5人に1人以上が
緩和ケアを終末期ケアと誤解
今や医療現場では、緩和ケアはがんの診断時から行われています。ところが、一般には「緩和ケアはがんが進行してから受けるもの」と、緩和ケアを終末期ケアと混同している方が依然として少なからずいるようです。
内閣府が2023年に実施した世論調査では、「あなたは、がんに対する緩和ケアはいつから実施されるべきものと思いますか」を聞いています。これに「がんと診断されたときから」と答えた人は49.7%にとどまり、半数を切っているのです。
一方で、「がんの治療が始まったときから」と答えた人は25.5%で、22.0%、つまり5人に1人以上の割合で「がんが治る見込みがなくなったときから」と考えている、という結果になっています。
ちなみにこの質問では、「がんにおける緩和ケアとは、がんやがんの治療に伴う体と心の痛みをやわらげることです」と説明したうえで回答を求めています。
がんの診断を告げるときから
緩和ケアは始まっている
内閣府によるこの世論調査は、がん対策に関する国民の意識を把握し、施策に反映させることを目的に、定期的に行われているものです。2023年は、7月から8月にかけ、全国18歳以上の3,000人を対象に調査票を郵送し、54.2%にあたる1,626人から回答を得ています。
がん患者に対する緩和ケアは、医師からがんの診断を告げられて大きく動揺しているであろうときからすでに始まっています。
おそらく、その診断を告げる際には、患者が持ち合わせているがんに関する情報や理解力、判断力といった、いわゆるその人の「情報リテラシー(情報を効果的に活用する力)」を探りながら、その人にあった言葉を選ぶなどして精神的な苦痛を極力抑える配慮がされているでしょうから、これも緩和ケアの範疇でしょう。
その後も、がんの状態に関係なく、検査や治療と並行して、あらゆる時期の体のつらさやがんという病気を抱えていることによる悩みに緩和ケアが対応していくことになります。
自分はまだその時期ではないと苦痛を我慢
ところが今回の調査結果からは、緩和ケアを終末期ケアと思い込み、「自分はまだそんな時期ではない」と、がんに伴う苦痛や気持ちの落ち込みを訴えずに我慢している患者が少なくないことがうかがえます。
そんな患者には、早い時期から緩和ケアを受けて心身両面の苦痛をやわらげ、体も心も落ち着いた状態で治療を受けたほうが治療の効果も上がることを、看護師さんから伝えていただけたらと思います。
医療用麻薬への誤解から
痛みを我慢するがん患者
がんの緩和ケア、とりわけがん性疼痛の緩和にモルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどの「医療用麻薬」が果たす役割は大きく、安全かつ有効な国際標準のがん疼痛治療薬として、世界中で使われています。
ところが、緩和ケアの専門医らを取材していると、医療用麻薬を使うことに「麻薬中毒になる」とか「死期を早める」といった誤解から、「その薬だけは使いたくない」と、つらい痛みを我慢しているがん患者が依然として少なくないという話をよく耳にします。今回の調査結果からも、その傾向がうかがえます。
調査では、医療用麻薬を次のように説明したうえで、「あなたは医療用麻薬について、どのように思いますか」と、複数回答で聞いています。
医療用麻薬を正しく知ってもらう
この質問に、67.2%と最も多かったのは「正しく使用すればがんの痛みに効果的だと思う」で、次いで「正しく使用すれば安全だと思う」(43.9%)でした。
ところが、「最後の手段だと思う」が29.0%だったのに続き、「だんだん効かなくなると思う」が27.7%、「いったん使用し始めたらやめられなくなると思う」が16.8%、「麻薬という言葉が含まれていて、怖いと思う」が10.4%と、「麻薬」という言葉から「中毒」とか「習慣性」あるいは「依存性」を連想させていることがうかがえます。
その先には、数としては多くないものの、「寿命を縮めると思う」(6.3%)、「精神的におかしくなると思う」(4.4%)、「がんの治療に悪い影響があると思う」(0.9%)、「使用することは道徳に反することだと思う」(0.2%)と、一般の危険な麻薬と混同して、使用を躊躇する声もあがっています。
これらの受け止めは完全な誤解であり、医師の指示通りに使っていればそのような心配はないことを伝えて納得してもらうのも、がん緩和ケアにおいて看護師さんに期待される重要な役割ではないでしょうか。
なお、がんの緩和ケアについては、こちらも読んでみてください。