について考え、話し合うことだとしています。

アドバンス・ケア・プランニングのメインテーマとしていきなり話題にしがちな「延命治療を望むかどうか」とか「痛みや苦痛の緩和はどうするか」「どこで、どのような最期を迎えたいのか」といった「医療やケアについての希望」を考え、話し合うのはそのうえでの話だとしているのです。

その人が大切にしたいことは
こんな問いかけから

なお、「患者さんが大切にしたいこと」を知ることは、看護師の皆さんが常に大切にしている「その人らしさの尊重」につながります。

それは、患者さんの人生観や価値観、希望といったことを知ることを通して把握していくことになるのでしょうが、その際に役立つであろう問いかけとして、日本医師会のリーフレットは以下の点をあげています。

  • これまでの暮らしで大切にしてきたことは何ですか?
  • 今の暮らしで、気になっていることはありますか?
  • これからどのように生きたいですか?
  • これから経験してみたいことはありますか?
    (会っておきたい人、最後に食べたいもの、葬儀、お墓、財産など)
  • 最期の時間をどこで、誰と、どのように過ごしたいですか?
  • 意思決定のプロセスに参加してほしい人は誰ですか?
  • 代わりに意思決定してくれる人はいますか? など。

(引用元:日本医師会編「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」*¹)

意思決定の代理人の選び方

上記項目にある「代わりに意思決定してくれる人」、つまり「代理人」を指示しておくことの必要性や代理人の選び方については、こちらの記事がお役に立てると思います。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)において欠かせないテーマの一つに「自分が意思決定できなくなったときに誰に代わって意思表示してもらうか」という課題がある。いわゆる「代理人」だ。「家族でしょ」となりがちだが、そう決める際の留意点をまとめた。

「ACP事例集」も参考に

また、日本老年医学会が、実際の臨床現場においてACPはどのように実施されるのかを全国の医療・ケア従事者にイメージしてもらえるようにとまとめた「ACP事例集」は、大きなヒントになるのではないでしょうか。

ACPの対象で圧倒的に多いのは高齢者だ。高齢者の医療・ケアを専門領域とする日本老年医学会は、先に「ACP推進に関する提言」と併せ、提言に沿った実践例を集めた「ACP事例集」を発表。そこにはよく遭遇しそうな10事例が紹介されている。

引用・参考資料*¹:日本医師会編「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」