ACPで話し合っておきたい
意思決定の代理人
人生の締めくくりとなるこれからの生き方、とりわけ「もしものときのこと」を、患者本人と家族、そして医師をはじめとする医療・介護の関係者らが話し合うアドバンス・ケア・プランニング(ACP:愛称「人生会議」)――。
この場で話し合う内容は、大きく二つあると考えられています。一つは、この先病気になったとき、とりわけ「もしも」のときに自分としてはどのような医療やケアを受け、どのようなかたちで人生の幕を閉じたいのかという具体的な話です。
「可能なかぎり生命を維持したいから、あらゆる延命治療を望む」という方もいれば、「痛みや苦しみはできるだけ和らげてほしいが、延命だけを目的とするような治療は受けたくない」と意思表示する方もいるでしょう。
自分自身で自分のことを決められない
このとき同時に話し合っておきたいのが、二つ目の「代理意思決定者」、いわゆる「代理人」に関する話です。認知症などにより自分で自分のことを決められなくなったときに、自分に代わって誰に意思決定をしてもらいたいかということです。
これまでACPの取り組みについて、いろいろな立場の方から話をうかがってきました。その内容を振り返ってみると、「もしものときにどうしたいか」ということについては、みなさんよく話し合っているようでした。
ところが「誰に自らの意思決定を代わってもらいたいか」という代理人に関することは、あまり話題にあがっていないように思います。
そこで今回は、ACPにおいて欠かせないテーマである「意思決定の代理人指示」についてどう話を進めていけばいいのか、その際留意すべき点はどのようなことか、という点に話を絞り書いてみたいと思います。
意思決定できなくなったときに
代わって意思を伝えてくれる代理人
ACPについて患者・家族に説明する際に活用する手引きは、全国で数多く公開されていますが、そのなかから「使い勝手がいい」と好評の2点を紹介する記事を書きました(こちら)。
そこでは2点目として、全国に先駆け県レベルでACPへの取り組みを始めている広島県の例を紹介しましたが、そこでは代理人について次のように説明しています。
Step3 あなたの代わりに伝えてくれる人を選びましょう
予期しないできごとや突然の病気で、自分の希望を伝えることができなくなるかもしれません。認知症などでは、医療やケアについての希望を伝えたり、選択する能力が少しずつなくなることもあるでしょう。
あなた自身で意思決定できなくなったときに、あなたに代わって意思を伝えてくれる人(代理人)を選んでおくことが大切です。
その代理人は家族でも親しい友人でも構いませんが、信頼して任せることができる人にお願いし、あなたの希望や思いをしっかり伝えておきましょう。
■複雑で困難な状況でもあなたの希望や思いを尊重して判断できる人を選びましょう。
■必要だと思うあなたの周囲の人に、代理人を紹介しましょう。(引用元:広島県地域保健対策協議会「ACPの手引き」*¹)
信頼できる代理人を選択し
気持ちを率直に伝えておく
また、先の記事では、厚生労働省のホームページにある神戸大学医学部のプロジェクトチームが作成した「これからの治療・ケアに関する話し合い―アドバンス・ケア・プランニング」と題するパンフレットを紹介しています。
そこには、厚生労働省が先に策定した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づいたACPの進め方が5ステップで示されています。
そのステップ2に「信頼できる人が誰かを考えてみましょう」とあります。続いて、いざというときに「あなたの考えや好みが尊重され」、ときに「あなたの考えを想像して、不確かなまま決めざるを得ない、医療代理人の気持ちの負担を軽くする」ためにも医療代理人をあらかじめ決めておくことが重要だとしています。
そのうえで、医療代理人の考え方が次のように書かれています。
誰があなたの価値観や考え方を大切して、それに沿った話し合いをあなたの代わりにしてくれるかを慎重に考えて下さい。それは、きょうだいかもしれませんし、成人したあなたのお子さんかもしれませんし、信頼できる家族や友人のこともあります。
医療代理人は1人である必要はありません。例えば、妻と長女で話し合って決めてほしい、などのように、複数の人となることもあるでしょう。
その方にあなたの気持ちを率直に伝えましょう。・医療代理人としては以下のような人が考えられます
1)配偶者(夫、妻)
2)子ども
3)きょうだい
4)親戚(姪・甥など)
5)友人・知人(引用元:厚生労働省「これからの治療・ケアに関する話し合い」*²)
さらに『終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで 現場でともに考える』(メディカルサイエンスインターナショナル)の第11章「代理意思決定者には誰がなるのがふさわしいか」では、「患者の価値観を尊重した意思決定をしていくために」、また「意思決定能力が不完全で、代理意思決定者が不在のとき」について詳しく解説してあり、参考になります。
意思決定の代理人に
家族を選ぶときの留意点
ACPにおける意思決定の代理人として、多くの方がとっさに頭に思い浮かべるのはやはり「配偶者(夫、妻)や子ども、きょうだい」などの家族でしょう。
医療現場でも、まず第一に尊重するのは患者の意思ですが、認知症などにより患者本人の意思決定能力が低下、あるいはなくなっているケースでは、「家族の意向」を求めることが多いのではないでしょうか。
ただし、一口に「家族」といっても実態はさまざま。毎日一緒に生活している家族なら、患者の価値観や人生観をよく理解しているだろうから、患者の身になって最善の選択をしてくれるはずだと考えがちですが……。
必ずしもそういう家族ばかりではなく、患者のためというより自分にとって都合のいい選択をするケースも、数は少ないながらも、あるのではないでしょうか。たとえば、介護に疲れ切っていて、早く今の状態から抜け出したいと考える家族、逆にどのようなかたちであれ患者が生きてさえいれば年金を受け取れるから、できるだけ長生きしてほしいと考える、等々……。
同居の有無に関係なく
いささか気の滅入る残念な話ですが、このような家族も存在するだろうことを念頭に置きつつ、同居しているいないに関係なく、家族の中でも特に気が合い、深いつながりを感じているメンバーを選べるようにアドバイスしてみてはいかがでしょうか。
そもそも「家族とは」という基本的なことを自分なりに整理しておく必要がありそうですが、この辺の話は「意思決定支援における家族の定義は?」を読んでみてください。
なお、ACPにおいて意思決定の代理人を決めておきたいが、肝心の家族がいない、あるいは家族と疎遠になっていて連絡が取れない、意思決定を託せるほど親交の深い友人も知人もいないといったケースもあるでしょう。
このような場合に意思決定を託せる成年後見人などの「法的後見人」や「法的代理人」に関する話は、「身寄りがない人の意思決定支援にガイドライン」を参照してください。
参考資料*¹:広島県地域保健対策協議会「ACPの手引き」
参考資料*²:厚生労働省「これからの治療・ケアに関する話し合い」