終末期ケアに生かす「もしバナゲーム」




時間

患者との「もしバナゲーム」を
終末期について話し合うきっかけに

看護師として終末期医療に携わっているあなたは、医療・福祉領域の現場はもちろんのこと、高齢者を中心とする一般の方々の間でも、「もしバナゲーム」と呼ばれるゲームが注目されていることをご存知でしょうか。

「もしバナゲーム」とは、「もしも余命が半年だとしたら、自分はどんなことを大切にして残りの時間を過ごしたいか」といった話を、患者が家族や看護師ら医療スタッフとできるだけ気軽に、かつ率直に話し合うきっかけになればとの思いから作られたカードゲームです。

制作したのは、亀田総合病院(千葉県鴨川市)の蔵本浩一医師(疼痛・緩和ケア科医長)と原沢慶太郎医師(在宅診療科医長)のお二人です。

もともと米国で、終末期医療における医師・患者のコミュニケーション・ツールとして生まれた「Go Wish game」と呼ばれるカードを、日本語に翻訳し、そこに4人が一組になってプレーするという独自のルールを加え、日本版として発表したものです。

このルールは、「人生を締めくくる時に何が大切か」をゲームをしながら話し合うことを通して、お互いの価値観の違いを知ったり、自分が大切に思っている価値観を再認識するきっかけになることを意図して付け加えられたのだそうです。

「もしバナゲーム」を活用して
アドバンス・ケア・プランニングを

このところの医療現場において、「アドバンス・ケア・プランニング」が求められていることは、先にコチラの記事に記しました。

「もしものとき」を考えて自分の意思を「事前指示書」に残すことから一歩進めて、その内容を患者・家族・医療者が話し合うアドバンス・ケア・プランニングの取り組みがスタートしています。そこでの看護の役割は「意思決定支援」にあるのですが……。

そこでも書きましたが、アドバンス・ケア・プランニングとは、病気の種類や年齢に関係なく、余命わずかとなった自らの人生の最終章を想定して、自分はどのような治療やケアを受けたいか、どのような治療は受けたくないかについて、患者が自らの考えをまとめ、家族や看護師ら医療スタッフと話し合いをもって合意を取りつけていく取り組みのことです。

今やその取り組みは、病院や在宅ケアの現場において、徐々に普及してきているようです。
先日、このアドバンス・ケア・プランニングを、終末期における意思決定支援として意図的に進めている看護師さんと訪問看護師さんを取材させていただく機会がありました。

その際彼女たちは、患者さんからご自分の最期のときについて考えていることを聞き出すのはそう簡単ではないと、一様におっしゃっていました。

特に在宅ケアの現場では、訪問を重ねていくなかで、患者さん本人が終末期に望んでいることと、家族の考えが違うようだと気づくことが少なからずあるとのこと。その際、本人同士で話し合ってもらえるように働きかけるそうですが、双方がお互いの気持ちをおもんばかって、なかなか本音を口にしてもらえず、悩むことが多いと話してくれました。

そのようなときこそ、今回紹介する「もしバナゲーム」が役立つのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

カードを選ぶ作業を通じて
「大切にする価値観」を認識していく

さてその日本版「もしバナゲーム」ですが、1セットに36枚あるカードのうちの、35枚を使ってプレーします。残りの1枚は、他のカードに代用可能なワイルドカードです。

カードには、「家族と一緒に過ごす」「家族の負担にならない」「機器につながれていない」「痛みがない」「不安がない」など、深刻な病を発症ないし、長年にわたり抱えている病気が重症化するなどして自分自身、あるいは家族が余命は短いと察したり告げられたリした時に「大切なこと」として口にすることの多いフレーズが記載されています。

日本版「もしバナゲーム」の制作者は、4人でプレーすることを推奨しています。
その場合のプレー方法としては、まず各プレーヤーに手札として5枚ずつカードを配り、さらに場のセンターに場札として5枚のカードを表向きに並べ、残りのカードは積み札として、5枚並んでいる場札のセンターに裏向きにして積んでおきます。

そのうえでプレーヤーは、自分の手札のなかから不要なカード、つまり自分の価値観とは異なる、あるいはあまり大切とは思わないことが書かれているカードを1枚捨て、代わりに並んでいる場札のなかから自分の価値観に近いことが書かれているカードを1枚選んで、新たな手札にします。

この方法でプレーをしていくなかで、たとえば「痛みがない」と書かれたカードを拾いながら、「やっぱり痛みだけはとってほしいですよね」と話す人がいるかと思えば、「いや、私の場合は、呼吸が苦しいのだけは勘弁願いたい」とつぶやきながら「呼吸が苦しくない」と書かれたカードを拾う人がいたりするわけです。

さらには、それを聞いて「呼吸が多少苦しくても、呼吸器につながれた状態で延々と生かされるのはごめんですなぁ」と話しながら、5枚ある場札のなかから「機器につながれていない」と書かれたカードを拾う――。

このようなプレーを進めていくなかで、自分が大切にしている価値観を新たに認識し、同時に別のプレーヤーの価値観についても理解を深めていくきっかけともなっていく、というのがこのゲームの狙いどころのようです。

いのちの終わり方について考える
きっかけづくりを看護師に期待

アドバンス・ケア・プランニングについては、先にコチラの記事で書いたように、「私の終末期はこんなふうにしたい」ということを事前に考えて整理し、書き留めておけるようにと、個々の病院や自治体などが、独自の「事前指示書」や「エンディングノート」などを用意するようになっています。

なそんななかで、生命倫理研究者にして内科医師でもある箕岡真子氏が、2006年という早い時期に著した『「私の四つのお願い」の書き方―医療のための事前指示書』(ワールドプランニング)などが、もしもの時に備えて「自分がどうしてもらいたいか」を家族や友人に書き残す書として、静かな人気となっているようです。

看護サイドでも、たとえば北海道の看護研究チームが『医療事前指示書:私への医療・私の終末期はこうしてほしい』(ナカニシヤ出版)を作成して、患者本人や家族に考える道筋を示し、終末期の意思決定を支援するツールとして活用されているようです。

ただ、これらの指示書やノートを購入はしたものの、まだ生きているのに「死んでいくとき」について考えるのは「縁起でもない」と、考えること自体に抵抗を示す人も少なくないようで、「買ったままになっている」という話をよく聞きます。

そんな方に、この「もしバナゲーム」の活用を提案し、ゲームを楽しみながら、いのちの終わり方、人生の締めくくり方についてオープンに考える風潮を根づかせることができたら、日本人の終末期も少しは変わってくるのではないかと思ったりしています。