がん患者を突然襲う突出痛とレスキュー薬




安らぐ

がん患者の65%が経験する
突出痛とレスキュー薬

がんからくる痛み、がん性疼痛は、WHO(世界保健機関)の疼痛治療方針に従い、モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬(略称、オピオイド)を十分量、定期的に使うことで90%以上とり除くことができるようになっています。

ところが、オピオイドなどにより痛みがすっかり和らぎ、落ち着いている患者でも、ときおり急に強烈な痛みに襲われることがあります。

このような突発的な痛みは「突出痛(breakthrough pain)」と呼ばれ、がん患者の約65%が二度三度と経験すると言われています。

この突出痛が出現したときは、痛みの性質をアセスメントしたうえで、その特性に応じて、速効性のオピオイドや鎮痛補助薬を臨時的に追加投与し、痛みの緩和を図ることになります。
これを「レスキュー薬(レスキュードーズ)」と言います。

がん性疼痛のコントロールについては、先に、がん性疼痛看護認定看護師の友人の話をもとに、オピオイドが効きにくい、難治性の「神経障害性疼痛」が関与している場合のオピオイドスイッチングの話を紹介しました。

今回はこの話の続きとして、突出痛とレスキュー薬使用前後の看護師さんによる痛みのアセスメントが、痛みの緩和効果を大きく左右するという話を書いてみたいと思います。

がん患者の疼痛緩和に大きな意味を持つオピオイドスイッチング。その適応であるオピオイドが効きにくい神経障害性疼痛のアセスメントを中心に、がん性疼痛看護認定看護師にポイントを聞いた。持続性の「しびれる」「ビリビリする」痛みは神経障害性疼痛と考え対応を。

日本緩和医療学会による
突出痛の定義とその特徴

がん患者を突然襲う「突出痛」には、国際的に定まった定義はありません。
そんななか日本緩和医療学会は、ヨーロッパ緩和ケア協会が提唱している定義を採用し、突出痛の特徴を以下のように説明しています。

突出痛の定義
持続痛の有無、程度にかかわらず発生する一過性の痛みの増強
突出痛の特徴
⑴ 痛みの発生からピークに達するまでの時間→ 3分程度
⑵ 痛みの平均持続時間→ 15~30分
⑶ 90%は1時間以内に終息

⑷ 痛みの発生部位→ 約8割が持続痛と同じ(持続痛の一過性増悪と考えられる)

(引用元:「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014年版」*¹ P.23-24)

突出痛は、ときにがん早期の患者に現れることもありますが、圧倒的に多いのは、がんが進行した患者です。
急激に襲ってくる激しい痛みは、その持続時間は決して長くなく、多くは1時間もすれば和らいで患者は落ち着いてくるのですが、強い痛みの急襲には強い不安も加わり、患者のQOLを著しく損なうことになりがちです。

患者にかかる負担を最小限に抑えるには、患者が経験している突出痛の性質を見極めるアセスメントからとりかかる必要があります。

突出痛のタイプ別
アセスメントのポイント

突出痛には大別して、以下3つのタイプあると考えられています。
⑴ 予測可能な突出痛
⑵ 予測不可能な突出痛
⑶ 定時鎮痛薬の切れ目の突出痛

■予測可能な突出痛のアセスメント
⑴の予測可能な突出痛は、立ち上がる、手足を動かす、といつた意図的な体動時や排便、排尿、嚥下などによる内臓の動きに伴って痛みが出るのが特徴です。
体位を変えるなどして神経を圧迫したことによる神経障害性疼痛も含まれます。

アセスメントでは、「どんなときに強い痛みがでますか?」とか「動くとき、トイレに行ったときなど、突然痛みが出るときに何かきっかけがありますか?」などと確認して、何が誘因、つまり刺激となって突出痛が起きているのかを把握します。

■予測不可能な突出痛のアセスメント
何らかの痛みのきっかけはあるのだろうがそれが何かはっきりわからない、あるいは突発痛を引き起こす誘因そのものがない、いわゆる発作痛としか考えられないような突然の激痛が、⑵の予測不可能な突出痛です。

アセスメントでは、「きっかけけとなるようなことは何もしていないのに突然痛みが強くなりますか?」などと確認して、本当に予測できないのかどうかを把握します。

■定時鎮痛薬の切れ目の突出痛のアセスメント
がん性疼痛は持続性ですから、鎮痛薬の効果が途切れて患者が痛みで苦しむことのないように、一定の間隔で至適投与量、つまり最短でも5時間は痛みが緩和され、副作用を最小限に抑えることのできる1回投与量のオピオイドなどを投与して、1日中痛みが緩和された状態でいられるように治療が行われます。

この至適投与量は、少量から少しずつ量を増やしていき、痛みのない状態が5時間以上続くかどうかで決めていきます。
その過程で、定時鎮痛薬の血中濃度が低下して薬の作用が切れることにより出現するのが、⑶の切れ目の突出痛です。
定時鎮痛薬の投与前に痛みが出現することから、このタイプの突出痛は比較的簡単に判断することができます。

この場合のアセスメントでは、「薬の切れ目に痛くなりますか?」「定時の投与前に痛みが出ますか?」の質問に「はい」であれば、このタイプの突出痛と判断することができます。

突出痛のタイプに応じた
レスキュー薬の使用とアセスメント

突出痛のアセスメントにより、予測可能と判断されたときは、痛みの誘因となった動作や姿勢、行動をできるだけ避けるように指導します。
とはいえ、たとえば排泄行為が誘因の場合など、誘因自体避けられないこともあり得ます。

そのような場合は、その行動をとる、一般に15~20分前にレスキュー薬として、定時投与で使用しているオピオイド製剤と同じタイプの速効性製剤や坐薬、注射液を使うことにより、突出痛を防ぐ方法がとられます。

予測不可能な突発痛と判断される場合は、レスキュー薬としてフェンタニル速放性製剤(頬粘膜吸収錠、舌下錠)が使われることが多いようです。
また、定時鎮痛薬の切れ目の突出痛と判断される場合は、定時鎮痛薬の調整が必要となります。

レスキュー薬使用後は
痛みと眠気のアセスメントを

レスキュー薬使用後は、その効果により突出痛が緩和されているかどうかをアセスメントする役割が看護師さんには期待されます。

このアセスメントで、がん性疼痛看護認定看護師の友人は、「痛み」と「眠気」を中心にチェックしてレスキュー薬の効果を判定しているそうです。

具体的には、突出痛がとれていて、しかも眠気がないようならレスキュー効果は十分と考えられます。ところが、痛みがとれているものの眠気が強いといった場合は、レスキュー薬の使用量が多すぎると判断し、減量を医師に提案するそうです。

一方で、レスキュー薬を使用したものの痛みがとれないことがあります。この場合は、
⑴ 眠気がないようならレスキュー薬の使用量が足りていないと判定して増量を、
⑵ 眠気が強くみられるときは、そのレスキュー薬では緩和効果が期待できないと考え、医師にその旨を報告して別のタイプの製剤の使用を検討することになるそうです。

「レスキュー薬使用後の看護師に託される痛みのアセスメントによっては、その後の突発痛への対処方法を変える必要が出てくるだけに、注意して行うことが求められます」
と、友人は語っています。

参考資料*¹:日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014年版」
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2014/pdf/pain2014.pdf