人間関係に悩む看護師とアサーション

コミュニケーション

言いづらいことも言える
自己表現力とアサーション

ビジネスパーソンの度重なる過労死が社会問題化しています。

なんとも痛ましい報道を見聞きするたびに、亡くなられた方を責める気持ちはサラサラないのですが、疑問に思うことがないではありません。

たとえば上司からとてつもない量の業務を強いられたとき、「私一人では無理ですから、誰かに手伝っていただきたい」とか、「残業続きで身体がきついから今日は帰らしてください」といったことを上司に伝え、理解を得ることがどうしてできなかったのだろうか、と――。

自分が言ったことに、仮にその場で相手の了解が得られないこともあるでしょう。

だからと言って、我慢して無理な要求を聞き入れるのではなく、誰かに相談するなり、心身ともに疲れ切っている我が身を守るためにさらに打つ手はなかったのだろうか、と悔やむ気持ちになったりもします。

そんなことを考えていた折も折、たまたま会う機会のあった大学病院に勤務する臨床心理士のNさんに、この思いをぶつけてみました。

返ってきた答えは、「医療現場でも珍しくないことだと思う。個々に事情は違うでしょうから一概には言えないけど、多分共通しているのは当事者の自己表現力の問題がからんでいるのではないかしら。最近の言葉で言えば、アサーションよね」というものでした。

アサーティブな姿勢と
セルフアドボカシーの実践力

Nさんの言う「アサーション」とか「アサーティブ」という言葉は、看護師さんを取材させていただいているとよく出てくる言葉の一つです。

直訳すれば、「自己表現」とか「意見表明」となるようです。「自分の気持ちや考えを相手に分かってもらえるように率直に伝える」という意味といっていいでしょう。

患者や同僚、医療チームのメンバー間でのコミュニケーションや人間関係、あるいは意思決定支援のようなことに話が及んだときなどに出てくることが多いように思います。

記憶に新しいところでは、がん看護専門看護師の近藤まゆみさんの著書『臨床・がんサバイバーシップ―“生きぬく力”を高めるかかわり 』にも、がん患者のセルフアドボカシー*の実践力に関連して、「アサーティブな姿勢」という表現が登場してきます。

そこでは、「ステージⅠB期の子宮頸がん」と診断された30代後半の女性が、治療法を選択していくプロセスが事例として紹介されています(p.80-87)。

*セルフアドボカシーとは、自己主張、自己表現、自己アピールすることをいう。詳しくはこちらを読んでみてください。
がん看護において「セルフアドボカシー」への視点は重要だが、この言葉にリアリティが感じられないとの声は多い。がん看護専門看護師の近藤まゆみさんは著書の中で、がんを病んでいることにひるむことなく、自分らしく生き抜いていくことと、説明している。

アサーティブコミュニケーションで
相手の思いを受け止めつつ自分の考えを伝える

この女性自身は、近く結婚を予定しているパートナーとの将来を考え、手術を受けるにしても、卵巣を少しでも残しておくことに固執しています。

一方、彼女のご両親は、娘さんの生命を最優先に考え、再発のリスクを完全に断ち切るためにも、子宮と卵巣を含む付属器の全部を摘出する手術をしてほしいと望んでいます。

そのとき彼女は、両親の思いを受け止めながらも、それに妥協することなく、「卵巣を少しでも残したい」という自分の意思を、両親の感情に配慮しつつも率直に伝え、真摯に理解を得ようと努めました。

これがまさにアサーティブな姿勢であり、セルフアドボカシーの実践です。

「がんという窮地に追い込まれた状況のなかで、がんと向き合いながら自分らしい生き方をしていくうえで欠かせないコミュニケーション能力だ」と、近藤さんは記しています。

いわゆるアサーティブコミュニケーションです。

患者に対する倫理的配慮と
看護師のアサーション

ひるがえって看護師さん自身の問題としてアサーションについて考えてみると、たとえばあなたはこんな経験をしたことはないでしょうか。

看護の現場で、同僚の看護師や医師、あるいは医療チームの他職種のメンバーが患者や家族に向けている言動が、どう考えても医療倫理、看護倫理上おかしい、あるいは問題があると気づくことがあったとします。

そのようなときに、「患者さんに対するそのような言動はちょっとまずいと思う」ということを、まずいと思う理由とともに相手にきちんと伝えることができていない、という方が多いのではないでしょうか。

特に相手が直属の上司、あるいは先輩看護師だったり、医師だったりすると、言いたいことも言えないままに妥協し、結局は見て見ぬふりをしてしまう――。

しかし、ことはそれで終わらないものです。

言いたくても言えなかったことがシコリとなって残り、以来その人との会話ばかりか関係までもがぎこちなくなってしまい、顔を合わせることにさえストレスを感じるようになってしまう、といったことはないでしょうか。

いわゆる「倫理的ジレンマに陥る」ということでしょうか。

日常のケア場面で意思決定支援が求められることは少なくない。その際、患者の意思を最優先すべきだが、患者の選択に倫理的問題を感じてジレンマに陥ることがある。だが、ときにそれは自分の価値観との違いに起因することもあり、第三者の意見を求めてみることが大切だ。

ときには「NO」も言える
アサーショントレーニング

こうした事態を避けようと、「最近はビジネス界のみならず医療の現場でも、アサーショントレーニングの研修が積極的に行われている」と、臨床心理士のNさんは言います。

アサーショントレーニング(「アサーティブトレーニング」ともいう)で基本となるのは、アサーティブな姿勢です。

つまり、一方的に自分の考えや意見を押し通そうとするのではなく、自分同様に相手にもその人なりの考えや気持ち、意見があることに配慮し、それを尊重して、あくまでも対等な気持ちで関係をもとうとする姿勢です。

「アイムOK、ユーアーOK」の一致点を見つける

以前、チーム医療の円滑な進め方の鍵となる看護師さんの「対人力」について、相手との間に「アイムOK、ユーアーOK」という一致点を見つけることが大事という話を書きましたが、そこに通じるのではないでしょうか。

病院の内外を問わず「チーム医療」が重視される今、看護師にはより良い人間関係を築いていく力、いわゆる「対人力」が求められる。簡単に言えば、他人に迎合することなく自分の意見もきちんと伝えながら、人とつき合っていく能力ということになるのだが……。

アサーションの考え方に基づくコミュニケーションができるように、グルーブディスカッションやロールプレイなどを通して、相手の感情を理解することや的確に自己を表現するスキルを身につけていくことが、アサーショントレーニングの要だそうです。

アサーショントレーニングで自分らしいコミュニケーションを

アサーショントレーニングのより簡単な方法としては、看護師のみなさんにはカウンセリング技法などの講師としてお馴染みの、平木典子立教大学教授の監修・指導によるDVD『自己表現トレーニング~アサーションのすすめ~ 』*¹がいいのではないでしょうか。

「どうも私は自分の考えを言わずに、ついつい相手の言うことに妥協する癖がある」という方は、一度このトレーニングに挑戦してみてはいかがでしょうか。

あるいは、1人でこのDVDを購入しようと考えると、ちょっと高価で思いとどまってしまうことにもなりかねません。

そこで、病棟で購入してみんなで取り組めば、看護チームとしてのアサーション力を高めることになり、より効果的ではないでしょうか。

トレーニングだけでなく基本を押さえておきたいという方には、平木氏とリエゾン精神看護がご専門の野末聖香氏らによる『ナースのためのアサーション (アサーション・トレーニング講座)』*²を、「自分らしく心の通った看護をするためのアサーションをどう実践できるか」の観点からまとめられている一冊としておすすめします。

この他、以下の本もアサーションについて学ぶことができます。

アサーション・トレーニング 自分らしい感情表現』(金子書房)
臨床心理士で、日本・精神技術研究所の認定トレーナーの土沼雅子氏による一人でもできるアサーションスキルをマスターするためのエクササイズが紹介されている。

チームでのコミュニケーショントレーニングにも活用できる。

マンガでやさしくわかるアサーション』(日本能率協会マネジメントセンター)
やはり平木氏によるアサーション入門者向けの一冊。解説に漫画を挟んで、より理解しやすい構成になっています。

あまり本を読む時間のない方向けです。

参考資料*¹:平木典子『自己表現トレーニング~アサーションのすすめ~ 』(チーム医療)

参考資料*²:平木典子・野末聖香『ナースのためのアサーション (アサーション・トレーニング講座)』(金子書房)