「がん治療と仕事」53%が両立困難と回答

がん治療

がん治療を受けながら
働き続けるのは難しい

仮に自分ががんになった場合、治療を受けながら働き続けるのは難しいと感じている人が53.5%に上るとの世論調査の結果を、10月20日(2023年)、内閣府が発表しています。

ご承知のように、政府は、「がんとの共生」をがん対策の柱の一つとしています。がんと共生して社会生活を送っていくにはいくつか条件があります。その基本ともいえる「がん治療と仕事の両立」に課題があることが改めて浮き彫りになっています。

この調査結果を受けて厚生労働省の担当者は、職場における理解の促進や病院と産業医との連携の強化など、「治療と仕事の両立に向けた環境整備を進めたい」としています。

がん患者がまず直面する
「仕事をどうするか」

この調査は、「がん対策に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とする」ことを目的に、今年(2023年)7月から8月にかけ、全国18歳以上の3000人を対象に調査票を郵送し、54.2%にあたる1626人から回答が得られたものです。

そこでは、自分ががんになって「治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働き続けられる環境だと思うか」を聞いています。

これに、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」と回答した人は45.4%だったのに対し、「そう思わない」と「どちらかといえばそう思わない」と回答した人は53.5%と、半数以上を占めていました。

このうち「そう思わない」、「どちらかといえばそう思わない」と答えた人に「治療と仕事の両立」を困難にする最大の理由を尋ねたところ、多い順に以下が挙げられています。

  • 「がんの治療・検査と仕事の両立が体力的に困難」が28.4%
  • 「代わりに仕事をする人がいない、または、いても頼みにくい」が22.3%
  • 「職場が休むことを許してくれるかどうかわからない」が15.7%
  • 「がんの治療・検査と仕事の両立が精神的に困難」が14.7%

がん治療は長期的に継続するケースが多く、それだけにがん患者、とりわけ働く世代のがん患者にとって、がんの診断を受けてすぐに直面する最大の課題が「仕事をどうするか」であることがうかがえるのではないでしょうか。

90.2%の人が
「がんは怖い」と感じている

この調査では冒頭で、「あなたはがんについてどのような印象を持っていますか」と尋ねています。これには90.2%が、「怖い印象を持っている」、「どちらかといえば怖い印象を持っている」と回答していて、「がんを怖いと思う理由」として多く挙げられたのは以下の4項目でした(複数回答)。

  • 「がんで死に至る場合があるから」が81.6%
  • 「がんそのものや治療により、痛みなどの症状が出る場合があるから」が62.6%
  • 「がんの治療や療養には、家族や親しい友人などに負担をかける場合があるから」が58.6%
  • 「がんの治療費が高額になる場合があるから」が57.7%

緩和ケアの開始は「がんを診断されたときから」

また、別の質問では、「がん医療における緩和ケアとは、がんやがんの治療に伴う体と心の痛みをやわらげることです」と説明したうえで、「緩和ケアを開始すべき時期」についても尋ねています。

これには、「がんと診断されたときから」が49.7%と最も多く、次いで「がんの治療が始まったときから」が25.5%、「がんが治る見込みがなくなったときから」が22.0%でした。

医療用麻薬には効果を期待

がんの緩和ケアでは、「医療用麻薬」が使われるケースが少なくありません。この医療用麻薬についても、下記の説明を資料として提示したうえで、「あなたは医療用麻薬について、どのように思いますか」と質問しています(複数回答)。

医療用麻薬について:モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどの「医療用麻薬」は、がんなどの激しい痛みの治療などに用いられる医薬品で、痛みを伝える神経に作用して痛みをやわらげます。医療用麻薬は、がんの進行度に関わらず、痛みの程度に応じて使用することができます。

(引用元:「がん対策に関する世論調査」*¹)

この質問には、「正しく使用すればがんの痛みに効果的だと思う」が67.2%と最も多い回答が寄せられています。次いで、「正しく使用すれば安全だと思う」が43.9%、「最後の手段だと思う」が29.0%、「だんだん効かなくなると思う」が27.7%、いったん使用し始めたらやめられなくなると思う」が16.6%でした。

がん緩和ケアの開始時期と医療用麻薬に関するさらに詳しい調査結果をこちらで紹介しています。是非参照してください。

がんの緩和ケアは、がんの診断時から行われている。しかし、内閣府が実施した世論調査では、緩和ケアを終末期ケアと混同している人が少なくない結果となっている。また、がん性疼痛の緩和に欠かせない医療用麻薬にも誤解が多いことが明らかになっている。

世論調査の結果を日々のがん看護に活用を

直近の世論調査の結果を日々のがん看護の実践に役立てていただければと思い、ポイントを紹介させていただきました。

内閣府は、今回同様の「がん対策に関する世論調査」を2007(平成19)年9月、2009(平成21)年9月、2013(平成25)年1月、2014(平成26)年11月、2016(平成28)年11月に実施、また2019(令和元)年7月には、「がん対策・たばこ対策に関する世論調査」を実施しています。いずれの調査結果も報告書として、内閣府公式サイトの「世論調査」にアクセスすれば見ることができます。

なお、がん患者の「働くこと」に視点を置いた看護については、こちらで書いています。是非一度立ち寄ってみてください。

がん治療を受けながら仕事を続けることを希望する患者が増えている。国はその支援策を手引書にまとめ、がん治療中でも無理なく仕事を続けられる体制整備に力を入れている。職場の受け入れや家族の理解に課題が残るなか、看護に求められる支援をまとめた。

引用・参考資料*¹:「がん対策に関する世論調査」(令和5年7月調査)概略版