看護師が行う退院支援とケアマネジャー資格

看護と退院支援

退院支援に必須の
ケアマネジメント知識

病院勤務の看護師さんとのおしゃべりのなかで、退院支援が話題にのぼることが、このところ急に多くなっています。

それだけ需要があるということなのでしょうが、その話のなかで介護支援専門員、いわゆる「ケアマネジャー」に関することに話がよく集中します。

たとえば、病棟で退院支援を担当するようになったという看護師さんから、こう聞かれたことがあります。

「地域のことや福祉に関する情報不足を痛感しています。入退院調整部門の専従看護師にはケアマネジャーの有資格者が多いと聞き、私も挑戦して必要な知識を身につけたいと考えているのですが、どう思いますか」

あるいは、「うちの病院は社会福祉士が欠員で今募集をかけているからと、一時的に入退院調整部門に配属されているのですが」と断ったうえで、こう打明けられたことも――。

「地域の在宅ケアシステムや介護保険サービスなど、福祉的なことに熟知しているわけではないので、自信をもって患者さんやご家族に対応できずにいる状況です。やはりケアマネの勉強をしておいたほうがいいでしょうか

国が進める入院の短縮化に向け、入院早々に退院支援が必要な患者を抽出しようと、患者や家族にその意向を伝える役割が看護師に求められる。これに患者サイドは、「追い出される」と感じることも。その誤解を解くために何をすべきかをまとめた。

「入退院支援加算」新設で
退院支援がより重要に

人口の高齢化が進む一方のこの国では、医療の機能分化に伴う在宅ケアの推進に欠かせないとして、病院における退院支援の重要性が改めて見直されています。

国レベルでもいろいろな対策が講じられています。

その一つとして、2016年度診療報酬改定では、従来の退院調整加算をグレードアップさせた「退院支援加算」が新設され、退院支援の評価にいっそうの充実が図られています。

なお、この「退院支援加算」は2018(平成30)年度診療報酬改定により「入退院支援加算」に呼び名が変更になっています。

この「入退院支援加算」の一般病院における加算条件には、以下のような項目があげられています(参考資料:2020年度 診療報酬点数)。

  1. 入退院調整部門を設置する。ここには専従スタッフ(看護師または社会福祉士)を1名以上置いていること
  2. 入退院支援業務等に専従するスタッフを、2病棟に1名以上配置していること
  3. 20か所以上の医療機関または介護サービス事業所等と転院・退院体制などについて個々に年3回以上の協議をもち、「顔の見える連携の構築」に努めていること
  4. 病床100床当たり年に15回以上の介護保険サービスに関する連携を行い、介護支援連携指導料を算定していること

これらの条件が示すように、病院として入退院支援に関するより高い評価を受けて収益のアップを図るうえで、看護師さんに課せられる役割がより大きくなっているのです。

なぜなら、入院患者をこれまでの生活に戻す支援において、やはりキーマンとなるのは、患者さんの生活をよく理解している看護師さんだと思うからです。

こうした状況のなか、専従スタッフか否かを問わず、入退院支援にかかわる看護師にはケアマネジャーの資格があったほうがいいのではないかと考える担当者が、どうも少なくないようなのです。

*ケアマネジャー(介護保険制度上では「介護支援専門員」)とは、介護保険制度に基づきケアプランの作成等、介護サービスが必要な人と介護サービスの事業所や市区町村との連絡調整を行う専門家。

そこで、これまでの取材を通じて懇意にしていただいている看護師さんで、急性期病院の入退院支援調整部門で働いている、あるいは病棟で入退院支援専従看護師を任されている方に、電話でこの話をしてみました。

すると、電話した4人中3人から、「必要に迫られてケアマネ資格を取得した」との答えが返ってきました。

残りの1人は、ケアマネジャーの受験準備のための通信講座をひと通り受講し終えたものの、年に1度の実務研修受講試験日にたまたま日程調整がつかなかったためにまだ資格は取得していないが、近々挑戦して、資格を取得しておこうと思っている、とのことでした。

たまたま電話取材に応じてくれたという事情はあるものの、4人共に看護師として勤務を続けながらケアマネジャーの資格試験に向けた通信講座を受講しています。

その経験から、看護師として退院支援を行ううえで必ずしもケアマネジャーの資格をとっておく必要はないかもしれないとのこと。

しかし、「特に、病気や障害を抱えながら在宅に帰っていく患者さんをより質の高い在宅ケアにつなぐうえで、ケアマネジャー講座で学んだことがとても役立っている」とのことです。

ケアマネ資格への挑戦が
看護師としてのリフレッシュに

ケアマネジャーについては国家資格化に向けた動きもあるようですが、現在は各都道府県認定の公的資格です。

国家資格をもつ看護師さんがケアマネジャーの受験を受けるには、5年間の臨床実務経験が必要とされます。

ケアマネジャー(介護支援専門員)になるには、保健医療福祉分野での実務経験(医師、看護師、社会福祉士、介護福祉士等)が5年以上かつ900日以上ある者などが、勤務先あるいは居住地の都道府県で年に1回(10月中旬~下旬)実施される「介護支援専門員実務研修受講試験(有料:都道府県により異なり10,000円前後)」に合格したうえで、介護支援専門員実務研修の課程を修了し、介護支援専門員証の交付を受けた場合に、ケアマネジャーとして活動することができる。

研修の日程等の詳細については、現在の勤務地の都道府県に問い合わせるかWebサイト「介護支援専門員のページ」(「介護支援専門員のページ 〇〇県」で検索)などにて確認を(受験申込期間は6月上旬から1カ月程度)。

看護師として勤務して3、4年も経つと、一応のことはできるようになってきます。

日々の看護がなんとなくマンネリ化してくることから、転職を考えたりする看護師さんが増えるのもこの時期だそうです。

ちょうどそんなときに、「ケアマネジャー資格に挑戦しようと決め、その課題に取り組んだことが、マンネリ解消に役立ち、心機一転の気持ちで看護に取り組めるようになった気がしている」とある看護師さんが話してくれたことがあります。

以上から判断し、入退院支援業務を担当することが多いものの、退院先の地域との連携に関する知識不足を実感し、ケアマネの勉強をしたいと話してくれる看護師さんには、「独学は大変だから、ケアマネジャー試験 過去問解説集2022のようなものも活用して受けてみるのもいいのでは」などと提案するようにしています。

ただ、だからといって病棟看護師をやめてケアマネジャーに転職すれば、などとすすめているわけではありません。

病棟看護師さんとしてその専門性にいっそうの磨きをかけ、活動の幅を広げて人びとのケアニーズに応えていくうえで、これからの時代、ケアマネジャーに必要な知識を学んでおくことはとても有意義だろうという話ですので、くれぐれも誤解のないように。