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訪問看護師の名刺に記された
「メッセンジャーナース」
先日、義理のお父様の在宅介護を続ける友人をご自宅に訪ねたときのことです。たまたま担当の訪問看護師さんの訪問時間と重なり、初対面だったこともあって軽く挨拶を交わし、名刺を頂戴しました。
その名刺には、お名前の横に「〇〇訪問看護ステーション 訪問看護師」と並び「メッセンジャーナース」とあり、一瞬、「えっ」と思いました。が、とっさに10年ほど前、メッセンジャーナースの誕生を紹介する記事を読んだことを思い出しました。
確か地域看護系月刊誌の、「患者の意思決定を支援する」をテーマにした特集記事の一つでした。ただそのときは、「メッセンジャーナース」を格別意識することなく読み過ごしたように記憶しています。
この度、実際にメッセンジャーナースを名乗る方に初めて出会えたのを好機と思い、その専門性や認定資格について調べてみましたので、紹介させていただきます。
メッセンジャーナースが
患者と医療者の対話の懸け橋に
メッセンジャーナースとは、2010年に誕生した民間の認定資格です。認定者は2025年7月現在で36都道府県に228名と、数としては多くありません。しかしそれぞれが所属する地域や職場にしっかり根を張り、対話を軸にした活動を精力的に展開されていて、時に地元の新聞などでその活動が大きく取り上げられたりもしています。
また、2022年12月2日の河北新報ONLINEでは、仙台市郊外に「ナーシングサロン」を開設し、医療者と患者側に起こりがちな認識のずれを対話により埋めることで「自分の生き方を自分で決めるお手伝い」をされている鳴海幸(みゆき)さんのメッセンジャーナースとしての活動が紹介されています*²。
「メッセンジャー」と聞くと、コミュニケーションアプリの「Messenger」のことがとっさに頭に浮かびますが……。この資格の認定協会である「一般社団法人よりどころ」は、メッセンジャーナースの「メッセンジャー」には、おおむね次のような意味が込められていると説明しています*³。
- 医療の受け手である患者の使者となることにより、医療的なことで不安に感じたり葛藤している患者に希望をもたらす
- 細胞内のDNAの遺伝情報をたんぱく質合成の場へと伝えて生命体の存続を可能にしている「メッセンジャーRNA」にあやかり、医療者と患者の懸け橋となる
少し漠然としていますが、自ら望む医療や福祉を納得して受けられるように、医師、場合によっては他の医療職や福祉職と患者側との対話の懸け橋となって看護にあたることをモットーに活動するナースを指すのだろうと、私なりに解釈したのですがいかがでしょうか。より詳しくは、こちらの紹介ビデオをご覧ください。
医療やケアに関する
患者の自己決定を手助けする
私たちの国の医療現場では、患者が受ける検査や治療法については、すべて医師が決め、患者は「すべて先生にお任せしますのでそれでお願いします」と従順に従う、いわゆる「おまかせ医療」の時代が長く続きました。
しかしそんな時代はすでに終わっています。いまやインフォームドコンセント(十分な説明と納得したうえでの同意)、さらには一歩進んで「人生会議」の愛称で一般にも広く知られるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の時代です。
そこでは患者本人の意思(思い)が最優先されますから、患者には、自分としてはどのような医療やケアを受けたいのか、逆に受けたくない医療やケアについても明らかにし、そのことを意思表示することが求められるわけです。
しかし、こと医療やケアに関しては素人である患者が、いかに丁寧な説明を受けても、自分で検査や治療法を選択し、決定することはそう簡単にできることではありません。
そこでメッセンジャーナースが患者の心情を聞き出し、それを医師らに的確に伝えるという、いわば通訳のような役割を果たしながら、患者が納得して自己決定できるように支援することで、患者が受けたい医療を受け、納得して生きられるように手助けしようというわけです。医療やケアに関する意思決定のプロの支援者、とでも言えるでしょうか。
メッセンジャーナースとして
認定を受け、活動するには
メッセンジャーナースの認定を受けるには、看護師として10年以上の経験をもつことがまずは必要です。そのうえで、患者の立場に立った医療の在り方などを話し合う2日間(約70時間)の研鑽セミナーを受講する(オンラインでも受けられる)ことが求められます。
すでにメッセンジャーナースとして活動している方の推薦があれば、かなり厳しい審査を通る必要はあるものの、セミナーを受けずに認定される場合もあるようです。
現在228名のメッセンジャーナースの方々は、それぞれ担当する地域や職場に見合うかたちで独自の活動をされているようです。
私が出合った方のように、訪問看護ステーションで訪問看護師として仲間と活動しながら、その活動の中で患者と医療者の間に生じがちな認識のズレやギャップを埋めることに休日も使って奔走している方も少なくありません。
あるいは、先に紹介した鳴海氏のように自ら開業されたり、市民講座を、または一般の看護師ら医療スタッフ対象のセミナーや語る会を開いて患者サイドの心情を伝えることに取り組んでいる方もおられます。
かかりつけ看護師として、またオンラインで遠隔みまもり看護に取り組んでいる方もいれば、急性期病院の患者相談室などで卓越した対話力を発揮されているメッセンジャーナースもこのところ増えています。
研鑽セミナーの内容、および令和7(2025)年度のセミナー開催日時等、詳しいことを知りたい方は、メッセンジャーナースへの近道、研鑽セミナーのお知らせ 」をご覧ください。
現在、「信頼を育てるコミュニケーション&カウンセリングマインド」をテーマとする「看護ネット・ラーニング講座」の受講者(メッセンジャーナースの認定を受ける受けないにかかわらず、コミュニケーションに課題を抱えている方は受講可能)を募集中です。
また、すでにメッセンジャーナースとして活動している方々のセミナー受講の体験談や活動報告を知ることのできるこちらの本も併せて読んでみてください。
さらに、その活動をより具体的に知りたい方は、看護の科学新社から刊行されている雑誌『オン・ナーシング Vol.1 No.1』(Kindle版と単行本があります)の連載(最新号まで続いています)「メッセンジャーナースからのメッセージ」もご覧ください。
参考資料*¹:中日新聞Web2023年8月6日「自宅で最期を」男性の願いを実現「メッセンジャーナース」が果たす役目