本ページにはプロモーションが含まれています
ヤングケアラーの存在に
気づいて声を掛けていますか
2023年1月に行われた大学入試共通テストで、「ヤングケアラー」に関する出題があったと知り、ちょっと驚きました。新聞で実際の問題を確認したところ、「現代社会」の子どもの貧困に関する問題の選択肢として、「ヤングケアラー」を説明する一文が出ています。
ヤングケアラーの認知度については、朝日生命保険が2022年9~10月に行ったインターネット調査(男女2,630人が回答)によれば、回答者の半数以上(56.9%)がヤングケアラーの「意味がわかっている」と答えたそうです。
ところが回答者を年代別に見ると、20代の3人に1人弱(31.8%)が、ヤングケアラーという言葉を「聞いたことがない」と回答しており、若者世代には認知が進んでいないことが確認されているのです*¹。
果たして受験生たちは、どんな答えを出したのでしょうか。そして、やはり気になるのは看護職の皆さんの認知状況、そしてサポートの現状です。大人に代わって日常的に病身の親や幼い兄弟の世話をしている「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちの存在を、看護職のあなたはどれだけ認識し声掛けをされているでしょうか。
ヤングケアラーとは
どのような子どもたちか
「ヤングケアラー」については、あらゆる世代のケアラー(無償で家族や知人、友人などをケアしている人)の支援団体である「日本ケアラー連盟」は次のように定義しています。
ヤングケアラーとは、「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものこと」をいう。
(引用元:日本ケアラー連盟「ヤングケアラーとは」*²)
続いて、「ヤングケアラーはこんな子どもたちです」として、次の10例をあげています。
- 障害や病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
- 家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
- 障害や病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている
- 目を離せない家族の見守りや声掛けなどの気づかいをしている
- 日本語が第一言語でない家族や障害のある家族のために通訳をしている
- 家計を支えるために労働をして、障害や病気のある家族を助けている
- アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
- がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
- 障害や病気のある家族の世話をしている
- 障害や病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
(引用元:日本ケアラー連盟「ヤングケアラーとは」*²)
小学6年生の6.5%が
ヤングケアラーという実態
ヤングケアラーの実態については、厚生労働省研究班が子ども本人を対象に行った全国調査(2021年実施)において、小学6年生の6.5%、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%が、「日常的に世話をしている家族がいる」と回答していると報告しています*³。
このような子どもたちは、総じて家族の世話が重荷となっていて、遅刻や早退が多く、学業や生活のみならず健康にも少なからず影響が及んでいることが指摘されています。
事態を重く見た政府は、2022(令和4)年度から3年間を集中取り組み期間と位置づけ、ヤングケアラーに周囲が気づいて理解を深め、声掛けを促すなど、社会的認知度を上げる活動に力を入れています(こちら*⁴)。なお、ヤングケアラーに関する政策の担当は、2023年4月1日に厚生労働省からこども家庭庁に移管しています。
ヤングケアラーに
看護が担えること
ヤングケアラーに注目が集まり、徐々に支援の動きが進むなか、大きな役割を期待されるのが看護職の皆さんです。大人に代わり家族を日常的にケアする状況が続いている子どもに看護が担える役割については、福岡県立大学看護学部の吉田恭子准教授が、「子どもが家のお手伝い以上のケアを担っている可能性があるという認識を持ち、その視点で観察すること」と指摘しています*⁵。
加えて、在宅分野を担う看護職の皆さんには、「被介護者とその家族との関係構築にとどまらず、アウトリーチ(積極的に対象者の居る場所に出向いて働きかける)機能を活かして、社会資源(民生委員・児童委員など*)や近隣住民とも顔なじみの関係を築いて、連携を図る」ことを提案しています。
地域におけるこの連携に関しては、東京都の保健福祉局が、関係機関が連携して支援につなげるための「ヤングケアラー支援マニュアル」を作成してホームページで公開し、関係機関に活用を促しています*⁶。
また、佐賀市が作成し、ホームページで公開している「ヤングケアラー支援マニュアル」では、「ヤングケアラーに気づくためのポイント」を学校や地域、医療機関などの支援機関別のチェックリストとして示しています*⁷。
いずれにしても、ヤングケアラーのなかには、ケアすることが常態化していて負担を自覚していない子も少なくないことから、まずは周囲にいる大人が理解を深めて声掛け*をしていくことから始める必要があるのではないでしょうか。
なお、2022(令和4)年度の診療報酬改定では、ヤングケアラーおよびそのケアを受けている家族が「退院困難な患者」として、入退院支援加算の対象に追加されています。
*また、上記の民生委員・児童委員については、こちらをご覧ください。
ヤングケアラーの発見と実態把握に活用したい一冊
日常の看護場面では、看護の対象となっている患者や利用者の背景にいる子どもたちの暮らしまではなかなか見えにくく、ヤングケアラーを発見し、その実態を把握して、実態に即した声掛けをするのは簡単なことではありません。
その実践のためのヒント満載の一冊として、毎日新聞の連載報道を再構成してまとめた『ヤングケアラー 介護する子どもたち』(毎日新聞出版)がお役に立てるのではないでしょうか。
また、支援の実際については、2024年4月に刊行されたばかりの『ヤングケアラーの理解と支援 見つける・理解する・知ってもらう』(学事出版)に、多くの実践事例が紹介されており、地域における支援の輪の構築に活用できるのではないでしょうか。
参考資料*¹:朝日生命インターネット調査「自分の老後・介護についての意識調査」
引用・参考資料*²:日本ケアラー連盟「ヤングケアラーとは」
参考資料*³:厚生労働省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究
参考資料*⁴:政府広報オンライン「ヤングケアラーを知っていますか」
参考資料*⁵:吉田恭子「日本のヤングケアラーに関する研究の文献検討――看護分野の課題と役割」福岡県立大学看護学研究紀要、19、89-97、2022
参考資料*⁶:東京都「ヤングケアラー支援マニュアル」
参考資料*⁷:佐賀市「ヤングケアラー支援マニュアル」(p.17-18)