患者への怒りの感情を抑え込んでいませんか




怒り

患者の思わぬ言動に
怒りの感情を抱いた経験は?

看護の現場を取材していると、目の前の患者が希望することをできるだけかなえようと、懸命に努力し工夫を重ねている看護師さんの姿を、よく見聞きします。

患者によっては、「もっともっと」と無理難題を次々と要求してくることもあるようです。
それでも多くの看護師さんは、
「患者さんの要望に応えるのが私たちの仕事ですから」
と、こと細かな訴えの一つひとつに真摯に応えようとしています。

ときに患者は、自分の思いどおりにならないことに腹を立て、怒りの感情をもろに看護師さんに向けてくることもあります。

そんなときも表情を変えることなく、一見平然と対応している看護師さんの姿を目にし、
「今この看護師さんはどんな精神状態にあるのだろうか」
「怒って言葉を返したくなるようなことはないのだろうか」
などと、一度ならず疑問に思ったりしたものです。

看護の現場では、ときに患者や家族から厳しい叱責をうけることがあります。それが高じて暴力的な言葉、さらには暴力を受けるリスクもあります。そんなときに相手の間所に振り回されることなく対応できるように、2つの言葉を紹介します。

患者の言動による怒りの感情を
65.7%の看護師が体験

折しも、都内の総合病院で看護部長をしているNさんとの電話のなかで、このところ何かと社会問題化しているパワーハラスメントに話が及びました。

「看護師さんが患者から、パワハラもどきの言動をされて、怒りを感じることもあるでしょうけど、その怒りの感情を看護師さんはどうしているのかしら」

「怒りの感情は、そこに対処すべき問題があることを伝える感情だといわれていますね。だから看護師も、患者さんをケアしていて思わず怒りの感情にとらわれたときには、そのままやり過ごすのではなく、そこには無視できない問題があると受け止めて対処していると思う。少なくとも私はそうしているし、スタッフにもそう指導しているけど……」

こういったやりとりがあった翌日、Nさんから「昨日のあなたの疑問に答えをくれそうな研究論文があるから読んでみたら」とメールが届きました。

その論文は、全国の400床以上の多診療科を有する施設に働く看護師を対象に実施した調査結果を分析した「看護師の患者対応場面での怒り発生とその後の行動」*です。
*畠山朋子・佐々木久長・米山奈奈子:看護師の患者対応場面での怒り発生とその後の行動.秋田大学保健学専攻紀要24(1)41-51,2016

この調査結果を見ると、質問紙調査に回答した1152人(回収率52.0%)の、なんと半分を大きく上回る757人(65.7%)の看護師が、「最近1カ月の看護業務における患者との対応場面で怒りを感じた」と回答しています。

この先の患者との関係性を考え
怒りの感情を抑えている

この調査では、患者対応場面で怒りを感じた看護師757人に、そのとき怒りの感情を表出したかどうかを質問しています。

この問いに対しては、私もちょっと驚いたのですが、757人中599人(79.1%)と、8割近くの看護師が、怒りの表出を「抑制した」と回答しています。
怒りの気持ちを、その場では、ぐっと抑え込んだわけです。

そのうえで、怒りを感じている患者に対してとった行動としては、「いつもと変わらない態度で接した」「気にしないふりをして平然とやり過ごした」「何ごともなかったように振るまった」といったものが多かったようです。

■患者への怒りの感情を抑制した理由は?
このように「怒りを抑制した」、つまり患者に対する怒りの感情を、少なくとも患者を前にしたその場で表現しなかった理由としては、多い順に以下の項目が挙げられています。

  • 怒ると患者との関係が悪化するから(58.5%)
  • その相手とは今後もかかわり合うから(46.0%)
  • 怒ると余計に面倒になるから(45.0%)

もちろんごくごく少数ですが、「激しく相手を非難した(2%)」「相手の言動に対して謝罪を求めた(2.9%)」「感情的に怒りをぶつけた(4.7%)」など、怒りの感情をその場でそのまま表現して、患者に伝えた看護師もいたようです。

しかし圧倒的多数の看護師は、患者とかかわっていくなかで大なり小なり怒りを感じることがあったとしても、後々の患者との関係性に及ぶであろうマイナスの影響を考えて、その場で自分が怒っていることを患者に伝えることはしないようにしているようです。

怒りの感情を抱いた患者への
苦手意識はチームで解決を

ただ、怒りを抑えてばかりいるのは、精神衛生上好ましくありません。
そう思って論文をさらに読み進めていき、少しホッとしました。

患者に対して抱いた怒りの感情を、いったんは抑え込んだものの、約7割の看護師が、ナースステーションに戻ってから、あるいはチームカンファレンスの場などで、その怒りについて同僚に話を聞いてもらっているのです。

話を聞いてもらうことで感情を表出して、上手に処理しようとしています。
同時に、怒りの感情が沸き起こった経緯を振り返って怒りの原因を明らかにし、その患者との次のかかわりに生かす努力をしているというのです。

なかには、「上司に話を聞いてもらった」と答えている人もいます。友人、あるいは家族に話を聞いてもらうことで怒りを解消している看護師もいるようです。

怒りを自分なりに処理しても、その患者に対する「苦手意識」が残って、後々のその患者との関係性にマイナスの影響が及ぶのもやむを得ないことなのだろうと思います。

この苦手意識については、リエゾン精神看護専門看護師の平井元子さんが、著書『リエゾン―身体(からだ)とこころをつなぐかかわり 』(仲村書林)の「こころの格闘技」のなかで(p.81-92)、事例をとおしてチームでかかわるメリットを生かす方法を提案しておられます。是非読んで、参考にしてみてください。

患者に対する怒りの感情を
上手に使いケアに生かす

看護部長のNさんが電話で話していたように、怒りの感情は、そこに何か解決すべき問題があることを伝えるサインです。

その問題を明らかにするためには、かんしゃくやイライラにすり変えて、その感情から逃げるのではなく、感情を上手にコントロールして、怒りに込められているメッセージを読み取ることが大切だと考えられています。

そこで最近は、怒りの対処法として「アンガーコントロール」とか「アンガーマネジメント」ということがよく言われるようになり、その方法を紹介する数多くの書籍などがメディアなどでも紹介されるようになっています。
数あるなかでN看護部長がすすめるのは、『アンガーマネジメント 11の方法―怒りを上手に解消しよう』(金剛出版)という一冊です。

本書では、「怒りは誰にでも生じるものである」ことを前提に、一様ではない怒りのスタイルを11パターンに分類。それぞれの怒りについて理解を深めたうえで、自身の怒りを「不健全な怒り」から「健全な怒り」へとマネジメントする方法をわかりやすく解説しています。
是非目を通してみてください。

なお、最近は医療機関によっては「医療メディエーション」のシステムを取り入れ、医療メディエーターによる患者-医療者間、あるいは医療スタッフ間の関係改善への取り組みも行われるようになっています。詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

社会問題になっている職場におけるハラスメントは医療現場も例外ではなく、多くの看護職が被害者と聞く。対話不足が主因なら、医療現場で最近力を入れている医療メディエーション、つまり「対話による関係構築」の手法をハラスメント対策に活用してはどうかと考えた。