看護師に求められる「対人力」をめぐって

看護師の対人力

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看護師の対人力が
円滑なチーム医療の推進力に

あらゆる仕事がそうであるように、看護もまた、人と人とがかかわり合うことで成り立っています。前者の「人」を「看護師さん」とすれば、後者の「人」に該当するのは、まずは「患者や家族」でしょうが、看護師さんの場合は、それだけではありません。

病院の内外を問わず「チーム医療」が重要視される現在にあっては、チームとして連携し、協働していく仲間たちもそこに加わってくると思います。具体的には、医師や薬剤師など、あるいは最近連携する機会が増えているケアマネジャーなどの地域で活動する医療や福祉領域の専門職でしょうか。

ゆるぎない信頼関係のもとに、チームメンバーが一体となり、それぞれに与えられた役割を果たしつつ円滑に仕事を進めていくことが、患者・家族への質の高い看護の提供につながっていくのだろうと思うのですがいかがでしょうか。

そこで今回は、このチーム医療のキーパーソン役を期待されている看護師さんの、良好な対人関係を構築していく力、いわゆる「対人力(たいじんりょく)」について、一冊の本の紹介と併せ、まとめてみたいと思います。

対人力とは、「私はOKです」と
相互に言える接点を見出す力

対人力という言葉を私が初めて知ったのは、もうかなり前のことです。大企業の管理職を対象にしたセミナーの広告記事に、「部下を動かす対人力を高める」と大きく書かれているのを見て、ちょっと違和感を覚えた記憶があります。

その違和感、つまり「えっ、対人力ってそういう意味ではないはず!」と直感した原因は、「動かす」という言葉にありました。

部下の意向はいっさいかまわず、一方的に自分の考えだけを押し通そうとする――。まさに企業戦士と呼ばれるような管理職の立場にある人たちにありがちな強引さ、傲慢さを、「動かす」という表現に読みとったからです。

その後何年かして、看護の世界においても看護管理者を中心に、対人力という言葉が使われるようになりました。

取材でお話をうかがうなかで、あるいは取材の下準備として看護論文などを読んでいて、「対人力は看護師にとって欠かすことのできない力」というような表現に出合う機会が多くなってきました。その場合、大半は、「よりよい人間関係を築く力」との意味合いで使われていたように思います。

対人力とは「人づきあいの能力」

看護領域におけるこのような「対人力」という言葉の使い方、あるいは解釈には、あまりにも漠然としすぎていて物足りなさをずっと感じていました。しかし最近になってやっと、「なるほど」と、合点のいく解釈に出合うことができました。

対人力のコツ──人間関係が楽になる94の知恵』*¹という本のなかで、心理カウンセラーの植西聰(うえにしあきら)氏は、こんなふうに説明しているのです。

対する相手との間に「アイムOK、ユーアーOK」という一致点、つまりそれぞれが「私はOKです」と了解し、満足できる接点を見つけ出す力、簡単に言えば、人づきあいの能力こそが「対人力」である――、と。

迎合することなく
人と上手につき合っていく能力

ところで、この「人づきあい」という言葉ですが……。この言葉を使う場面をイメージしてみると、「あの人、人づきあいが上手いわね!」という使い方をしていることが多いように思いますが、どうでしょうか。

そのようなときはこころのどこかに、「まったく、あの人、お調子者なんだから!」といったような、相手に対するどちらかと言えばネガティブな気持ち、感情があるように思うのですが、そんなことはないでしょうか。

もしあるとしたら、相手にそんなことを感じさせるような人は、おそらくは、真に「対人力が高い」とは言えないのだろうと思います。

対人力が高いと無理なく理解し合える

人にはどうしても相性というものがあります。ですから、看護師のあなたにも、おそらく苦手な患者や同僚看護師、医師などがいると思います。しかしそんな苦手な相手とでも、かかわらざるを得ない場面が少なからずあるはずです。

そんなときも、次のような条件を満たしつつ、お互いが無理なく理解し合うことができる人が、対人力が高いということが言えるのだろうと思います。

  1. 苦手意識に振り回されない
  2. 相手に迎合(げいごう)、つまり相手の気に入るように調子を合わせることをしない
  3. 相手の主張をきちんと受け入れる
  4. 自分の主張も的確に伝える

表情の豊かさも対人力を高める要因

そのために求められる能力として、著者は、以下をあげています。

  1. 対人関係力をのばすコミュニケーションスキル(相手のメッセージをしっかり受け取るコミュニケーションスキル)
  2. 交渉力(相手との妥協点、合意点を見つける力)
  3. リーダーシップ
  4. 伝える技術(自分の考え・思いを上手く伝えるコミュニケーションスキル)
  5. 感情的にならない、つまり自らの感情をコントロールできる能力
  6. 打たれ強さ(多少の批判や反対を受けても精神的に動じない)

そこにあえて私は、看護師さんの対人力の一要因として「豊かな表情」、そして「笑顔」をあげたいと思います。

「笑い」に免疫力を高める効果が期待できることは欧米での実験で確認されている。日本でも初めて、その実証研究がお笑い芸人の協力を得て行われ、その効用が確認されている。研究対象はがん患者だったが、認知症をはじめとする他の患者にも応用できそうだ。

これらの能力をよりいっそう高めていていくうえで、たとえば前回までにこのブログで紹介してきた以下の記事なども、十分役立てていただけると思います。ぜひ一度目を通してみてください。

看護においては「傾聴する」ことの大切さが強調される。ただこの「傾聴」は、相手が話すことをただじっと聴いていればいいというものではない。聴いて理解したことを相手に伝えることの繰り返しにより、双方が納得して合意できることが大切だという話を。
看護の現場では、ときに患者や家族から厳しい叱責を受けることがある。それが高じて暴力的な言葉、さらには暴力を受けるリスクもあるのだが、そんなときに相手の感情に振り回されることなく対応する上で役立つ2つの言葉、「確かに」と「実は」を紹介する。

アサーションも忘れずに

加えて、看護師さんを取材させていただいているとよく話題にのぼってくる「アサーション(assertion)」とか「アサーティブ(assertive)」、つまり自己表現力ということも、医療現場における人間関係の構築に大きく影響してくるんだろうと思います。

この場合の自己表現力は、自分も相手も大事にする自己表現力という意味ですが、この点についてはこちらを読んでいただけたら嬉しいです。

過労死が社会問題化するなかで、疲労困憊する前に自分を守る手段として自己表現することの大切さが指摘されている。上司や周りの言いなりになるのではなく、「NO」も含め、言いづらいこともきちんと伝えるうえで基本となる、アサーションを紹介する。

参考資料*¹:植西聰著対人力のコツ──人間関係が楽になる94の知恵』(自由国民社)