退院支援における福祉用具専門相談員との連携

福祉用具の車いす
令和6(2024)年度介護報酬改定により、介護保険適用の福祉用具の一部について貸与(レンタル)と販売(購入)の選択制が導入されています。つまり、借りて使うか、買って使うかの選択を利用者が選べるようになっているのです。選択の判断は利用者の意思決定に基づくことになりますが、選択制導入の対象となる福祉用具(固定用スロープ、歩行車を除く歩行器、松葉杖を除く単点杖、多点杖)の利用者に対しては、担当医やケアマネジャー、福祉用具専門相談員等がメリットやデメリットを含む十分な説明と、利用者の身体状況等を踏まえた提案などを行うことが求められています。

退院支援における生活の再構築に
福祉用具専門相談員との連携を

「福祉用具専門相談員」という公的資格があるのをご存知でしょうか。たとえば脳卒中(脳血管障害)発症後の患者は、脳卒中の原因となった基礎疾患に加え、何らかの身体的な機能障害を抱えることが多くなります。

そのため退院後に向けた支援では、病前の生活スタイルや、場合によっては職業など、生活全般にわたる立て直し、つまり「生活の再構築」が必要となります。その際には、患者のQOLをより高める手段として、各種福祉用具の利用が欠かせなくなるのですが、そのときに活躍するのが福祉用具専門相談員です。

最近は、退院支援の一環として行われる退院前カンファレンスに、福祉用具専門相談員が参加するケースが増えていると聞きます。彼らの各種福祉用具の選択や使用方法に関するアドバイスは非常に的確で、実際に彼らのアドバイスを受けた患者や家族からは「心強い」との声が多数聞かれるようになっています。

そこで今回は、この福祉用具専門相談員の立場や役割、連携の在り方などについて、退院支援の観点からまとめてみたいと思います。

在宅で療養生活を送る患者の住環境の整備には、「福祉住環境コーディネーター(FJC)」がかかわることがあるが、2019年度からは、彼らも福祉用具専門相談員と連携して活動を展開している。

自立促進と介護負担の軽減に
的確な福祉用具の選択を

福祉用具専門相談員は、介護が必要な高齢者(居宅要介護者・居宅要支援者)が在宅において福祉用具を利用するにあたり、本人の希望や心身の状態、介護状況、生活環境などを踏まえつつ、本人の自立促進と介護者の負担軽減の観点から、福祉用具の選び方や使い方について専門的なアドバイスを行う専門職です。

彼らの活動はすべて、ケアマネジャーが作成するケアプランに基づき、介護保険サービスの一環として行われます。そのため、入院中の患者について福祉用具専門相談員と連携する際は、サービスを利用する患者が介護保険の要介護認定を受けていることが条件となります。

また、福祉用具専門相談員の勤務場所は、介護保険の指定を受けている「福祉用具貸与・販売事業所」となります。各事業所には常勤換算で2名以上の福祉用具専門相談員を配置することが義務づけられていて、2017年10月1日時点の調査では、1事業所当たりの福祉用具専門相談員従事者は3.7人となっています。

保健師・看護師・准看護師も
福祉用具専門相談員の有資格者

福祉用具専門相談員として活動するには、2通りの道があります。

1つは、国が定めたカリキュラムのもとに都道府県知事が指定する研修事業者が実施する「福祉用具専門相談員指定講習」を受講し、受講後に行われる修了試験(学習内容の習熟度をチェックする筆記試験)に合格して資格を取得する方法です。この講習はトータル50時間で、以下の点が主な講習内容となっています。

  1. 介護保険制度に関する基礎知識
  2. 高齢者のこころと身体の特徴や日常生活の特徴
  3. 高齢者介護・医療・リハビリテーションに関する基礎知識
  4. 高齢者の住環境と住宅改修
  5. 個別の福祉用具の特徴、活用に関する知識・技術
  6. 福祉用具貸与や保険給付のしくみ

この「指定講習会」の開催日などについては、全国福祉用具専門相談員協会の公式ホームページで確認することができます。

福祉用具専門相談員スキルアップ講座の活用を

もう1つの道として、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、義肢装具士、社会福祉士の有資格者は、その資格だけで福祉用具専門相談員としての業務を行うことができます(2015年の制度改正によりホームヘルパーは対象から外れている)。

ただし、上記の有資格者であっても、福祉用具の利用に関する知識不足を自認する方もいるでしょう。その場合は、たとえば福祉保健財団などが福祉用具専門相談員のスキルアップのための講習会を随時開催していますので、受講を検討してはいかがでしょうか

貸与の対象となる福祉用具と
保険給付の対象となる福祉用具

介護保険で貸与(レンタル)の対象となる福祉用具は、要介護者あるいは要支援者の日常生活の便宜を図るための用具、および要介護者、要支援者の機能訓練のための用具で、在宅で利用者本人が使用することが条件となります。具体的には、以下が対象となります。

  1. 車いす(クッションなどの付属品を含む)
  2. 特殊寝台(サイドレールが取り付けてあるもの、マルチポジションベッドなど)
  3. 床ずれ防止用具(エアーパットなど)
  4. 体位変換器
  5. 手すり
  6. スロープ
  7. 歩行器
  8. 歩行補助杖
  9. 認知症老人徘徊感知器
  10. 移動用リフト(つり具の部分は保険給付)
  11. 自動排泄処理装置

貸与になじまない福祉用具は購入(保険給付)の対象に

一方、利用者が居宅において自立した日常生活を営むことができるよう助ける福祉用具のなかには、利用者の肌が直接触れる、あるいは使用により形状・品質が変化するなどして貸与になじまないタイプの用具類もあります。

これらについては、購入費に対する保険給付(年間10万円を限度に購入費の9割までが支給される)の対象となっています。この保険給付の対象となる主な福祉用具(「特定福祉用具」と呼ばれている)としては、以下があげられます。

  1. 腰掛便座(ポータブルトイレなど)
  2. 入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴台、入浴用介助ベルト、浴室内すのこ、浴槽内すのこ)
  3. 簡易浴槽
  4. 自動排泄処理装置の交換可能部分
  5. 移動用リフトの釣り具の部分(リフトの本体は貸与)
  6. 排泄予測支援機器(膀胱内の状態を感知して尿量を推定し、排尿のタイミングを本人または介護者に通知するもの。2022年4月より)

ただし、介護保険給付の対象となるのは、介護保険指定事業者から購入した福祉用具に限られ、指定を受けていない事業所などから購入した場合は給付対象から外れます。したがって、これらの福祉用具を購入する際には注意するようにアドバイスが必要です。

なお、2022年4月より介護保険給付の対象になった排泄予測支援機器については、対象者等の詳細をこちらで紹介しています。

膀胱内の状態を感知して尿量を推定し、排尿のタイミングを通知してくれる「排泄予測支援機器」が介護保険給付の対象になった。この機器を活用すれば、おむつから解放されトイレでの排尿も可能に。膀胱機能が正常であることや排尿自立への意思があること等の条件をまとめた。

人気のマルチポジションベッドも介護保険給付の対象に

また、このところ在宅療養者に人気と聞くマルチポジションベッドについては、介護保険給付の条件等、こちらで詳しく解説しています。

患者のいるあらゆるところで求められる離床支援。特に訪問先であったりすると、1人で患者を坐らせたり、立たせたりするケアが腰痛の原因ともなりがちだ。この離床支援の強力な助っ人になるとして注目を集めている、フランスベッド社の「マルチポジションベッド」を紹介する。

参考資料*¹:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」P.22

参考資料*²:福祉用具専門相談員指定講習会