医師らが語るアンガーマネージメント法

怒り

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医療現場では多くの人が
固い表情をしている

医療現場の取材を終えた帰り道などで、時々ふと考えることがあります。「看護師さんだけでなく、医師や他の医療スタッフにも、それから患者や家族にも、なぜあんな固い表情でピリピリイライラしている人が多いのだろうか」と――。

ストレスに感じることも多く、軽い気持ちで、冗談を言い合いながらできる仕事ではないことは、重々承知しています。託されたいのちを大切に思う張り詰めた緊張感から、自ずと顔も引き締まり、はた目に「怒っている」ように見えることもあるんだろうと思います。

一刻一秒を争うような緊急場面でチームの誰かに不手際があったりすれば、つい反射的にきつい言葉を口にしてしまうようなことも、当然あるでしょう。そんなふうに考えて自分なりに納得していることを、取材を終えた後の雑談の中で、何度か取材にご協力いただいた消化器外科医に話したことがあります。

すると、「そんなふうに受け止められないように、僕らなりに怒りをコントロールする努力はしているんですがね。一度これを読んでみてくれませんか」――。そう言って、本棚から取り出し手渡してくれたのが、今回紹介する日本医事新報社編さんの『医師のためのアンガーマネジメント』という一冊です*¹。

71人の現役医師が綴る
「私のアンガーマネージメント法」

この本には、第一線で活躍中の医師71人が、自身の経験から導き出した医療現場における怒りへの対処法、いわゆる「アンガーマネージメント」が紹介されています。といっても、いわゆる一般的な「怒りへの対処法」ではありません。中心にあるのは、患者とのコミュニケーションに重きを置いていること。この点が本書の特徴です。

本書をまとめる上でイニシアチブをとられたのは、女性専用の健診クリニック(女性のための統合ヘルスクリニック イーク丸の内)で院長を務める、野口由紀子医師です。

野口医師は、日々の診療に携わる傍ら、日本アンガーマネジメント協会でアンガーマネジメントについて学び、現在は同協会公認のファシリテーターとして、怒りの感情と上手につき合うテクニックなどについて研修や講演を行っています。

実は、野口医師のように、日本アンガーマネジメント協会でアンガーマネジメントに関する講座を受講し、協会公認のファシリテーターやコンサルタントの指定を受け、看護の現場でメンタルヘルス研修などを行っている現役の看護師さんが何人もいると聞きます。

そのなかの一人、光前麻由美(みつまえまゆみ)さんによる『看護師のためのアンガーマネジメント 「怒り」の感情を上手にコントロールする技術 』という本*¹も、アンガーマネジメントの実践的テクニックが事例展開のかたちで系統的にまとめられていて、現場の看護師さんにたいへん好評だと聞いています。

あの医師はなぜいつも平静なのか
その理由が解ける一冊

そんななか、現役の医師たちが「私はこうして怒りをマネジメントしている」と打ち明けているこの本をあえて紹介するのには、それなりの理由があります。

医療の現場にあって医師と看護師さんは、ときに「車の両輪」といわれるように、切っても切れない関係にあります。そんな密接な関係にあるだけに、チームを組んで仕事をしていて「何よこの先生、もうちょっと自分の感情を抑えられないのかしら」とか、「なんでいつもイライラしているの」などなど……。不快に思うことも多々あるんだろうと思います。

あるいは逆に、「患者さんから失礼なことを言われても平静でいられるのはなぜかしら」とか、「あの先生は、かなり無理なことをお願いしてもいつも柔軟に聞き入れてくれるけど、腹が立つなんてことはないのかしら」と感心させられることもあると聞きます。

このような、医師が陥りがちな感情、とりわけ怒りに象徴されるマイナスの感情にまつわる日頃の疑問を少なからず解いてくれるのがこの本なのです。

怒りには6秒ルールがあるが
6秒やり過ごすのは難しい

本書を読んだという友人のある看護師さんは、登場する71人の医師の中に、毎日チームを組んでいる医師と思しき名前を見つけたそうです。

30歳代のその医師は、どちらかといえば感情的になりやすいタイプで、患者とのやりとりにおいても、怒りや反発がすぐに顔に出るのですが、ひと呼吸おくと、いつもの平然とした顔に戻り、何ごともなかったように会話や処置を続けているとのこと。この見事な変わりようが、看護師さんの間で「不思議よね」と話題になっていたそうです。

この本の中で同姓同名のその医師は、「怒りを客観視して冷静になる」努力をしている、といった主旨のことを書いているとのこと。

「名前が同じだけかもしれないけど、ご自分は感情が顔に出やすいことを自覚されていて、怒りの感情を患者さんや周りの私たちに悟られて不快にさせまいと努力しているのだと思ったら、今まで以上に親しみを感じるようになった」と、彼女は話してくれました。

怒りには「6秒ルール」があるとよく言われます。ついカッとなることがあっても、6秒間その怒りをやり過ごすことができれば、相手にその感情をぶつけて、関係が悪くなるようなことにはならないと言うのですが……。

その6秒間やり過ごすのがなかなか大変で、看護師さんたち同様に医師たちも、日頃からあれこれ工夫しているようです。何はともあれ、医師たちが体験談として語る怒りのマネージメント法を、一度読んでみてください。

ナースのためのアンガーマネージメントに関しては、『怒った人に振り回されない自分をつくる―ナースのためのアンガーマネジメント2―』もあります。

同時に、怒りについては、こちらの記事もどうぞ!!

患者や家族から無理難題を際限なく要求されて「怒り」を感じることもあるだろう。6割を超える看護師が、その体験をしているとの調査結果もある。怒りを感じながらその感情を抑え込んでいるのが現状のようだが、むしろいいかたちでケアに生かしては……。

参考資料*¹:日本医事新報社編『医師のためのアンガーマネジメント

参考資料*²:光前麻由美著『看護師のためのアンガーマネジメント 「怒り」の感情を上手にコントロールする技術 』(日本医療企画)