退院前訪問指導で
患者の在宅での生活をイメージする
このブログでは記事をまとめるに際し、何人かの現役医師や看護職の方々に相談かたがた情報提供をお願いしたり、公開する記事内容に間違いがないかどうかチェックしていただいたりしています。すでに何回かご登場願っているW看護師も、そのなかのお一人です。
彼女は、退院調整という呼び名が一般的だった頃からずっと入退院支援を専任で担当し、そのキャリアは10年余になります。先日、このW看護師から、「退院前訪問指導を行っている看護師はまだ少ないようですが」で始まるこんなメールが届きました。
「患者が退院していく先の療養環境や家族の介護力などを事前に確認しておけば、在宅での療養生活をイメージしながらその方の生活にマッチした退院支援を行うことができます。診療報酬で評価の対象にもなっていますから、是非取り組んでいただきたいのですが……」
おっしゃる通り。退院前に患者宅を訪問して行う指導については、2018(平成30)年度の診療報酬改定において加算条件が大幅に改定され、看護師が訪問して指導を行った場合にも「退院前訪問指導料」として580点を算定できるようになっています。
これを受け、病院側から勧められるから退院前訪問指導を試してみたい、という看護師さんの声が私のもとにも届くようになっています。
しかし、具体的な情報がいまだ限られていることもあり、記事にすることを躊躇していたのですが、W看護師の「私も協力するから」との声に背中を押され、ひとまずこれまでに知り得たことをまとめてみたいと思います。
退院前訪問指導は
療養環境の整備から始まった
調べていてちょっと驚いたのですが、わが国の診療報酬体系に「退院前訪問指導料」が新設されたのは、およそ30年前の1990(平成2)年のこと――。
しかも退院して自宅に戻る予定の患者が円滑に在宅生活に移行できるように、退院前に患者宅を訪問し必要な指導を行うというねらいは当初から同じでしたが、訪問先における指導内容は、多少変化してきています。
当初は、患者の歩行能力などのADLに応じて、室内の段差を解消するとか、手すりを取りつけるといった住宅の改修を提案すると同時に、その居住環境に応じた動作指導や生活指導を行うことが中心だったようです。
このような指導内容から、退院前訪問指導料を算定できるのは、理学療法士と作業療法士による退院前訪問指導に限られていました。
その後、訪問指導の担当者にケアマネージャーやホームヘルパーなど、介護保険サービスを提供する中心スタッフや訪問看護師が加わるようになり、2018(平成30)年度の改定に伴い、病院看護師や保健師が訪問指導を行った場合にも算定できるようになっています。
「退院前訪問指導料」については、2018(平成30)年度の診療報酬改定に関する厚生労働省の通知において次のように説明されています。
「入院期間が1月を超えると見込まれる患者の円滑な退院のため、入院中(外泊時を含む)または退院日に患家を訪問し、患者の病状、患家の家屋構造、介護力等を考慮しながら、患者またはその家族等、退院後に患者の看護に当たる者に対して、退院後の在宅での療養上必要と考えられる指導を行った場合に算定する」
退院前訪問指導の対象は
1か月以上入院し自宅に戻る患者
退院前訪問指導料算定の対象となるのは、継続して1か月を超えて入院し、退院後は自宅に戻ると見込まれる患者です。
退院後に、自宅ではなく、特別養護老人ホームなど施設への入所を予定している患者の場合は、仮に、退院先からの要望により退院前訪問指導を行うことがあったとしても、算定の対象外となります。
また、退院前訪問指導料(580点)は、訪問先において指導を行う対象が患者本人なのかその家族なのか、あるいは家族に代わる介護キーパンソンなのか等にはいっさい関係なく、一律「1回の入院中に1回」と決められています。
ただ、時には入院後の早い時期(入院後14日以内)に退院前訪問指導の必要ありと判断して直ちに訪問指導を行うこともあるでしょう。このような場合は、その結果を踏まえ、在宅での療養生活に向けて最終調整を行うために再度訪問指導を行うこともあり得ます。
その際は、指導の実施日に関係なく退院日に2回分(580点×2)を算定できるようになっています。いずれの訪問の場合も、担当者には、以下が求められています。
- 指導した内容についてその要点を診療録に記載する
- 実施に当たっては、最寄りの訪問リハビリテーション事業所の担当者に連絡するなど、その地域が実施している訪問事業との連携に十分配慮する
退院前訪問指導には
患者サイドの同意が不可欠
W看護師は、退院支援を進めていくなかで以上の点を念頭に置きつつ、退院先の療養環境をあらかじめ確認しておく必要があるかどうかを考えるようにしているとのこと。
そのうえで、以下の条件に該当するなど、退院前に訪問して療養環境を確認し、住宅改修など必要な整備をしておく必要があると判断した患者については、その旨を真っ先に退院支援チームの仲間に伝えて意見を求めるそうです。
- 退院後も在宅酸素、栄養注入ポンプなどの医療機器を使用する
- 吸引や経管栄養などの医療的ケアが引き続き必要
- 独居あるいは高齢者だけの世帯で介護力に不安がある
この話し合いにおいて、退院前の訪問指導が必要と話がまとまれば、患者の担当医と看護部長にその旨を報告。両者の了解を得たうえで、患者本人か家族に訪問の主旨や費用のこと、個人情報に関する秘密保持を厳守することなどを伝えて了解を求め、簡単な同意書*に署名していただくようにしているとのことです。
既定の書式はないが、一例として、ネット上で公開されている八尾市立病院の「退院前訪問指導についての同意書」を紹介しておきます(こちらのP.3)。
費用に関する説明も忘れずに
ちなみに、退院前訪問指導料の患者負担額は、健康保険の自己負担割合に応じて、「1割負担は580円、2割負担は1,160円、3割負担は1,740円」となり、退院日に入院費用として請求されることになります。この点についても説明をお忘れなく!!
なお、訪問時の主な確認事項としては以下があげられます。
- 退院後の患者が長い時間を過ごす居室としてはどこが適当か
- 退院後の患者が必要な医療処置やケアを受けながら療養生活をおくるうえで支障となる環境はないか、どのように工夫すればいいか
- 患者自身や家族が不安に思っていることは何か
このうち「2」の患者の状態に見合った療養環境を整えるうえで何らかの福祉用具が必要と判断した場合は、福祉用具専門相談員と連携することもあるそうです。
退院後訪問指導についてはこちらを参照してください。