がん緩和ケアにおけるオピオイドスイッチング 神経障害性疼痛が関与している場合

緩和ケア

オピオイドスイッチングと
痛みのアセスメント

都内にある大学病院の緩和ケアチームで活動を始めてそろそろ5年になるという、がん性疼痛看護認定看護師(認定制度改正により緩和ケア認定看護師)の友人がいます。時々メールで近況報告をしてくれるのですが、先日こんなメールが届きました。

「目下の悩みは、オピオイドスイッチングの適応とタイミングについて、病棟看護師にどう伝えたらいいかということです」

ひとことで言えば、的確な痛みのアセスメントということになるのですが、「これがなかなか一筋縄ではいかない……」のだと。

「オピオイドスイッチング」とは、よりよい鎮痛効果と副作用の軽減を目的に、鎮痛効果と副作用のバランスをはかりながら、がんの痛みに対して患者が現在使用しているオピオイドから別のタイプのオピオイドに切り替える方法です。

このスイッチングを的を得たタイミングで行い、患者の苦痛をできるだけ早く取り除くためには、「確たる痛みのアセスメント情報をタイムリーに提供してもらう必要があるのですが、それが、口で言うほど簡単ではない」というのです。

そこで今回は、このオピオイドスイッチングが適応となるケースのなかで、比較的発症頻度が高く、多くの患者を苦しめることで知られる神経障害性疼痛が関与している場合について、彼女の助けを借りながらポイントをまとめてみたいと思います。

なお、がん性疼痛のコントロールでよく話題になる「突出痛」に関する彼女の話もコチラにまとめて紹介しています。併せて読んでみてください。

オピオイドなどによりがんの痛みが和らいでいても、急に強烈な痛みに襲われることがある。この突出痛には、予測可能なものもあれば予測不可能なもの、また定時鎮痛薬の切れ目の場合もある。そのタイプに応じて使われるレスキュー薬とアセスメントについてまとめた。

オピオイドが効きにくい
持続性の神経障害性疼痛

がんによる痛みの薬物治療は、1986年にWHO(世界保健機関)が提唱した「3段階除痛ラダー」として知られる「WHO方式がん疼痛治療法」が、日本は言うまでもなく、広く世界の国々で行われています。

この治療法を基本に、モルヒネやオキシコドン、フェンタニルといったオピオイド鎮痛薬(略称、オピオイド)を適切に、十分量を使うことにより、がんの痛みの90%以上は取り除くことができると考えられています。

逆を言えば、がんにより起こる痛みのうち10%弱は、モルヒネなどのオピオイドがもともと効きにくい難治性の痛みで、オピオイドスイッチングが検討されることの多いケースです。その代表の一つに、「神経障害性疼痛」と呼ばれる痛みが関与しているケースがあります。

オピオイドを使って疼痛コントロールを行っているのに持続性の痛みがいっこうに緩和されず、患者が苦しみ続けているという例は少なくないとのこと。

「そんなときはいち早くこの神経障害性疼痛を疑い、オピオイドスイッチングを行う前に、オピオイドとは別の鎮痛薬が適応ではないか、という視点から痛みのアセスメントをしていただきたい」と彼女は話します。

オピオイドが効きにくい痛みは
「しびれる」「ビリビリ」が特徴的

がんそのものによって起こる痛みは、大きく2種類に分けられることはご存知でしょう。

1つは、組織そのものががん細胞によって傷つけられた刺激によって起こる「侵害受容性疼痛」です。これには皮膚や筋肉、骨、関節が傷つけられることによる「体性痛」と、食道や胃、肝臓、腎臓などの臓器が傷つけられることによる「内臓痛」があります。

もう1つは、がんが大きくなって、末梢神経や脊髄神経など痛みの伝達路を巻き込んだり、圧迫したりすること、つまり神経を障害することによって起こる痛みです。そしてこのタイプの痛みが、オピオイドが効きにくい難治性の「神経障害性疼痛」です。

たとえば末梢神経が刺激を受けると、その刺激が脳や脊髄に伝えられ、患者はその刺激を受けた神経支配領域に「ビリビリ電気が走るような痛み」「しびれたような痛み」「ジンジンするような痛み」「槍(やり)で刺されたような痛み」を感じることになります。

患者が体験している痛みが神経障害性疼痛なのか、あるいは別の痛みなのかは、痛みのアセスメントにおいて痛みの性質、つまり「どんな性質の痛みなのか」を質問してみると比較的容易に判断できるようです。

とはいっても、痛みの現れ方は患者によって異なります。また、感じ方、表現のし方も人それぞれですから、その辺はくれぐれも慎重に。とりわけ注意が必要なのは、「○○のように感じませんか」などと誘導的な聞き方はしないように、とのことです。

オピオイドに鎮痛補助薬として
抗うつ薬や抗けいれん薬を併用

神経障害性疼痛は、以下の場合に特に併発しやすいそうです。

  1. 頭頸部がんの進行による周囲神経組織の巻き込みがある
  2. 肺がんや乳がんなどの胸壁への浸潤による肋骨神経の巻き込みがある
  3. 膵臓がんなど腹腔内臓器のがんの内臓神経叢への浸潤がみられる

このような神経障害性疼痛では、オピオイドに鎮痛補助薬を併用することで痛みの緩和、あるいは除痛をはかることになります。

この場合に使われる鎮痛補助薬としては、「ビリビリ電気が走るような」とか「槍で刺されたような」と表現される痛みには「抗けいれん薬」のカルバマゼピン(テグレトール)やバルプロ酸ナトリウム(デパケン)が使われます。

また、「しびれたような」とか「ジンジンするような」という痛みには、「抗うつ薬」のアミトリプチン(トリプタノール)などが使われることが多いようですが、これらの鎮痛補助薬にも副作用がつきものです。

「どの鎮痛補助薬を併用するかは緩和ケアチームのがん緩和医療医と薬剤師が中心になって決めますが、その副作用や併用した補助薬による除痛効果のアセスメントのポイントについては、チームの看護師に確認して行い、その結果を随時報告していただくことにより患者の苦痛の緩和につなげていければと思っています」と、彼女は話しています。

「がん性疼痛看護」分野から「緩和ケア」分野へ

なお、日本看護協会は2019年2月に認定看護師制度を再構築(改正)していますが、新制度下で「がん性疼痛看護」分野は「緩和ケア」分野となっています。