退院支援で患者に伝えたい医療費・介護費の話

費用が心配

退院支援で忘れがちな
退院後の医療費・介護費の話

私たち日本人には、とかくお金の話をタブー視する傾向があるように思います。検査や治療にかかる費用負担がどのくらいになるのか不安に思っていても、そのことを口にするのは恥ずべきことのように思い込んでいる人が少なくないのではないでしょうか。

そんな気持ちを汲み、患者や家族に退院支援を進めるなかで、どうも患者サイドの意思がはっきりしない、何か心配事や不安に感じていることがあるようなのに、それを口に出して伝えてくれないというときは、さりげなくお金のことに話を向けてみてはどうでしょう。

病気治療のために入院生活を送ることになれば、それだけで予想外の出費を強いられます。また、退院して在宅療養に移行するにしても施設に入る選択をしたとしても、医療費や介護費、生活費と、かなりのお金が必要になることを覚悟しなければなりません。

幸いわが国には医療費や介護費を公的に助成・支援するしくみが各種用意されています。病気によっては、身体障害者福祉制度の助成や給付が受けられる場合もあります。

具体的な話はメディカルソーシャルワーカー(MSW)に任せるにしても、そういう制度やシステムがあり、誰でも利用できることを伝えるだけでも、患者サイドの費用負担への不安が軽くなり、退院後の話に集中してもらえるのではないでしょうか。

退院支援担当看護師とMSWとが連携して退院支援を行うケースが多い。お互いの専門性を尊重し合いながらの活動になるのだが、実務上重なる部分も多く、患者側に「このことはどちらに相談したらいいのか」と戸惑わせることが多いと聞く。その解決策は……。

退院後の療養場所として
希望が最も多いのは「自宅」

退院後に関する患者の意向については、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の普及・啓発のあり方に関する検討会」が2018年3月に公表した『人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書』*¹に大変興味深いデータがあります。

この意識調査のなかに、「もしあなたが末期がんで、食事や呼吸が不自由であるが、痛みはなく、意識や判断力は健康な状態」で、医師が「回復の見込みはなく、およそ1年以内に徐々にあるいは急に死に至る」と判断している場合、「どこで過ごしながら医療・療養を受けたいですか」という質問があります。

この問いに、回答した一般国民の47.4%、医師では66.5%、看護師では69.3%、介護職員では61.8%が、「自宅」をあげているのです(上記報告書 p.51)。

さらに、同様の状態にある場合、「どこで最期を迎えることを希望しますか」に対しても「自宅」と回答している人が最も多く、一般国民では75.7%、医師69.4%、看護師70.3%、介護職員69.3%となっています(上記報告書 P.53)。

退院支援で伝えておきたい
医療費負担を軽くする制度

この調査結果から、いよいよ退院となったときは在宅療養に切り替え、残された時間は家族と一緒に自宅で過ごし、そのままゆっくり人生の幕を閉じたいと考えている人が多いことがうかがえるわけですが、そこで気になるのがやはりかかる費用のことです。

在宅療養にかかる費用は、おおまかに医療費と介護費の2つに分けられます。

このうち医療費は、かかりつけ医(在宅医)による定期的な訪問診療の回数や、夜間や深夜あるいは休日の訪問回数、さらには使用する薬剤などによって大きく違ってきます。

また、胃瘻を介しての人工栄養や中心静脈栄養法、在宅酸素療法などの医療処置を受けながら在宅療養を続けていく場合、あるいは重症化した褥瘡などのために訪問看護師による定期的な医療的ケアや管理が必要となれば、これらにかかる費用も医療費に含まれます。

このように考えていくと、かなり高額になりそうですが、幸い私たちの国には国民皆保険制度があります。公的医療保険が適用される医療サービスであれば、そのサービスを受ける場所が医療機関か在宅かに関係なく、かかる費用の一定額(所得状況に応じて1~3割)を自己負担するだけで済むような仕組みになっています。

さらにその自己負担分がかなりの高額になった場合は、「高額療養費制度」を利用することにより、年齢や所得水準などに準じて策定された一定の限度額を超える金額については免除されることになっています。この高額療養費制度について詳しく知りたい方はこちらを参考にしてみてください。

公的医療保険制度には、医療費が家計にかかる負担を軽くして誰もが安心して必要な医療を受けられるように「高額療養費制度」が用意されている。医療費が高くなることを心配する患者にこの制度の活用を勧めるために知っておきたい制度の仕組みと利用上の注意点をまとめた。

退院支援で伝えたい
介護費用の負担を軽くする制度

一方の介護費も、公的介護保険制度を利用することで費用負担が抑えられます。ただし、65歳以上の高齢者であることと、要介護・要支援認定を受けていることが条件です。

この条件をクリアしていれば、訪問介護サービスや介護施設でのデイサービスなどにかかる介護費については、自己負担分を原則1割に抑えることができます(本人の年収が280万円以上あると、その額に応じて2~3割の自己負担となる)。

この年齢制限には例外があります。末期がんや関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、骨折を伴う骨粗鬆症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、初老期の認知症、変形性関節症、糖尿病性神経障害など、介護保険法施行令第2条で「特定疾病」とされている病気*²を診断されている場合は、40歳以上65歳未満の方も介護保険制度を利用することができます。

この介護保険サービスを利用してかかる自己負担額も、かなり高額になることがあるのですが、その際に利用できる制度として、まだ十分普及しているとは言えない「高額介護サービス費制度」があります。

自己負担額の1カ月の合計が一定のラインを超えた場合、申請後、所定の手続きを経て認められれば、超えた分の金額の支払い補助を受けることができるという制度です。

この制度を利用すれば、介護保険サービス利用者の経済的負担はかなり軽減されます(高額介護サービス費制度について関心のある方は『高い介護費には高額介護サービス費の申請を』を参考にしてみてください)。

退院支援では制度の紹介と
申請が必要であることを伝えたい

ここに紹介した2つの制度を利用してもなお、自己負担額が家計上想像以上の重荷になることがあります。このような場合に備え、「高額医療・高額介護合算療養費制度」が用意されています。

世帯単位で、1年間に支払った医療費と介護費の自己負担額の合計が、「1年間に〇〇円まで」と、所得状況などから決められた自己負担上限額を超えた場合に、その超えた分の金額を払い戻してくれるという制度です。

この制度について関心のある方は『医療費も介護費も高額なときに助かる制度』を参考にしてください。

退院支援を行っていくうえで、患者サイドが抱えている経済的問題にからむ不安を少しでも軽減するために、最低限伝えていただきたい3つの制度を紹介しました。

いずれの制度も自己申請することが条件です。また、申請には2年以内という時効があることも併せて伝えたうえで、MSWやケアマネジャーなどに上手にバトンタッチしていただけたら、患者サイドはお金に関する心配事を1つクリアして、安心して退院後の生活に向けた準備に取り掛かることができるのではないでしょうか。

参考資料*¹:厚生労働省『人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書』

参考資料*²:厚生労働省「特定疾病の範囲