退院支援は入院後早い時期から
とは言うけれど……
先日のことです。他県に暮らす友人から興奮した声でこんな電話が入りました。
義理の母が高熱を出してかかりつけ医に診てもらったところ、急性肺炎の診断を受けた。
義母は82歳という高齢のうえ一人暮らしでもあるからと、即日入院となった旨の知らせを、深夜に近い時間に受けた。
翌日早朝、急遽上京して病室に義母を見舞ったところ、そこに現れた担当だという看護師さんから、こう言われた――。
「主治医は、この状態なら1週間もすれば症状も治まり退院できると話しています。でも、このままの状態でお一人の自宅に帰えられるのは難しいと思います。お母様の退院先について、何かお考えはありますか」……、と。
年齢からして、そろそろこんな日が来るだろうと予測はしていた。それが思わぬかたちで現実となり、入院という事態に至ったことでいっとき頭が混乱していた。
そこへいきなり退院の話を持ち出されて、どうしていいかわからない。
自分はこれまで病院とは無縁の生活をしてきたので状況がよくわからないが、今は、どこの病院もこんななのか、どうしたらいいものか……。
「入退院支援加算」が
診療報酬に新設されたが
病棟看護師のあなたも、患者や家族からこのような相談を持ちかけられることは珍しくないだろうと思います。
そんなとき、特にあなたが看護管理者なら、とっさに、こんなエクスキューズ(言い訳)を考えるのではないでしょうか。
「診療報酬で入院後の早い時期に退院のことを伝えるように決められているから、こちらとしては言わざるを得ないのだ……」と。
確かに、2016年度診療報酬改定において、入院料への加算として「退院支援加算」が新設されています。
その後に行われた2018年度の改定では、入院予定患者に対する入院前からの支援の必要性も重視されて「入退院支援加算」と名称が変わっています。
「入退院支援加算1」の算定条件
そのうえで、例えば「入退院支援加算1」では、一般病棟の場合、退院時1回につき700点の加算が算定されます(2022年4月時点)。
ただしこれには、以下のような条件が加えられています。
- 入院から3日以内に病棟専任の退院支援職員が退院困難な患者を抽出する
- 7日以内に病棟看護師や退院調整部門の看護師、社会福祉士らによるカンファレンスで退院調整を行う
- 7日以内に患者や家族との話し合いを実施する
この、新たに明記された「3日以内」とか「7日以内」といった数字があるからこそ、担当看護師さんから「入院翌日に退院の話」があり、それを言われた友人が混乱して、私に電話をしてきたということのようです。
入退院支援加算の「退院困難な患者」の要件とは
なお、ここで条件「1」の「退院困難な患者」の要件としては以下が挙げられています。
なお、2022(令和4)年度 診療報酬改定では、ヤングケアラー(本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども)及びその家族(以下、「12」と「13」)が追加されています。
- 悪性腫瘍、認知症または誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症のいずれかであること
- 緊急入院であること
- 要介護状態であるとの疑いがあるが、要介護認定が未申請であること
- 家族または同居者から虐待を受けている、またはその疑いがあること
- 生活困窮者であること
- 入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要であること
- 排泄に介助を要すること
- 同居者の有無にかかわらず、必要な養育または介護を十分に提供できる状態にないこと
- 退院後に医療措置(胃瘻等の経管栄養法を含む)が必要なこと
- 入退院を繰り返していること
- 入院治療を行っても長期的な低栄養状態となることが見込まれること
- 家族に対する介助や介護等を日常的に行っている児童等であること
- 児童等の家族から介助や介護等を日常的に受けていること
- その他患者の状況から判断し、上記に準ずると認められる場合
なお、上記「12」のヤングケアラーの定義、および看護に期待される役割等についてはこちらをチェックしてみてください。
退院支援の最初に
病院の機能分化の説明を
話を戻します。いきなりの退院の話に絶句する友人に担当の看護師さんは、入院生活によるADLの低下防止や院内感染を受けるリスクを避けるためにも早期に退院したほうががいい、といった趣旨の話をしたようです。
担当看護師さんからのその説明に、友人は、「そういうことは、ここの病院ではやってもらえないことなの?」といった疑問を感じたといいます。
「病院から追い出される」とならないために
友人がそうであったように、「病院の機能」はどこの病院も大差ないのではないかと思っている患者や家族は、依然として多いようです。
とりわけ高齢者にはその傾向が強く、患者や家族によっては、「病院から追い出される」と受け止めることも少なくないようです。
しかし、私たちが暮らすこの国では、ますます進む高齢化に対応して質の良い医療を提供していくためにも、医療の機能分化をすすめざるを得ないわけで、だからこそ、退院支援の重要性が見直されるようになったのでしょう。
そこで私は、電話先の友人に、「病院はそれぞれにある程度の役割分担がなされているのだから」と話したうえで、こんな説明をしました。
「お義母さんが入院しているのは急性期病院だから、重篤な状態から救うための治療はしてくれるけれど、その治療により状態が落ち着いたら、次の重篤な患者さんにベッドを譲らなくてはいけない。だから入院直後の今、心づもりの意味もあって退院の話が出ているのよ」
退院支援担当看護師らに
託す前の意思決定支援
そのうえで、退院先やその後の生活については、退院支援を専任で担当している看護師さんや医療ソーシャルワーカーと呼ばれるスタッフがいるはずだ、と話しました。
だから、まずは担当の看護師さんに、「病院はどこも同じだと思っていたのでいきなり退院といわれてびっくりしている」ことを正直に打ち明け、重ねて「義母の場合はどんな方法が考えられるのか詳しいことを相談したいのですが……」と伝えてみること。
そうすれば、その退院支援担当の看護師さん、あるいは医療ソーシャルワーカーを紹介してくれるだろうから、その方に具体的なことを相談してみるように話しました。
電話先の友人はこの説明で、少し落ち着きを取り戻してくれました。
病棟看護師さんの場合、退院に関するもろもろのことは、役割分担上、退院支援を担当している看護師や医療ソーシャルワーカーにお任せ、ということになるのでしょう。
ただし、彼らにバトンタッチする前に、患者サイドに「入院後間もないこの時期になぜ退院の話をするのか」といったことをきちんと説明し、納得してもらうという大切な役割が、病棟の看護師さんにはあるのだろうと、改めて思ったものです。
退院に関連して患者サイドに求められる意思決定の、第一段階の部分へのかかわりというきわめて重要な役割が病棟看護師さんに期待されているのだろうと思うわけです。
この段階でのかかわり次第で、患者サイドは退院を肯定的に受け止め、前向きに取り組むことができるかどうかが概ね決まるのではないでしょうか。
その後の退院支援の大まかな流れをつかんでおきたい、何か手引きのようなものはないだろうか、という方はこちらの記事を参考にしてみてください。
退院前、退院後の訪問指導も
また、入退院支援の一環として行う退院前訪問指導に関してはこちらの記事が参考にしていただけると思います。
同様に退院後の訪問に関してはこちらを。