ACPとシェアード・ディシジョン・メイキング




共有

「共有意思決定」と訳される
シェアード・ディシジョン・メイキング

アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)では、シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making:SDM)に基づいた対話を重ね、患者の意思に沿って進めていくことが重要である、といったことがよく言われます。

シェアード・ディシジョン・メイキングをそのまま訳せば、ディシジョン・メイキング(意思決定)をシェア(共有)するという意味になります。

ビジネスの世界でも使われる言葉で、日本語では、「共有意思決定」あるいは「協働意思決定」の訳語で紹介されていることが多いようです。

インフォームド・コンセントから一歩前進?

意思決定ということで言えば、日本の医療現場では、患者が受ける検査や治療については「すべて先生にお任せしますのでよろしくお願いします」「ではお任せください」といったことが無条件にまかり通る時代が長く続いてきました。

やがてインフォームド・コンセント(informed consent)、日本語で「説明と同意」ということが言われはじめ、医療者サイドが患者に病状や治療方針を説明し、患者の「納得したうえでの同意」を得たうえで治療を行うということが行われるようになってきました。

シェアード・ディシジョンメイキングは、このインフォームド・コンセントをさらに一歩進めた患者と医療者間のコミュニケーションスタイルとして、とりわけ最近は、ACPとのからみで関心が高まっているようです。

そこで今日は、このACPの取り組みに欠かせないとされるシェアード・ディシジョン・メイキングについて、なぜACPにシェアード・ディシジョン・メイキングが求められるのか、といった点を中心に書いてみたいと思います。

エビデンスも治療目標も共有する
シェアード・ディシジョン・メイキング

医療現場を取材するなかでシェアード・ディシジョン・メイキングという言葉を見聞きするようになったのは、3年ほど前からでしょうか。

最初にこの言葉を聞いたとき、まず疑問に思ったのは、
「患者と医療者が何をシェアして意思決定しようというのだろうか」
ということでした。

この点については、ACPに関する取材のなかで、この言葉を口にされた何人かの医師や看護師さんに尋ねてみたり、種々文献を読んだりもしてみました。

患者の価値観や医療・ケアへの希望もシェア

そのうえで私は、治療法に関するエビデンス(科学的な根拠)はもちろんのこと、治療方針、患者の価値観や希望など、患者と医療者双方が持ち合わせているこの先の治療やケアに影響を与えるであろうあらゆる情報をシェアすることだと結論づけました。

同時に、あらゆる情報をもとに設定する治療やケアの目標についても、患者と医療者が繰り返し話し合ってシェアし、一緒に考えて合意し、意思決定することをシェアード・ディシジョン・メイキングと呼んでいるわけです。

さらに、取材で答えてくれた方のなかには、
「シェアード・ディシジョン・メイキングに基づいて選択した治療やケアについては、その結果責任についても、患者と我々医療者とが共有することになる」
と話してくれた医師もいました。

事前指示書とACPを分ける
シェアード・ディシジョン・メイキング

一方でACPについては一般に、人生の最終段階、つまり終末期における医療やケアに限った話のように扱われすぎるきらいがあります。

しかしそもそもACPは、終末期だけでなく、この先提供される医療やケアが患者本人の意思にできるだけ沿ったかたちで行われるように、医療者が患者との対話を重ね、思いや希望を伝えてもらうという取り組みです。

この場合、患者側からすれば、自分が受けたい医療やケア、受けたくない医療やケアについて自身の思いや希望を伝えるだけなら、事前指示書やリビングウイルにその要望を書き記しておけばいいと考える人が少なくないようです。

真に患者の意思に沿った医療・ケアを実現するために

しかし、医療者サイドとしては、患者の病状との兼ね合いでみたときに、患者が希望している治療やケアにはリスクがありすぎて、責任をもって希望どおりの治療やケアを行うことができない、といった判断をせざるをえないこともあるでしょう。

あるいはその逆もありうるでしょう。
つまり時として、患者の今の病状なら、患者が望んでいる生き方の支えになるようなこんな治療やケアの方法があるのに、といったことも間々あるはずです。

そこで、真に患者の意思に沿った医療・ケアを実現するためには、一方通行になりがちなインフォームド・コンセントではなく、シェアード・ディシジョン・メイキングに基づく患者と医療者の対話の積み重ねが必要になってくる、ということだろうと思います。

患者との協働作業に活用したい
新しいコミュニケーションスキル

少々ややこしい話になってしまいましたが、大筋はご理解いただけたでしょうか。

さらに詳しく知りたいという方には、すでに2000年代の初めからシェアード・ディシジョン・メイキングの普及に取り組んでおられる中山健夫教授(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野)が書かれた『これから始める! シェアード・ディシジョンメイキング 新しい医療のコミュニケーション』(日本医事新報社)をおすすめします。

本書の序文で中山教授は、シェアード・ディシジョン・メイキングのめざすところについて、
「異なる立場にいる医療者と患者が、共有する問題に向き合い、お互いの立場・考え・価値観を少しずつ調整しながら、協力して調和できる解決策を探っていくことです」
と書いておられます。

ACPだけでなく、さまざまなケア場面における患者との協働作業を考えるうえで、ヒント満載ですから、是非読んでみてください。