入退院支援は何から手をつけたらいいのか

手引き書を読む

入退院支援の手引き書に
まずは目を通してみる

懇意にしている病棟勤務のK看護師から、先日、「看護部長から、来月から退院支援を担当するように言われた……」と、こんな相談を受けました。

「事前に打診を受けていて心づもりをしてきたものの、いざとなると何から手をつけたらいいのかわからず困っています。退院支援担当看護師として活躍しておられる方にお話をうかがえたらと思うのですが、どなたかご紹介いただけないでしょうか」

適任だろうと思い当たる看護師さんは何人かいます。でも、皆さんそれぞれ簡単に職場を離れられる状況にはないし、かといって電話やメールだけで済むような話でもない……。

アレコレ考えあぐね、結局は、退院支援を担当してすでに5年目に入り、会うたびに退院支援の苦労話や感動した出来事などを話してくれるW看護師に電話で相談してみました。

すると彼女の返事は、「まずは退院支援の手引書に目を通して退院支援の流れをひと通り把握し、疑問に思うことをピックアップしてみたらどうかしら。そのうえでだったら、電話で話をしてもいいわよ」と、とても快いものでした。

入退院支援の手引書から
支援の大まかな流れを知る

ではどんな手引き書がいいのか、という話になりました。

少し考えてから、W看護師が、「私が退院支援のテキストとして最初に使っていたものはどうかしら」と紹介してくれたのが、『在宅移行の手引き~医療・介護の連携に基づいた退院支援に向けて』という手引き書*でした。

「国診協」の通称で知られる全国国民健康保険診療施設協議会が、厚生労働省の老人保健健康増進事業補助事業の助成を受け、医療機関から在宅、あるいは施設への移行を円滑に進めるための退院支援用教材として作成されたものです。

この手引き書の初版は、2012(平成24)年度に作成されています。その後、わが国では地域包括ケアシステムの体制整備や診療報酬、介護報酬の改定が行われていますが、これらを受けて手引き書も、2013年版、2014年版と順次改定作業が行われ、最新版は2018(平成30)年版として『国診協版 入退院支援の手引き』が作成されています。

退院支援の初心者には、このなかでも、以下の3点にポイントをしぼってまとめられている2012年版がいいのではないか、とのこと。

退院支援におけるおおまかな流れと、地域との連携体制の基本となる枠組みを理解するのに格好の手引き書になっているそうです。

  • 入院から退院までの一連の流れをわかりやすく可視化する
  • 特に、介護サービス事業所との連携を効果的に行う
  • 患者・家族の意向を取り入れた退院指導を行う

    (引用元:『在宅移行の手引き~医療・介護の連携に基づいた退院支援に向けて』*¹)

入退院支援の具体的な流れと
支援に必要な各種書式を紹介

K看護師にこの手引書を紹介するにあたり、私もざっと中身に目を通してみました。

この手引き書では、在宅移行の対象者として、介護サービスとの連携が必要になることを前提に、「一般病床に入院している65歳以上の高齢者で、3日以内の退院が想定されている計画的入院ではない患者」を想定しています。

そのうえで、患者の具体的な状態像として、以下の5例を挙げています。

  1. 再入院を繰り返している患者
  2. 褥瘡処置など退院後も高度で熟練的医療が必要な患者
  3. 入院前に比べADLが低下しており、退院後の生活様式の再編が必要な患者
  4. 独居、あるいは家族と同居であっても必要な介護を十分に受けられる状況にない患者
  5. 現行制度を利用しての在宅への移行が困難あるいは制度の対象外の患者

これらの患者像を念頭に、まずは患者の入院直後から48時間を目途に、退院支援の必要性を判断するスクリーニングを行います。

次に、このスクリーニングで退院支援が必要と判断された患者について、スクリーニング終了から1週間以内を目途に、患者が入院した病棟の看護師らの協力を得ながら、患者の病状やADLの状態、家族関係などについて情報を収集、整理し、退院支援の必要性を確定するためのアセスメントを行うことになります。

これらの手順を踏んでいくうえで必要になってくる「スクリーニング票」や「アセスメント票」、さらにこのアセスメント結果に基づいて退院支援計画をプランニングするための「退院支援計画書」の書式も、2012年版の手引き書に収載されています。

なお、退院支援で欠かせない退院後の医療や介護にかかるお金の話については、こちらを参考にしてみてください。
⇒ 退院支援で患者に伝えたい医療費・介護費の話

また、退院支援に知っておきたい障害者総合支援法については、アウトラインをコチラにまとめてあります。是非参考にしてみてください。
⇒ 退院支援に役立てたい障害者総合支援法-1

入退院支援成否のカギとなる
退院時カンファレンス実施方法

ところで、退院支援の対象患者がスムーズに地域に戻っていくには、患者の在宅あるいは施設における療養生活を日々サポートしていくことになる家族はいうまでもなく、地域の医療スタッフや福祉領域のケアワーカーたちとの連携が不可欠です。

退院支援看護師には、退院時カンファレンスや勉強会などを通して、地域の関係職種の人たちとシームレスな関係を構築して行くことが求められます。

これらの点については、2013年版の『在宅移行の手引き2~医療・介護の連携に基づいた多職種連携の事例集』*²に具体的にまとめられています。

特に、地域で活動している関係職種について、それぞれの専門性を過不足なく発揮できるような役割分担を考えていくうえで大変参考になりそうです。

退院時カンファレンスの課題と解決方法も

退院時(前)カンファレンスは、退院後の患者と家族の療養生活を支えていく多職種が一堂に会して情報交換やディスカッションを行い、地域としての介護力を高め、連携を強化していくうえで貴重な機会となります。

最新版の『入退院支援の手引き』*³には、これまでの退院支援を振り返り、明らかになった課題と考えられる解決策が提示されています。

退院時カンファレンスにおいて、これらの課題を起こりうる問題として認識し、提示されている解決策を参考に、自分たちなりの対策を話し合っていくことで、問題発生を事前に防ぎ、より効果的な退院支援へとつなぐことができるようになっています。

なお、退院時カンファレンスは患者サイドの退院後への不安をクリするうえで不可欠なものです。この点については、こちらを読んでみてください。

入院患者が退院後も安心して療養生活を送るためには関係する職種間の密な連携が欠かせない。その要となるのが退院前カンファレンスだが、2018年度の診療報酬改定で充実された「退院時共同指導料」が連携の強化に一役買っていると語る退院支援看護師の話を紹介する。

引用・参考資料*¹:『在宅移行の手引き~医療・介護の連携に基づいた退院支援に向けて』

参考資料*²:『在宅移行の手引き2~医療・介護の連携に基づいた多職種連携の事例集』

参考資料*³:『入退院支援の手引き』