看護職のセカンドキャリアにこんな選択は?

母親と幼子

定年前の元気なうちから
セカンドキャリアの準備を

いつもの看護職の友人たちとの食事会*で、回復期リハビリテーション病棟の看護師長を務めて5年になるY看護師が、唐突にこう話し始めました。「そろそろセカンドキャリアについて考える歳になってきたんだけど……」

Y看護師はまだ50歳になったばかりですが、「最近目の調節力が落ちて、医師から渡される指示書や簡単な書類の数々が読みにくくなってきた」と、笑いながら話すのです。

少しの間の後に真剣な表情で、「管理職としての仕事にストレスを感じることが多くなって少し疲れがたまってきたのかしら。もっと楽な気持ちで自分の看護スキルを直接活かすことができたらいいなあと、最近つくづく考えるようになった」と言います。

なお、友人たちとの食事会で話題になったことについては、こちらでも書いています。よかったら読んでみてください。

生活の再構築に向けたリハビリテーションは、脳卒中はもとよりがんでも、また心疾患や肺疾患などあらゆる領域で欠かせない。そこにはさまざまな職種がかかわるのだが、リハビリテーション看護の専門性はどこにあるのか、という話を書いてみました。

定年後の長い人生を考えると

セカンドキャリアとは一般に、定年退職した後に従事する仕事のことを意味します。人生100年と言われる昨今にあっては、65歳定年として、健康でさえあれば定年後の人生がさらに30年余り続くことになります。

そこで、第二の人生を充実したものにするために、体力的にも気力の面でもパワーの残っているうちにセカンドキャリアの準備に取り掛かろうと考える人が増えていると聞きます。Y看護師もその一人のようです。

彼女の発言を受け、ある看護職の方のセカンドキャリアのことで話が盛り上がりましたので、今回はその話を紹介してみたいと思います。

民泊施設を開設して
女性の一生に寄り添う支援を

ある方とは、親が育てられない赤ちゃんを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」、通称「赤ちゃんポスト」を設置したことで全国的に注目を集めた慈恵病院(熊本市)で、開設当時、看護部長として奮闘されていた田尻由貴子さん(69歳)です。

日本で初めての取り組みということもあり、開設当初はメディアが幾度となく取り上げ、田尻さんをモデルにしたテレビドラマも放映されましたから、「ああ、あの方ね」と思い出された方も少なくないと思います。

新聞報道*によれば、田尻さんは、2007年のゆりかご設置から8年間、24時間の相談業務に当たられた後、2015年に定年退職。その後は、助産師や保健師の資格を生かして、カウンセリングや講演を通じて母子支援活動を続けておられるそうです。

出産間もない母子のために沐浴用湯船も準備

その母子支援の一環として、今年(2019年)4月からは、自宅の1階を改装して女性を対象にした民泊施設「由来ハウス」を開設。そこにはカウンセリングスペースや乳児の沐浴用に湯船も備え、母子が心身ともにゆったりと過ごせる「安心処(どころ)」とすることを目指しているとのこと。

取材に応えて田尻さんは、「妊娠や出産、子育てなどでひとり悩む女性だけでなく、介護に疲れて休息を必要としている人も含め、女性の一生に寄り添う施設を考えた」
と語っておられます(*熊本日日新聞2019年10月11日)。

定年退職後も
病院や施設の看護スタッフ?

田尻さんのこのセカンドキャリアについては、他のいくつかのメディアも取り上げ、「悩める母子のための現代版駆け込み寺」として、期待を寄せる声が絶えないと聞きます。

「看護の仕事に定年はない」と言われる一方で、多少にかかわらず日常生活に支援が必要な高齢者が増え続け、看護職や介護職の人手不足が深刻の度合いを深めるなか、「看護スキルを埋もれさせないで」との声も数多く聞かれます。

そんな声に応えようと、定年後はパートとして病院看護師のキャリアを続けるとか、介護関連施設などに場所を変えて、あるいは訪問看護師として「病院で経験してきたことを活かしたい」と考える方が多いと伺っています。

ただ、そんな考えに水を差すつもりは毛頭ありませんが、「自分よりずっと若い看護師からあれこれ指示されて働くのは気持ち的にちょっとつらい」とか、「経験があるだけに、若い看護師についアドバイスしてしまい、煙たがられることがある」、あるいは「定年後に現場で働くのは肉体的につらい」といった先輩たちの声も聞こえてくるそうです。

セカンドキャリアは
フリーな立場で動いてみたい

そんな声があることを知ってか、その日の食事会では、「田尻さんのようにフリーランスの立場で自分のやりたいことができたら最高よね」という方向に話が集中しました。

■街で暮らすがんサバイバーに情報提供を
たとえば看護大学で教鞭を執っているNさんは、自分の専門であるがん看護の知識を、がんサロンのような場で活かせないかと考えているとのこと。

それも、病院などのスタッフとしてではなく、「地域で暮らしているがんサバイバーに身近なところ、たとえば街の薬局のようなところで相談コーナーをもてたらいいなあ」と――。

■「8050問題」を抱える家族にアプローチを
これを聞いた訪問看護師のキャリアが長いKさんは、「私も、それは考えてる。田尻さんのように自分で相談室のような拠点を作るのが理想だけど、資金面の課題があるから、薬局と交渉するのはいいかもしれない」と言います。

ちなみにKさんは、訪問看護をするなかで最近気になっている「8050(はちまるごーまる)問題」、つまり引きこもりを続ける50代の息子や娘の生活を80代の親が支えているような家族に何かしらのアプローチができたら、と考えているそうです。

■クラウドファンディングで資金調達する手も
「最近は起業資金をクラウドファンディング*で集めたという話をよく聞くけど、やってみる価値はあると思うよ」などと、少々無責任な発言しかできなかった私ですが、みなさんの素晴らしい夢に明るい気持ちになってきました。

地域活性化が求められている今だからこそ、彼女たちが取り組もうとしている課題は、アピール次第で実現可能な気がするのですが、いかがお考えでしょうか。

*クラウドファンディング(crowdfunding)とは、crowd(群衆)とfunding(資金調達)を組み合わせた造語。自分が取り組みたいプランをインターネットなどを通じて発信し、賛同者や応援しようという人から資金を募る仕組みのこと。資金調達法には、日本政策金融公庫の新創業融資制度を利用する手もある(コチラ)。

メッセンジャーナースとして活動する

また、数はまだ少ないものの、地域での活動が注目されているメッセンジャーナースのなかには、セカンドキャリアの方が少なくないと聞きます。このメッセンジャーナースについてはこちらを。

「おまかせ医療」の時代は終わり、今や患者の意思を最優先する医療の時代である。自らが望む医療を受けるには自己決定が求められるのだが、その自己決定を医療者との架け橋となって支援することを活動の柱とするメッセンジャーナースについて紹介する。