地域で活動する「メッセンジャーナース」とは

対話

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訪問看護師の名刺に記された
「メッセンジャーナース」

先日、義理のお父様の在宅介護を続けて2年になる友人をご自宅に訪ねたときのことです。たまたま担当の訪問看護師さんの訪問時間と重なり、初対面だったこともあって軽く挨拶を交わし、名刺を頂戴しました。

その名刺には、お名前の横に「〇〇訪問看護ステーション 訪問看護師」と並び「メッセンジャーナース」とありました。一瞬、「えっ」と思いました。が、とっさに10年ほど前、メッセンジャーナースが誕生したことを紹介する記事を読んだことを思い出しました。

確か地域看護系月刊誌の、「患者の意思決定を支援する」をテーマにした特集記事のなかの一つでした。ただそのときは、メッセンジャーナースを格別意識することなく読み過ごしたように記憶しています。

この度、実際にメッセンジャーナースとして活動している方に初めて出会えたのを好機と思い、その専門性や認定資格について調べてみましたので、紹介させていただきます。

メッセンジャーナースが
患者と医療者の対話の懸け橋に

メッセンジャーナースとは、2010年に誕生した民間の認定資格です。認定者は2023年12月の時点で34都道府県に205名と、まだ数としては多くありません。しかしそれぞれが所属する地域に根を張り、対話を重視した活動を精力的に展開されていて、時に地元の新聞でその活動が大きく取り上げられたりもしています。

直近では、岐阜県瑞浪市稲津町の看護師、梅村奈美子さんのメッセンジャーナースとしての対話を柱にした活動が、2023年8月6日の中日新聞Webで紹介されています
また、2022年12月2日の河北新報ONLINEでは、仙台市郊外に「ナーシングサロン」を開設し、医療者と患者側との認識のずれを対話により埋めることで「自分の生き方を自分で決めるお手伝い」をされている鳴海幸(みゆき)さんのメッセンジャーナースとしての活動が紹介されています

「メッセンジャー」と聞くと、コミュニケーションアプリの「Messenger」のことがとっさに頭に浮かびますが……。この資格の認定協会である「一般社団法人よりどころ」は、メッセンジャーナースの「メッセンジャー」には、おおむね次のような意味が込められていると説明しています

  • 医療の受け手である患者の使者となることにより、医療的なことで不安に感じたり葛藤している患者に希望をもたらす
  • 細胞内のDNAの遺伝情報をたんぱく質合成の場へと伝えて生命体の存続を可能にしている「メッセンジャーRNA」にあやかり、医療者と患者の懸け橋となる

少し漠然としていますが、自ら望む医療を納得して受けられるように、医師、場合によっては他の医療職や福祉職と患者側との対話の懸け橋となって看護にあたることをモットーに活動するナースを指すのだろうと、私なりに解釈したのですがいかがでしょうか。

医療やケアに関する
患者の自己決定を手助けする

私たちの国の医療現場では、患者が受ける検査や治療法については、すべて医師が決め、患者は「すべて先生にお任せしますのでそれでお願いします」と従順に従う、いわゆる「おまかせ医療」の時代が長く続きました。

しかしそんな時代はすでに終わっています。今やインフォームドコンセント(十分な説明と納得したうえでの同意)、さらには一歩進んで「人生会議」の愛称で一般にも広く知られるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の時代です。

そこでは患者本人の意思(思い)が最優先されますから、患者には、自分としてはどのような医療やケアを受けたいのか、逆に受けたくない医療やケアについても明らかにし、そのことを意思表示することが求められるわけです。

しかし、こと医療やケアに関しては素人である患者が、いかに丁寧な説明を受けても、自分で検査や治療法を選択し、決定することはそう簡単にできることではありません。

そこでメッセンジャーナースが患者の心情を聞き出し、それを医師らに的確に伝えるという、いわば通訳のような役割を果たしながら、患者が納得して自己決定できるように支援することで、患者が受けたい医療を受けられるように手助けしようというわけです。医療やケアに関する意思決定のプロの支援者、とでも言えるでしょうか。

患者の意思にできるだけ沿った医療を実現し患者の尊厳を守りたいと、「意思決定支援」の取り組みが進んでいる。「人生会議」はその代表だが、「医師にすべておまかせしたい」と話す患者にも、自己決定を促し意思決定支援を行うべきか。難題だか考えておきたい課題では……。

メッセンジャーナースとして
認定を受け、活動するには

メッセンジャーナースの認定を受けるには、看護師として10年以上の経験をもつことがまずは必要です。そのうえで、患者の立場に立った医療の在り方などを話し合う2日間(約70時間)の研修を受講する(リモートでも受けられる)ことが求められます。

すでにメッセンジャーナースとして活動している方の推薦があれば、かなり厳しい審査を通る必要はあるものの、研修を受けずに認定される場合もあるようです。

現在205名のメッセンジャーナースの皆さんは、それそれ担当する地域に見合うかたちで独自の活動をされているようです。

私が出合った方のように、訪問看護ステーションで訪問看護師として仲間と活動しながら、その活動の中で患者と医療者の間に生じがちなギャップを埋めることに休日も使って奔走している方も少なくありません。

あるいは、先に紹介した鳴海氏のように自ら開業されたり、医療スタッフを対象にセミナーを開いて患者サイドの心情を伝えることに取り組んでいる方もおられます。

詳しくは、一般の方向けにメッセンジャーナースを紹介するために用意されている認定協会作成のパンフレット*⁴をご覧ください。さらに詳しく知りたい方は、こちらの本を読んでみてください。

参考資料*¹:中日新聞Web2023年8月6日「自宅で最期を」男性の願いを実現「メッセンジャーナース」が果たす役目

参考資料*²:河北新報ONLINE2022年12月2日「ナーシングサロン」知ってますか

参考資料*³:「一般社団法人よりどころ(メッセンジャーナース認定協会)」公式ホームページ

参考資料*⁴:メッセンジャーナース認定協会「メッセンジャーナースを知っていますか」