介護疲れの奥さんのために
患者をレスパイト入院させたい
「レスパイト入院」という言葉を初めて耳にしてから、もうずいぶんになります。ALS(筋萎縮性側索硬化症)に関する取材が終わった後の雑談のなかで、神経難病の専門医が、ふと思い出したようにこんな話をしてくれたのです。
「僕が今担当しているALSで在宅療養を続けている方の奥さんが、どうも介護疲れのようでね。患者をレスパイト入院させて、奥さんを休ませてあげたいと思い、ケアマネさんに受け入れ先を探してもらっているのですが、これがなかなか見つからなくてね……」
「えーっ、レスパイト入院なんて言葉があるんだ……」と、一瞬思ったものの、そのときはそのまま聞き流していました。ところが先日、訪問看護師の友人とのおしゃべりのなかに、またこの言葉が出てきたのです。
「地域包括ケア病棟ができて、レスパイト入院を受け入れてくれる施設が以前より増えたのはよかったけど、まだまだ足りない……」
こう話すのを聞いて、「レスパイト入院についてこの際きちんと知っておきたい」と思うに至り、調べてみましたので、今回はこの話を書いてみたいと思います。
レスパイト入院は
ショートステイの医療保険版
地域包括ケア病棟には3つの役割を兼ね備えることが期待されている、という話を先に書きました。以下の3つですが、レスパイト入院は、このなかの「2」に該当します。
- 急性期治療を経過した患者の受け入れ
- 在宅で療養している患者の緊急時の受け入れ
- 在宅への復帰支援
レスパイト(respite)という英語には、「休息」とか「一時休止」あるいは「息抜き」といった意味があります。このことから考えると、「レスパイト入院」とは介護者が一時の休息をとるために患者の一時的入院を引き受けるサービス、と理解することができます。
介護保険に「ショートステイ」、正確には「短期入所生活介護」と呼ばれるサービスがあることはご存知と思います。レスパイト入院は、このショートステイの医療保険バージョンと考えるとわかりやすいと思うのですが、いかがでしょう。
医療的かかわりが必要で
ショートステイを利用できない
介護保険のショートステイとは、要介護認定で「要介護1」以上の認定を受けた利用者が、特別養護老人ホームなどの施設に短期間(1か月につき最長30日まで)入所して、食事や入浴など日常生活上必要な介護や機能訓練を受けることができるサービスです。
このサービスを利用すれば、在宅で利用者の介護を日々担っている方は、一時的とは言え、利用者が入所している間は介護から解放され、このことが介護負担の軽減につながります。
また、介護者は空いた時間を自分の趣味に没頭するなどして心身ともにリフレッシュして、気持ちも新たに介護に取り組むことができるようになります。
ところが、在宅療養をしている患者が要介護認定により「要介護1」以上の認定を受けていても、経口摂取ができないために経管栄養を受けているなど、医療的なかかわりが必要な場合は、ショートステイの対象から外れてしまいます。そこで、必要となるのが「レスパイト入院」という医療サービスです。
レスパイト入院の条件は
医療的管理は必要だが病状は安定
レスパイト入院の対象となる患者は、受け入れ先の医療機関により違いがありますが、一般に、以下のような医療的管理が連日必要ではあるものの、病状自体は安定していること、またかかりつけ医の紹介状があることが条件となります。
- 胃瘻や経鼻、点滴による栄養補給を受けている
- 人工呼吸器を使用している
- 気管切開をしている
- 在宅酸素療法を受けている
- 褥瘡処置が必要である
また、診療報酬ではレスパイト入院の期間を「原則2週間」としています。加えて、次回のレスパイト入院については退院から3か月程度空けること、との条件を設けている医療機関が多いようです。
レスパイト入院には医療保険が適用されます(地域包括ケア病棟入院料)。ただし、入院中の食事やおむつ代、差額ベッド代などは保険適用外で患者負担となること、また医療費の自己負担分が高額になった場合は高額療養費制度を利用できることも患者側に伝えておくことをお忘れなく。
レスパイト入院は社会的入院ではない
なお、レスパイト入院は、介護者の休息目的に加え、身内や友人などの冠婚葬祭や出張、あるいは旅行などにより一時的に在宅介護から離れる場合にも、利用できる制度です。ただし、いわゆる「社会的入院」とははっきり区別する必要があります。
社会的入院とは、医学的には入院して治療を続ける必要がなく、在宅療養が可能な状態であるにもかかわらず、介護の担い手がいないなどの家庭の事情や引き取り拒否などにより長期間入院を続けている状態、つまり退院を前提としていない入院のことを言います。