日本老年医学会が「ACP事例集」に新事例追加

書き留める

「ACP推進に関する提言」
に沿って実施されたACP10事例

このところの「人生会議PRポスター騒動」が、思わぬかたちでプラスに働いたこともあり、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning :以下、ACP)に対する人々の関心が、僅かながら深まってきているように見受けられます。

ACPについては、いくつかの定義が公表されています。

このなかで、日本老年医学会は、「将来の医療・ケアについて、本人を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセス」と定義し、ACPが終末期の医療やケアに限った話ではないことを強調しています。

とは言え、医療やケアについて自分のこととして考えるのは、終末期とは限らないまでも、何らかの健康問題を自覚して医療的なかかわりが必要になった場合でしょう。

そのためACPの対象は、自ずと健康課題を抱えがちな高齢者が圧倒的に多くなります。

この点を踏まえ、高齢者の医療・ケアを専門領域とする日本老年医学会が2019年6月4日に、「ACP推進に関する提言」をまとめて公表したことは先の記事で紹介しました。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及が進まない原因の1つに、日本人の心性に馴染みにくいことがある。この点を重視した日本老年医学会が、日本人らしさを尊重したACP実践のための提言をしている。真意を語りにくい忖度文化も、ACPに影響!?……。

この提言の際には、6事例をまとめた「ACP事例集」を併せて発表したのですが、10月7日には、そこにさらに新しい事例を、その後も随時事例を追加して、2020年10月26日の時点では10事例となっています。

今日はこの事例集*¹の概要を紹介してみたいと思います。

ACP推進の中心的役割を担う
ACP相談員(ファシリテーター)

日本老年医学会の「ACP事例集」は、ACPを先の提言に沿って実施するとした場合、実際にどのような進め方になるのかといったことを、全国の医療・ケアスタッフがより具体的にイメージできるように、との趣旨でまとめられています。

ご承知のようにACPのプロセスには、実にさまざまな職種がかかわることになります。

そのなかで中心的な役割が期待されるのは、ACPを関係者間での継続的な対話(話し合い)を通して進めていくうえで欠かせない「ACPファシリテーター」、厚生労働省がいうところの「ACP相談員」です。

このACPファシリテーター*は、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー(MSW)、薬剤師、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、さまざまな職種が担う可能性があります。

この点を踏まえ本事例集は、ACPファシリテーターをかかりつけ医が担ったケースもあれば、看護師が務めたケース、ケアマネジャー、あるいはMSWが務めているケースなど、ファシリテーターのバラエティーも考慮して構成されています。

なお、紹介されている事例については、実際の事例を参考にしているものの、「ACPのわかりやすいモデルを提示するために、実話を題材にしたフィクションとして捉えていただければ幸いである」との断り書きがあります。

*ACPファシリテーター厚生労働省は「ACP相談員」と呼び、ACP相談員の研修を行っている。この研修事業については、こちらの記事を参照してください。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取り組みが始まって5年余り。推進上の課題の1つとして、本人の意思を把握して意思決定を支援をする「ACP相談員」に期待が寄せられている。厚労省が神戸大学に委託して進めているACP相談員の研修についてまとめた。

ACP事例集で取り上げている
事例内容と担当ACP相談員

さて事例集の内容ですが、取り上げられている事例と、個々の事例を担当したACP相談員、つまりファシリテーターの職種(カッコ内)は、次のようになっています。

ちなみにここに紹介するのは、2020年10月26日現在の10事例です。

事例1 多職種による繰り返しての意思決定支援により本人希望に添った看取りを実現した事例(かかりつけ医)
事例2 延命医療を望まないパーキンソン病患者から人工呼吸器を外して看取った事例(ケアマネジャー)

事例3 透析療法を拒否する末期腎不全患者に対して透析療法を見合わせ、保存的治療と緩和ケアによって支援しつつ看取った事例(看護師)
事例4 在宅生活を希望するがん患者に対し、地域連携ICTシステム*による多職種協働によって本人の意思を尊重した事例(MSW)
事例5 病院から在宅へのACPの実践に代弁者(妻)と移行期ケアチームが重要な役割を果たした事例(病院移行期ケアチーム)
事例6 アルツハイマー型認知症をもつ高齢者の在宅看取り事例(ケアマネジャー)
事例7 維持血液透析を離脱して最期を迎えた事例(有床透析クリニック勤務看護師)

事例8 人工呼吸器を使用し一人暮らしをしている高齢男性の「最期まで自宅で過ごしたい」という強い希望を、多職種チームで支えた事例 (ケアマネジャーとMSW)
事例9 長期間にわたって胃瘻の夫を在宅で看た元看護師の妻を多職種で支えた事例(薬剤師)
事例10 経管栄養を望んでいなかった患者が脳血管性認知症により意思表明が困難になったとき、妻の揺れ動く重いと患者の思いを見守った事例(緩和ケア認定看護師)

(引用元:日本老年医学会「ACP事例集」*¹目次)

*なお、「事例4」にある「地域連携ICTシステム」とは、「本人の医療・ケアに関する情報について、セキュリティの確立したクラウドなどの情報通信機器(ICT)で管理を行い、家族と医師・訪問看護師・ケアマネジャーなど多職種で情報を共有し、コミュニケーション・ツールとして用いる方法」と説明されている。

ACPの開始時期と
「おまかせ」への対応事例

ACPについては、「いつ開始するのがいいのか」といったことがよく問題となります。

この点について当学会は、「ACP推進に関する提言」において、一応の目安とすべき時期として以下の3パターンを示しています。

⑴ 本人が医療を受けている場合は、通院・入院中の医療機関においてACPを開始する
⑵ 本人が医療を受けていない場合は、要介護認定を受ける頃までにはACPを開始する
⑶ 本人が介護施設に入所している場合は、その施設において直ちにACPを開始する

事例集で紹介されている事例はいずれも、上記⑴と⑶の、すでに何らかの医療・ケアを受けている状況下でのACP導入です。

この導入の最初の部分で、医療者サイドがこの先の医療やケアに対する本人の希望を尋ねた際に、「先生におまかせします」と答える患者・家族は今だに依然として多いものです。

そうした場合、どのように説明して、「どうしたいか」を本人や家族が自ら考える方向にアプローチしていくのか――。

「事例2」で示されている実際のやりとりが参考になるのではないでしょうか。

なお事例は随時追加されていく予定とのことです。

ACPにおける多職種連携のヒントも

また、本人の価値観や人生観・死生観に基づいた意向をどう聞き出し、理解して、この先の医療・ケアにいかに反映していくのかといったことも悩むところではないでしょうか。

加えて、最近ではIPW(Inter Professional Work)という略語で語られることの多いACPにおける多職種連携のあり方についても知りたいところでしょうが、いずれについても事例から数多くの意味深くかつ有用なヒントが得られるはずです。

なお、IPW、つまり多職種連携のあり方については、地域包括ケアを例にこちらで書いています。よかったら読んでみてください。

地域包括ケアシステム構想が打ち出されて5年余り。全国の市区町村で地域にふさわしい独自の取り組みが進むなか、課題も見えてきた。看護職ら医療関係者に関しては、コミュニケーションをとりにくいとの指摘が他職種から出ている。どういうことなのか探ってみた。

人生会議の短編ドラマがあります

なお、ACP、つまり人生会議の一般の方々への啓発・普及には、神奈川県横浜市が市民向けに制作した「人生会議」の短編ドラマを活用してみてはいかがでしょうか。

「高齢期編」と「壮年期編」の2作品があります。是非一度、チェックしてみてください。

国立がん研究センターが発表した調査結果にがっかりした方は少なくないだろう。終末期の療養場所や蘇生処置について患者と医師との話し合い、いわゆる人生会議がもたれた割合のあまりの低さにだ。折しも横浜市は、人生会議啓発のための短編ドラマを制作している。その紹介を。

引用・参考資料*¹:日本老年医学会「ACP事例集」