患者の意思決定を支援する「ACP相談員」に

意思決定

「ACP相談員」は
意思決定支援のキーパーソン

わが国の医療現場においてアドバンス・ケア・プランニング(ACP:愛称「人生会議」)の取り組みがスタートして、すでに7年余りになるでしょうか。

終末期に受ける医療やケアに対する患者本人の意向を確認できないままに人生を終わらせてしまうようなことを避けるうえで、患者に対する事前の意思決定支援をしておくことの重要性は、医療関係者なら身にしみて感じていることでしょう。

そこでACPの取り組みが始まったわけですが……。

緩慢な歩みではあるものの普及が進むなかにあって、真に患者の意向を尊重しながらACPを進めていくための課題が、ここにきていくつか見えてきたようです。

とりわけ重要視されているのは、患者がこの先の生き方や人生の終わり方に対する自分の思いに正直に向き合い、その思いに沿った意思決定ができるように支援する役割を担う、いわゆる「相談員」の存在ではないでしょうか。

そこで今日は、この「ACP相談員(ファシリテーター)」について書いてみたいと思います。

ファシリテーター役を担う
厚生労働省の「ACP相談員」

ACPの定義についてはさまざま報告されています。

そのなかで、2019年6月に日本老年医学会が公表した「ACP推進に関する提言」*¹ではACPを、従来言われてきた「終末期の医療・ケア」に限定することなく、「将来の医療・ケアについて、本人を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセス」と定義しています。

「本人を人として尊重した意思決定の実現」とは、少々難解な表現ですが、平たく言えば「本人の意思を把握して、その意思に沿った医療・ケアが実現するように支援する」ということになるでしょうか。

事前指示書による意思確認には限界が

このなかの「本人の意思を把握する」手段の1つに「事前指示書」があります。

しかしこの事前指示書については、病状の変化などにより本人の意思が変わることがあっても、その都度指示内容を書き替える人はごくまれで、いざというときに役立たない、といった問題のあることが指摘されています。

継続的な話し合いを通して意思確認を

そこで提言では、ACPにおいては事前指示書という文書に全面的に頼るのではなく、「本人、家族等と医療ケア従事者が継続的に話し合い、それにより本人の価値観や意向を知り、本人の意思を尊重した医療、ケアを目指す」ことを求めています。

この「継続的な話し合い」において、本人の意思を引き出して意思決定を支援し、ACPを推進する役割として設置が求められているのが「ACPファシリテーター」です。

厚生労働省はこれを「ACP相談員」と呼んでいます。

E-FILDプログラムによる
ACP相談員の研修事業

厚生労働省は2014年度から、ACPの普及啓発、ひいては医療現場で患者の意思決定支援ができる体制を構築することを目的に、「人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業」*²を進めています。

この事業の一環として、ACP相談員の研修事業を、神戸大学(2022年度は筑波大学)に委託して行っています。

同研修は、国立長寿医療研究センターの三浦久幸医師(老年内科・在宅連携医療部長)らが、2014年に開発した「意思決定支援教育プログラム(E-FILD:Education For Implementing End-of-Life Discussion)」を活用して行われています。

この研修プログラムは、2018年に改定された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づいて作成されています。

その内容は、施設内の多職種によるACP実践チームを対象に、1日約8時間の講義&グループワーク&ロールプレイにより、概ね以下の内容を受講することになっています。

⑴ 患者本人の意思決定する力を考える
⑵ 患者本人の意思の確認ができる場合の進め方
⑶ 患者の考えを推定する
⑷ 患者にとって最善の方針について合意する
⑸ 多職種チームで患者の方針について検討する

ACP相談員研修会は
多職種チームでの受講が条件

ACP相談員の研修を受講するには、以下2点の事前学習が求められています。

  1. 事前に、「人生の最終段階における医療・ケアの意思決定支援に関するガイドライン」を熟読しておく
  2. 「臨床における倫理の基礎」「意思決定支援に関連する法的な知識」などに関する事前学習課題をクリアする

加えて、以下の参加条件すべてを満たすことが求められています。

  1. 各医療機関*において、人生の最終段階における医療・ケアに関する意思決定に携わっている医師を含む多職種チーム(2名以上4名以下)で参加できること
  2. 上記の医療従事者等は、原則として、研修会受講時点において、人生の最終段階における医療・ケアに携わる者としての経験が3年以上であり、かつ研修終了後も引き続き、当該医療・ケアに携わる予定であること
  3. 研修修了後、本事業に協力し、各医療機関等において「人生の最終段階における患者の意向を尊重した意思決定支援」を実践すること
  4. 本事業にかかる調査や研究等に協力すること
  5. 本研修を修了したことについて、厚生労働省及び都道府県に対して、氏名、所属及び連絡先と併せて報告することに同意すること*各医療機関とは、診療所・訪問看護ステーション・介護老人福祉施設等が連携し、多職種チームとして参加することが可能。

(引用元:人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業*¹)

なお、2022年度上記研修会の開催スケジュール等の詳細は、筑波大学のホームページ「人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業」―「本人の意向を尊重した意思決定のための研修会 相談員研修会」開催のお知らせ*²をご覧ください。

今後の開催については、随時この記事でお知らせしていく予定ですが、開催に備え、上記の事前学習に励んでみてはいかがでしょうか。

ACP事例集からACP相談員の活動を知る

日本老年医学会の「ACP事例集」には、個々の事例を担当したACP相談員のファシリテートの実際がまとめられていて参考になります。

ACPの対象で圧倒的に多いのは高齢者だ。高齢者の医療・ケアを専門領域とする日本老年医学会は、先に「ACP推進に関する提言」と併せ、提言に沿ったACPの実践例を集めた事例集を発表していた。最近そこに新事例が加わったのを機に、その概要をまとめた。

ACPの啓発用に作成された
人生会議の短編ドラマ

なお、広く一般には「人生会議」の愛称がなじみのACPについては、その啓発に役立てようと、神奈川県横浜市が市民向けに「人生会議」の短編ドラマを作成し、公表しています。

世代別に、俳優の竹中直人さん主演の「高齢期編」と、女優の高島礼子さん主演の「壮年期編」の2作品があります。

一般の方々が人生会議をどのようにとらえているかは、ファシリテーターには是非知っていただきたいことでもあり、こちらに紹介させていただきます。

国立がん研究センターが発表した調査結果にがっかりした方は少なくないだろう。終末期の療養場所や蘇生処置について患者と医師との話し合い、いわゆる人生会議がもたれた割合のあまりの低さにだ。折しも横浜市は、人生会議啓発のための短編ドラマを制作している。その紹介を。

参考資料*¹:日本老年医学会「ACP推進に関する提言」

引用・参考資料*²:令和4年度厚生労働省委託事業 人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業「本人の意向を尊重した意思決定のための研修会 相談員研修会」開催のご案内